“敏腕”と言われる人ほど〇〇を最重要事項と考えるーー『マネーの拳』に学ぶビジネス格言

“敏腕”と言われる人ほど〇〇を最重要事項と考えるーー『マネーの拳』に学ぶビジネス格言

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。三田紀房先生の『マネーの拳』、第7回目をご紹介します。

『マネーの拳』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

ここでは、私がオススメする名作マンガの一コマを取り上げます。これによって名作の理解を深め、明日のビジネスに生かしていただくことが目的です。マンガを読むことによって気分転換をはかりながら、同時にビジネスセンスも磨くことができる。名作マンガは、まさに一石二鳥のスグレモノなのです。

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©三田紀房/コルク

【本日の一言】

「ビジネスチャンスとは街の中ではなく、人との関わりの中にあるのかもしれない」(『マネーの拳』第1巻 Round.8より)

地元・秋田の高校を中退した花岡拳(はなおかけん)は、友だちの木村ノブオとともに上京。花岡は、偶然始めたボクシングによって才能が開花し、世界チャンピオンにまで上り詰めます。

その後、ボクシングを引退した花岡は、タレント活動をしながら居酒屋を開業しますが、経営は思うようにいきません。そんな時に知り合ったのが、通信教育業界の成功者・塚原為之介会長でした。花岡は会長の教えを受けながら、ビジネスの世界でも頂点を目指すべく、新しいビジネスをスタートさせますが…。

資金はあっても、アイデアがなければ起業はできない

塚原会長からの申し出により、ホームレスを10人雇用する代わりに1億円の出資を受けた花岡。しかしこの期に及んでも、いまだに新しいビジネスを思いつけずにいました。いくら1億円の資金があるとはいえ、ぐずぐずしていては、雇用したホームレスへの人件費や事務所の家賃、諸経費などに消えてしまいます。

ビジネスのことで頭がいっぱいの花岡が事務所に戻ってみると、事務所荒らしに遭遇します。犯人を捕まえたところ、何とそれは従業員の西野でした。実は、西野はかつて縫製工場の2代目社長でした。しかし外国との厳しい価格競争の中で不渡りを出してしまいます。家族にも愛想をつかされ、何もかも嫌になった西野は、工場を放り出して2ヶ月前に失踪。けれど明日に迫る640万円の手形決済日を前に、いたたまれずに事務所に忍び込んだのでした。

西野の話に何かを感じた花岡。翌日、資金を準備し、西野に「このお金で手形を決済し、そのまま一緒に工場へ向かう」ことを告げるのでした。

会社は赤字でも潰れるとは限らない

西野の工場は親の代からの負債が1億円ほどありました。とはいえ、「従業員16名を抱え、年商も4億円ほどあった」ことが物語の中で語られています。確かに競争は厳しいものの、決して絶望的な経営状態、というワケではありませんでした。

意外なことかもしれませんが、会社は経営が黒字であっても潰れることがあります。逆に、赤字になっても必ず潰れるとは限りません。実は会社とは、お金が回らなくなった時に潰れます。

通常、会社は先に商材を仕入れて、それを加工・販売し、受け取った代金の中から給料を支払ったり、仕入れ代金の返済に充てたりしています。このサイクルを「お金が回る」と言います。ここで万一、取引先からの入金が遅れたりすれば、支払いができなくなる可能性があります。支払い期日がきても支払いができなくなることを資金ショートと呼びます。

もし、お金がすぐに入ってこなくても、預貯金があればそこから支払いはできます。しかし資金に余裕がないところは、入ってくるお金の中からやり繰りしなければならないため、資金ショートを起こしやすくなります。西野の工場では、これが起こって支払いが滞ってしまったワケです。

凄腕経営者は、どのようにして倒産を回避したのか?

一つ、実話をお話しましょう。私の知り合いで、20代の頃に起業したベテラン経営者がいます。その方のお話によると、今の事業を始めたばかりのころに、資金ショートを起こしそうになったことがあるということです。会社が倒産の危機に陥ってしまった知り合いは、全従業員を集めてこう言いました。「大変申し訳ないが、実は今、会社が倒産の危機にある。今月中にこれだけの売り上げが上がらなかった場合は、この会社を潰すしかない」と。

その数字は、今までの売り上げ推移からすると、無謀とも言えるような金額だったそうですが、社長からその話を聞いた従業員たちは一致団結し、みんなでその数字をクリアすることによって、会社の危機を救ってくれたのだそうです。

知り合いが倒産を回避できた背景としては、

(1)資金ショートが起こる前に事前に察知し、早めに回避策を考えたこと

(2)社長が腹を割って全従業員に本当のことを話したこと

などが考えられます。

これは常日頃から、社長が従業員との間に信頼関係を築いてきたからこそ、できたことです。

会社も「人とのつながりが基本である」のは変わらない

実際、会社でお金が回らなくなるのは、必ずしも「お金だけが原因」ということではありません。その根本的な原因を探っていくと、結局のところ、“人とのご縁”がうまくいってない時に起こります。人とのご縁とは、たとえば銀行、取引先、顧客、従業員等々とのつながりのことです。会社を動かすための運転資金が足りなくなるのは、必ずどこかが滞っているからです。

先の例は、従業員が会社を救ったパターンでしたが、誰がいつ、そうした危機を救ってくれるのかはわかりません。一つ確かなことは「今、関係性を持っている人の中にこそチャンスがある」ということです。ですから、うまくいっている時こそ、人と人との関わり方を大切にしていきたいものですね。

俣野成敏(またの・なるとし)

大学卒業後、シチズン時計(株)入社。リストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。31歳でアウトレット流通を社内起業。年商14億円企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン』(プレジデント社)と『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)のシリーズが共に12万部を超えるベストセラーに。近著では『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」』が13刷となっている。著作累計は35万部超。2012年に独立後は、ビジネスオーナーや投資家としての活動の傍ら、私塾『プロ研』を創設。マネースクール等を主宰する。メディア掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿している。『まぐまぐ大賞2016』で1位(MONEY VOICE賞)を受賞。一般社団法人日本IFP協会金融教育顧問。

俣野成敏 公式サイト

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