幻想的な「ホタルイカの身投げ」を見に富山湾へ。とって食べてみた
「ホタルイカの身投げ」という現象をご存じでしょうか?
早春から晩春にかけ、富山湾の深海底にすむホタルイカたちが産卵の時期を迎え、一斉に岸に押し寄せ、やがて打ち上げられます。これが「身投げ」です。ホタルイカの発光器は刺激を受けると光るのですが、打ち上げられる際にパッと青白く光り、とても幻想的な光景を醸し出します。「身投げ」は「ホタルイカ群遊海面」として国の特別天然記念物にも指定されています。
一方でホタルイカといえば春を彩る美味のひとつ。鮮度が落ちやすく、とれたてが一番うまいとされているため、真のおいしさは産地に行かないと味わえません。
さらに、「身投げ」の見られる海岸では、一般の人でも岸に押し寄せるホタルイカを網ですくってとることができるのです。
美しく光るホタルイカを自らすくいとり、鮮度抜群なまま調理すれば、信じられないほどおいしいのではないか……。
ということで、美しい光景と究極なる美味にありつくべく、富山へと向かいます。
ハンターが集まる釣り具店でホタルイカのとり方を教わる
JR東京駅からJR富山駅までは北陸新幹線「かがやき」でたったの2時間ちょい。駅前でレンタカーを借り、向かったのは車で約10分の「つり具の上州屋 富山千代田店」。
上州屋は全国チェーンのつり具店ですが、富山千代田店では2月~5月のホタルイカの身投げ時期に関連グッズと情報が充実し、初心者からマニアまでが集う拠点となります。店長の森隆也さんに、とり方のコツなどを伺いました。
店長の森隆也さんと、ホタルイカ装備に身を固めたマネキン
ホタルイカはどんな場所で身投げするのでしょうか
東は魚津から西は伏木までの海岸に接岸します。漁港の岸壁は立ち入り禁止地区なども多く、浜ですくうほうが安心して楽しむことができます。
たくさんの人が集まる海岸でイカをすくうには、浜辺で身投げを待つよりも海の中に立ち込む(※入って立つこと)のがよいでしょう。また、打ち上げられた個体は体内に砂をかんでいておいしくないので、食べるのであれば泳いでいる個体がおすすめです。
すくうのに適したタイミングは?
新月の大潮がよいといわれていますが、干満の大きさにかかわらず、上げ潮(満潮に向かう時間帯)がよいと思います。
大事なのはむしろ天候で、荒天や雨天では、まずすくえないでしょう。
すくいやすいタイミング一覧
装備は、どんなものが必要でしょうか?
探し方のコツはありますか?
「“浜辺が青白く光る”ほどの大量の身投げを見られる確率はあまり高くない」とのことですが、天気が良ければホタルイカをすくうことはできるだろうとのことで、改めて期待が高まります。
接岸は基本的に夜なので、それまでは富山湾のおいしい魚介類を食べて待つことに。
氷見きときと寿司で富山湾の幸を堪能
訪ねたのは「上州屋 富山千代田店」から車で約10分の「氷見きときと寿司 飯野店」。富山を中心に中部地方に店舗を展開する「富山の地魚がおいしいお寿司屋さん」です。
生ホタルイカ
茹でホタルイカ酢味噌
ノドグロ(アカムツ)
クロダイ
白エビ軍艦
ホタルイカやノドグロ(アカムツ)のような富山湾の有名どころから、イワシ、クロダイに至るまですべてが地物で、水揚げ漁港までも明示。
もちろん鮮度は圧倒的によく、ネタのサイズも東京と比べ大きく、それでいて値段はリーズナブル。
こちらを訪問するために北陸新幹線に乗る価値は充分アリです。
寿司も北陸新幹線でやってきます
ホタルイカすくったどー!!
