今年こそ、「残念なTOEIC対策」から卒業しよう

『頑張らない英語』シリーズ(あさ出版)『英語を「続ける」技術』(かんき出版)など数々の英語学習に関する著書を出されている西澤ロイさん。英語の“お医者さん”として、英語学習の改善指導なども行っている西澤さんに「正しい英語学習の方法」についてお話しいただくこのコーナー。第13回目の今回は、「残念なTOEIC試験対策」についてです。f:id:k_kushida:20180105113217j:plain

英語力を計る方法といえば、年間200万人以上が受験するTOEIC(R) L&R(以下TOEIC)試験が有名です。ただし残念なことに、英語力とは関係のない表面的な試験テクニックに振り回される人が後を絶ちません。そういう方が少しでも減ることを願い、正しいTOEIC対策の心構えについてお伝えします。

英語力とは関係のない「試験テクニック」に注意

あなたはTOEIC試験を受けたことがありますか?

学校や会社などで受けさせられたことのある人もいるでしょう。もう何度も受験しているのに、どうもスコアが上がらない……という人もいるでしょう。まだ受験はしたことがなくても、将来的に必要だという人も少なくないでしょう。

TOEIC試験(正確に言えばリスニングとリーディング力を計る「TOEIC Listening & Reading Test」)は、毎年200万人以上が受験するテストです。そのため、試験対策用の情報は世の中にあふれていますし、書店に行くと対策用の書籍が山のようにあります。

そんな中で、せっかく頑張ってTOEIC試験のために勉強しているのに、結果の出づらい「残念なTOEIC対策」をしてしまっている人が少なくありません。中には、英語力とは関係のない、単なる受験テクニックばかりを身につけてしまっている人も――。

本来みなさんが欲しいのは、「TOEICスコア」という数字ではなく、そのスコアによって裏付けされる「実用的な英語コミュニケーション力」のはずです。

もちろん、スコアが高いに越したことはありませんが、もしスコアだけが高くても、英語を実際に使える力が身についていなければ本末転倒です。そのような残念なことになってしまいやすい、オススメできない3種類の「TOEIC試験対策テクニック」についてご紹介します。

残念なTOEIC対策1:タイムマネージメント

TOEICは、すぐに時間が足りなくなる試験です。トータルは200問ですが、特に後半のリーディングセクションでは、75分間で100問を解かなければなりません。それも、英語の長文を20個近く読んだ上で、です。

そうなると、テストを最後まで終わらせようと思ったら、リーディングセクションの前半、Part 5の短文穴埋め問題(30問)に割ける時間は1問当たり20秒くらいでしょう。そして、長文も無駄なところを一切読まずに済むように、問題を先に読むなどの工夫が必要となってきます――。

それは確かにその通りですし、TOEICのハイスコアを持っている人は、そういう解き方をしているでしょう。しかし、そのような解き方の訓練をすべきではないと、私は思います。

料理にたとえると分かりやすいでしょう。初心者に、いきなり時間制限を設けて料理を作らせたらどうなるでしょうか?

ろくな料理は作れませんよね。また、それを続けても、大して上達はできないでしょう。さらに、手を怪我したり、やけどをしたりしてしまうかもしれません。

その理由は単純です。スピードは、自然と「上がる」ものであって、「上げよう」すべきものではないから――。ゆっくりやってもできない人が、無理やり早くやろうとしても、いい加減にしかならないのです。

タイムマネージメントは、ある程度の実力がついて「あとは時間の問題だ」と思うまで、やってはいけません。まずは時間をしっかりと掛けて、疑問をきっちり解消しながら、実力をつけることを目指しましょう。

残念なTOEIC対策2:文頭を聞き逃さない

リスニングセクションで多いアドバイスが「文頭を聞き逃すな」というものです。残念ながらこれは、リスニング力が伸びなくなる聴き方ですのでご注意ください。

「文頭を聞き逃すな」というのは、Part2で言われることが多いアドバイスです。なぜ文頭なのかと言うと、疑問文においてwhat/when/where/why/howなどの疑問詞が出てくるからです。

例えば、以下の2つの英文を見比べてみてください。

When is the meeting going to be held?”

(会議はいつ開かれる予定ですか?)

Where is the meeting going to be held?”

(会議はどこで開かれる予定ですか?)

2つの違いは、文頭の疑問詞だけです。ここを聞き逃すと、正しい答えが選べなくなってしまうから「文頭を聞き逃すな」というアドバイスになるのです。

でも、文頭だけを聞き取れたら、本当に良いのでしょうか? 仮に

“When is………. held?”

しか聞き取れなかったとしたら、実際の会話では聞き返すほかありません。

「文頭」というアドバイスになるのは、答えを3択から選ぶ形式だからなのです。英会話で使えるリスニング力を身につけたければ、このような短い英文であれば「全てを聞き逃さない」ことが大切です。ですから、トレーニング方法としては、ディクテーション(書き取り)をオススメします。

残念なTOEIC対策3:出題パターンを押さえる

TOEIC試験攻略法の最たるものが「出題パターン」を押さえることかもしれません。

Part1の写真を見て答えるリスニング問題であれば、例えば「写真にはどのようなパターンがあるか」「写真のどこに着目しておくべきか」「不正解となる選択肢のパターン」などが語られたりします。

Part7の長文問題であれば、「文書の種類には何があるか(手紙、電子メール、広告文、ウェブページetc)」や「文書の種類によって、どのような問題が出やすいか」、場合によっては「このパターンでは、ここは読まなくてもよい」などというものまであったりします。

こういったテクニックの危険なところは、変な「依存度」を高めてしまうところなのです。このようなテクニックに依存してしまうと、普通の英語(日常会話やビジネス英語)が逆にきちんと理解できなくなってしまいかねません。

もし、ネイティブスピーカーがTOEIC試験を受けたら、初めての受験であってもほとんど正解できるでしょう。それはつまり、英語力さえあれば、テクニックなんてなくても正解できるということです。

つまり、私たちが本当に目指すべきなのは、仮に出題パターンに全然当てはまらない問題が出てきても、難なく正解を導くことのできる、本物の英語力を身につけることではないでしょうか。ですから、出題パターンを覚えるくらいなら、1つでもボキャブラリーを増やした方が有益でしょう。

まとめ

ちなみに、TOEIC試験の実施元であるETSは、「出題形式に事前に慣れておく」以外の試験対策は一切勧めておりません。

せっかく英語の勉強をするのであれば、表面的なテクニックに流されてしまうことなく、ぜひ本当の英語力が身につくような形で学習していただけたらと思います。

西澤ロイ(にしざわ・ろい)

イングリッシュ・ドクター

英語の“お医者さん”として、英語に対する誤った思い込みや英語嫌いを治療し、心理面のケアや、学習体質の改善指導を行なっている。英語が上達しない原因である「英語病」を治療する専門家。

TOEIC満点(990点)、英検4級。

獨協大学英語学科で学んだ言語学に、脳科学や心理学も取り入れ、英語流の「発想」や「考え方」を研究、実践することで、大人だからこそ上達する独自のメソッドを確立する。

暗記の要らない英会話教材「Just In Case」、正しいリスニング方法が身につくトレーニング教材「リアル・リスニング」も好評を博している。ベストセラーとなっている『頑張らない英語』シリーズ(あさ出版)や『英語を「続ける」技術』(かんき出版)他、著書多数。さらに、ラジオで4本のレギュラーがオンエア中。特に、木8の番組「めざせ!スキ度

UP」が好評を博している。

TOEIC L&Rテスト最強の根本対策 PART1&2

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