時短制度はもういらない!?――女性に優しい企業・変わらない企業の差
最近、某大手食品会社が「時短制度を使わなくても活躍と子育てを両立できる働きやすい企業」に生まれ変わったことをご存じですか? 長時間労働の見直しや副業解禁など、職場の大改革が始まった今、私たちが働く環境は大きく揺れ動いています。急に有休の取得が推奨されたり、残業ができなくなったり。働きにくいと思っていた環境が、知らないところでどんどん変わっている……。いったい何が起きているのでしょうか。今の職場で働き続けていていいのでしょうか。
この連載では、そんな悩み多き女性の疑問を解決する情報をお届けしています。今回のゲストは、女性のライフキャリアや働き方改革に関する著書を多数持つ白河桃子さん。『女子のための「手に職」仕事図鑑』(仮)の著者 華井由利奈が、女性のキャリア形成に役立つ“いま知っておきたい情報”をまとめてお伝えします。
【プロフィール(写真右)】
白河桃子
少子化ジャーナリスト・作家・相模女子大学客員教授。「働き方改革実現会議」有識者議員をはじめ、多くの政府の会議に参画。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」ブームを提唱。著書に『格付けしあう女たち』、『御社の働き方改革、ここが間違ってます!』『逃げ恥にみる結婚の経済学』などがある。
【プロフィール(写真左)】
華井由利奈
コピーライター。大学卒業後、印刷会社に就職。デザイン業務を1年間担当した後、コピーライターとしてトヨタ系企業など100社以上の多様な企業の取材を行う。2016年に独立。現在は広告業界や、ビジネス全般、教育関連、生活情報など幅広い分野で執筆・講演している。今までに取材した人数は約700人。
“マッチョで滅私奉公な人”が出世する時代の終わり
あなたの周りにいる、50代前後の女性社員を思い浮かべてみてください。出世しているのは、どんな人でしょうか。努力家やコミュニケーションスキルの高い人など、様々なタイプの社員がいるでしょう。その中に一定数、自分の体力や時間、人生を会社に捧げている人はいませんか? 結婚や出産を経ても働き続けたい。でも、職場には自分が真似できそうなロールモデルがいない……。そんな悩みを抱える若手・中堅の女性社員の話に耳を傾けると、こんな声が聞こえてきます。
「出産後も働き続けたいけど、正直不安しかない」
「上司みたいにバリキャリで働くなんて、私には無理」
「長時間労働ができない女性は、永遠に昇進できなさそう」
女性が働きやすい時代は、本当に来るのでしょうか。その疑問を解消するべく、女性のライフキャリアや働き方改革に関する著書を多数持つ白河桃子さんに女性活躍の流れを聞いてみました。
「1989年、男女雇用機会均等法が施行された頃は、マッチョで滅私奉公な男性が精力的に働いていました。当時CMで使われていたキャッチコピーのように、『24時間戦えますか』という世界です。そのころは『こんな職場だけど、女性が入りたいのならお好きにどうぞ』という空気感があったように思います。当然ながら、総合職で入社した女性たちはライフイベントと両立することができず、次々に退職していきました。それが『フェーズ1』です」
1989年といえば、まさに現在50代前後の女性社員が働き始めた頃。自分のロールモデルになりそうな上司数人に話を聞くと、決死の形相で生き抜いた武勇伝を語る人も。私には無理……、と尻込みしてしまいそうです。
「でも約20年後の2008年には、女性に優しい両立時代が到来しました。これが『フェーズ2』です。時短などの制度が充実し、育休の取得率が上がり、女性に優しい企業が次々に現れました。しかし女性が活躍するにはまだまだ多くの壁がありました。そこで、フェーズ2の間に見つかった様々な課題を解決するべく、2017年に働き方改革が始動。女性だけでなく男性にもスポットが当たり、現在の『フェーズ3』に入りました」
白河さんの著書『後悔しない「産む」×「働く」』によると、フェーズ3で始まった「働き方改革」が進めば次の6つの変化が起きるといいます。
・脱長時間労働・労働時間の上限規制
・柔軟な働き方ができる(在宅、フレックス、子連れ出勤など)
・時間数での評価から時間あたり成果の評価へ
・有休取得率の上昇
・育休復帰、時短復帰の早期化
・兼業などライフスタイルに合わせて働き方を選べる
これらの変化が起き始めているのは、ごく一部。どの企業でも働き方改革は始まったばかりです。上の世代を見ればマッチョで滅私奉公な上司が多いですが、この6つの変化が浸透することによって、徐々に時代は変わります。では、どれくらい経てば私たちが働きやすい時代が来るのでしょうか。
定時を「16時半」に変えた某大手メーカーの秘密
働き方改革が始まった2017年、ある大手食品メーカーが驚きの施策を展開しました。施策の要点は次の3つです。
・基本的な終業時間は8時15分~16時30分(7時間15分勤務)
・コアタイムなしのフレックスタイム制
・時間有休の取得やリモートワークの承認
白河さんによると、これらは社員の働き方を変える最強の施策とのこと。まず、全社員の終業時間が4時半なら「お先にすみません」と後ろめたい気持ちで帰る必要がなくなります。そして夜に子どもが熱を出したときは、翌日自宅で仕事ができるようリモートワークを申請し、午前中に時間有休を取得。翌朝子どもを病院に連れていき、帰宅後は再び家で仕事。会議にはオンライン上で参加すれば、リスケの必要もありません。
施策実施後、この食品メーカーでは時短制度の適用を辞退する女性社員が続出したとのこと。つまり、ここで初めてワーキングマザーたちが働き方を自分で選べるようになったというわけです。子育てや介護など、それぞれのライフスタイルによって働ける時間は異なります。この施策によって、この食品メーカーの社員たちは「時短を使ってやりくりをしなければならない」という制限から解放されました。
「2人のお子さんを育てながら働く研究職の女性社員にインタビューをしたところ、『仕事でもプライベートでも限界を感じることがなくなった』と聞きました。この施策は、会社のトップがカルチャーを変えるために動き出して実現したとのこと。2020年には7時間勤務を目指しているそうですよ。実質的な賃上げということもあり、社員たちは意欲的に取り組んでいると聞きました」
このように一部の大手企業では様々な施策が練られ、働きやすい時代が着々と近づいています。施策が社内に浸透すれば、一気に働きやすい企業へ変わるでしょう。しかし、多くの企業はまだまだ混乱状態。いつ頃から、日本の企業は変わり始めるのでしょうか。
白河さんによると、実際に多くの企業が変わり始めるのは今年から。「働き方改革」が始まった2017年は、一体何をすればいいのかと右往左往する1年だったと言います。
「昨年様々な場所で『働き方改革』に関する講演をさせていただきました。その結果感じるのは、前向きな企業とそうでない企業で二極化し始めているということです。大切なのは、働き方改革を何のためにやるのかということ。例えば女性活躍ひとつをとっても、今、男性の働き方を変えてまで女性を活躍させたいのかどうか。経営課題に対する向き合い方で、企業はきっぱり二分されると思います」
仕事&育児 両立しやすい企業の見極め方は?