そんなこんなしているうちに夜になり、いよいよホタルイカすくいへ。向かったのは富山駅のほぼ真北、車で20分ほどの距離にある八重津浜。数日前に大規模なホタルイカの接岸があったところです。
すでにホタルイカを待っている人たちがたくさん
しかし、到着時は北風が吹き、沖の堤防を乗り越えるような強い波が押し寄せます。天気予報を確認すると、深夜から明け方にかけて南風に変わるとのことで、それを待つことに。
深夜2時ごろに車外に出ると、予報通り南寄りの風に変わっていました。波も幾分穏やかになり、胸が高鳴ります。
波に注意しながら海面を照らしていると……白く砕けた波の合間に、茶色く細長い枯れ葉のようなものが漂っているのが目に入りました。
これはっ!?
キター!!
ねんがんの ホタルイカを ゲットしたぞ!!
捕まえたホタルイカはくるくると色を変える
明かりを消すと青い光だけが見えて、とても美しい
その後も拾うようにすくい集め、徐々にバケツの中にホタルイカがたまっていきます。
電気を消し、バケツの中に手を入れると、ホタルイカは青い光を放って威嚇します。美しすぎて見とれてしまう……。
もしも大量身投げが起こっていたら、この写真のように浜辺中が青白く輝くことになっていたのでしょうが、それはまた次回以降の楽しみとしましょう。
とりたてホタルイカをしゃぶしゃぶで
ある程度すくったところで、お待ちかねの試食タイム!
憧れの現地食い
鍋に昆布と水を入れて沸かし、
箸でつかむと光る
バケツの中のホタルイカを箸でつかみ、そのまましゃぶしゃぶに。さっと色が変わり、なじみのあるコロッとした形状に変化します。
とりたてホタルイカのしゃぶしゃぶ
内臓までしっかり火が通るように、長めに1分ほどしゃぶしゃぶして、ポン酢でいただくと……。
……ッッツッ!!
プリプリとコリコリの中間的な身の食感は非常に心地よく、そこに濃厚で芳醇な肝の風味が絡んで、えも言われぬ美しい味わいに仕上がっています。関東では逆立ちしたって味わえない、強烈なおいしさ。
富山に来たかいがあった……。
身投げこそ見ることはできませんでしたが、波間に漂うホタルイカを見つけたときの興奮、「富山湾の宝石」の名に恥じない美しい光、そして感動的なおいしさ、どれも圧倒的な体験でした。
富山駅まで戻り、駅の近くのホテルに宿泊。明日は富山グルメをもうちょっと味わいます。
新湊で富山の新ブランド・高志の紅ガニを食べよう
翌朝、眠い目をこすって向かったのは、富山市のお隣、新湊(しんみなと)市にある道の駅「新湊きっときと市場」。富山駅からは車で約40分です。
カニが目印
ここでも新鮮な富山湾の幸が食べられますが、目当ては深海の紅葉ことベニズワイガニ。水っぽいとされ、長らくズワイガニの代用品として扱われてきましたが、柔らかくとろける舌触りと濃厚な味わいで、今ではかなりの人気があるとのこと。富山では、「高志(こし)の紅(あか)ガニ」という名前でブランド展開し、ホタルイカやシロエビに続く名産品としてアピールしているそうです。
高志の紅ガニ
食べてみると、水っぽさという表現は間違いであることに気づきます。
とろっと柔らかい身に含まれるのは、濃厚すぎるジューシーなカニエキス! 胴体、脚ともにたっぷりと身が詰まっており、食べごたえは充分。
旬は秋から晩春までと長く、ほかのカニよりもリーズナブルにその味わいを楽しむことができる「高志の紅ガニ」。富山に行ったらこちらも忘れず食べてみてください。
ホタルイカの接岸は例年5月ごろまでは見られるそうで、シーズンが進むにつれて南風の日が増え、出会える確率も上がってくるとのこと。
気になる人はぜひ北陸新幹線で富山に行って、網を持って海岸を訪れてみてください。
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