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星への愛は星に撃たれて死ぬこと、では、生きるのはどんな愛か?

星への愛は星に撃たれて死ぬこと、では、生きるのはどんな愛か?

 それは愛なのだろう。

 ボクは星を撃つために生まれた。だから星を愛する。このどうしようもない自明性。

 確実に星を撃つには、眼とライフルが万全でなければならない。だから、腕の良い整備工を愛する。星のつぎに。

 地球に星が降る。三十年ほど前、地上まで届く流星群によって甚大な被害が出た。あまり間を置かず、これからも流星群がやってくる。それに備えて、各国は協力して全地球規模での対策を講じた。衛星軌道に配置された無人迎撃艦隊、宇宙エレベータの頂上を結ぶレーザー網、そして、人工の眼を持ち指向性エネルギー兵器を操作する〈スナイパー〉。

 主人公の霧原は、軌道庭園(もともとは農業目的に開発された)に常駐する〈スナイパー〉だ。この物語は霧原の一人称で綴られている。〈スナイパー〉は生物的には人間だが、社会的には人間ではない。星の迎撃に特化して生まれ、初等教育を終えるとすぐに任務に就く。家族もいない。友人もいない。そもそも必要がない。そしてたいていは二十五歳ほどで任務を終える。多くは星に撃たれて死に、生き延びても身体が劣化して使いものにならなくなるのだ。

 ボクはすでに班のなかで一番の古株だ。しかし、まだ星を撃てる。整備工の神条がしっかりとメンテナンスをしてくれるから。神条は人間だが、ボクが星しか愛せないように彼も機械しか愛せないのだろう。ボクはそんなふうに、なんとなく思っていた。神条とはそんな話をしたことはないけれど。

 ボクが星に撃たれて死ぬまで、ずっと〈スナイパー〉と整備工の関係がつづくはずだった。よぶんなものが入りこまない、圧倒的な信頼関係。

 しかし、ふいに状況が変わる。

 ひとつは、ボクの前にあらわれた女医ハヤトだ。彼女はボクの眼を検査するという。眼は神条に調整してもらっているから必要ないと断ると、眼は医者の領分だと言ってさらに干渉してくる。〈スナイパー〉機構の上司にあたる水野も、これは業務命令だという。ハヤトも水野もしょせん人間だから、〈スナイパー〉のことがわかるわけがない。

 そして、これは任務とはまったく関係ないのだが、ハヤトは神条の元妻なのだ。ボクが知らない神条を、ハヤトは知っている。

 もうひとつは、テレビニュースが伝える政府の〈スナイパー〉削減案だ。ボクはバカげた案だと思う。ほかの迎撃システムは完璧ではない。流星群を確実に落とせるのは〈スナイパー〉だけだ。もっとも、それで地球が壊滅しようと、ボクは知ったこっちゃない。勝手に滅びろ。しかし、ボクは最後まで星を撃って死にたい。

 だって星たちはボクらに撃たれるために翔(か)けて来たんだ。長旅の最後は美しくありたいものだろう。
 美しい星に、青く輝く水を湛えた惑星に、抱き留められて死にたい。
 誰でもない。それこそがボクらの願いでもある。ボクらと星は、同じ最期を願ってる。それこそが、ボクと星が同じイキモノである、証明だ。

 そして、大規模な流星群が近づいてくる。すでに先行する流星群が、軌道庭園をかすめている。本体が到来したら、機動力を持たない庭園はひとたまりもない。人間たちは避難をはじめているが、〈スナイパー〉は置き去りだ。いや、正確にいえば置き去りではない。避難しろといっても彼ら自身が従わないだろう。星を撃ちつづけ、そして星に撃たれて死ぬ。それこそが〈スナイパー〉にとって最高の望みだからだ。

 予期されたとおり、大多数の〈スナイパー〉が死ぬ。しかし、ボクは生き残ってしまう。ギリギリのところを、神条に連れ出されて脱出ポッドで地球へたどりついたのだ。

 そこで物語は新しい局面を迎える。世の中は、ボクのことを「最後まで踏みとどまり地球を守ったヒロイン」として祭りあげる。そのいっぽうで、〈スナイパー〉の存在そのものが、国の最高機密でもあるのだ。〈スナイパー〉の根本技術は全世界で共有されているが、その実、〈スナイパー〉たちの身柄や機械の眼は各国が秘密裏に研究開発を進めている。ボクは、伝説の〈スナイパー〉森田ヒカルの成績と眼球移動を参考に組みあげられた機械の眼を持つシリーズの十七世代にあたり、この世代特有の特性を備えているのだ。

 ボクの望みはまた〈スナイパー〉として復帰することだが、地球に降りたことによって、知らないですませていたことをいやおうなく知るはめになる。〈スナイパー〉に秘められた謎、ボクが生まれ、星を撃つ意味、そして人間との違い、あるいはそれでも人間であること。そして、神条との関係……。

 かたやハヤトの介入があり、かたや〈スナイパー〉として近づいている限界があるなか、ボクは神条とどう向きあってよいかわからなくなっていく。そして、神条もまた、重大な決断をするのだが、それをボクにどう伝え、その先の関係をどう築いていくか戸惑っているのだ。

 読者はこれも愛なのだろうかと問いつづけながらこの作品を読み、結末で確信するのだ。これこそが愛だと。

(牧眞司)

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