そこで気になるのが、自分が今いる会社が両立しやすい環境に変わるのかどうか、ということ。この先どんな方向に進むのか、見極める方法はあるのでしょうか。
「まずチェックすべきは、トップの動きです。働き方改革やダイバーシティに関するインタビューに積極的に出ているか。メディア等を使って、自ら社外に発信しているか。社内報など社員向けの媒体ではなく、外部で発言しているかどうかが見極めのポイントです」
例えば、経済産業省が選定している「新・ダイバーシティ経営企業100選」。表彰式では、毎年選定された企業のVTRが放映されています。一般的な企業の場合、働きやすい職場づくりを推進した人事部の役員などが出演していますが、熱意のある社長はVTRに自ら出演し、インタビューにも答えているそう。
また、表彰式に登壇するのは企業のトップなのか、代理の出席者なのかも見極めに役立つとのこと。経営者のスケジュール調整は難しいものですが、自分の時間を割いてでも表彰式に出る熱意溢れるトップもいるそうです。大規模な企業の場合、自分の部署にいると会社の進む方向が見えないこともありますが、実は細かいところで社員にも判断ができるのです。
柔軟な未来思考「キャリア・ドリフト」とは?
企業を見極めた後に見直したいのが、自分のキャリアデザインです。女性は、結婚や出産などのライフイベントによって人生が大きく変わるもの。みなさんのなかにも、「〇歳で結婚」「〇歳までに出産」と決意したけれど、何度も計画を上書き保存している人が大勢いるのではないでしょうか。そんな人に一度試してほしい考え方があります。神戸大学大学院の金井壽宏教授が提唱するキャリア理論、キャリア・ドリフトです。
人生の8割が偶発的な出来事で決まると言われている今、10年・20年・30年先まで細かくプランニングしたりしていても、毎回計画倒れに終わってしまうことがほとんど。キャリア・ドリフトは、偶然の出会いや予期せぬ出来事をチャンスとして柔軟に受け止めるために、あえて状況に流されるままでいることも必要だという考え方。未来を1年単位できっちり決めるのではなく、偶然起きた出来事などを利用して、ステップアップしたり、新たな方向に踏み出したりする柔軟なデザインです。
白河さんは実際に、大学や社会人向けのセミナーでキャリア・ドリフトの実用性を伝えているそう。特に女性は、定期的なキャリアの見直しが必要だと言います。
「IT技術が日を追うごとに進化している現在、10年スパンでの計画は通用しなくなってしまいました。大切なのは、偶発的に発生した人生の荒波に前向きに乗っていく姿勢です。大きな目標やビジョンを決めたら、まずはざっくりとライフキャリアデザインをしてみてください。希望するかどうかは別にして、子育ての可能性もいれて。そしてうまくいかなくなったら、そのたびに作り直す。作っては壊すために作るんです。
改革を進める企業にとって、2018年は実現化の年。現在何の施策も実施していない企業でも、トップが交代すれば突然方向転換する可能性があります。そのまま会社に残って変化を推進するのか、見限って転職するのか。企業も、働く女性たちも二極化する今は、改めて自分の人生設計を作り直すのに向いているのかもしれません。
次回は、実際にキャリアを転換するときにどんな行動をとるべきか。残留と転職、それぞれの生き方や、自分を見つめなおすキャリアの棚卸方法を紹介します。
【参考】
https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8201129.html
白河桃子 著
『後悔しない「産む」×「働く」』
(ポプラ社)
女性の身体・キャリア・産むと働くの両立が、これ1冊で見えてくる!「結婚は?」「子供は?」「仕事は?」選択は自由と言われても、その方法は学校でも家庭でも教わらなかった――。女性とそのパートナーのための仕事・結婚・出産への不安に対して、医療とキャリアの視点から多数のデータやアンケートとともに応える。これから産みたい人、産んで働きたい人、娘を持つ親にも必携の1冊。
取材・文:華井由利奈
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