「断りメール」で、関係性を壊す人・壊さない人
「論理的に伝わる文章の書き方」や「好意と信頼を獲得するメールコミュニケーション」等の文章力・コミュニケーション力向上をテーマに執筆・講演活動を行う山口拓朗さん。そんな山口さんに、今回は「断りメール」について解説していただきます。
断りのメールを送って、相手との関係性にヒビを入れていませんか?
あなたは、断り上手ですか? それとも、断りベタですか? 提案、依頼、お誘いに対して断りのメールを書くことは、思いのほか難しいものです。文面がそっけないと相手の気持ちを害しかねませんし、気を遣いすぎた“思わせぶりな文面”だと、相手に変な期待をもたせかねません。断りのメールを書くときには、相手の気持ちを害すことなく、しかし、はっきりと断る。そのバランス感覚が求められます。
【断りメールA】
ご提案いただいた新商品企画案ですが、
今回は採用に至りませんでした。
よろしくお願いいたします。
【断りメールB】
ご提案いただいた新商品企画案の件でご連絡いたしました。
あいにく今回は採用に至りませんでしたが、
企画は悪くありませんでしたので、
またの機会に検討させていただきます。
よろしくお願いいたします。
メールAは「そっけない断りメール」で、メールBは「思わせぶりな断りメール」です。メールAは相手に冷たい印象を与えがちです。場合によっては、「本当に検討したの?」「偉そうな断り方だ」と不信感を抱かれる恐れがあります。
一方、「またの機会に検討させていただきます」と書いたメールBは、相手に「検討……ということは、まだ脈があるということ?」と勘違いされる恐れがあります。脈がないにもかかわらず“含み”をもたせるのは、不誠実と言わざるを得ません。
角が立たない断りメールに必要な3つの要素
【断りメールの修正文】
ご提案いただいた新商品企画案の件でご連絡差し上げました。
社内で検討を重ねた結果、今回は採用を見送らせていただきました。
初期コストが予算に見合わないほか、
商品Zのリリースと時期が重なるため、
「市場を奪い合う恐れがある」との判断もございました。
熱心にご提案いただいたにも関わらず、
ご期待に添えず申し訳ございませんでした。
上層部を説得できなかった私の力不足です。
これに懲りず、今後ともご支援、ご協力いただけますよう、
よろしくお願いいたします。
メールAやBと比較すると、誠実かつ納得しやすい「断りメール」ではないでしょうか。
「断りメール」に求められる要素は、以下の3点です。
(1) 断る理由を示す(可能な範囲で)
(2)お詫びの気持ちを示す
(3) 誠意を示す
修正文では、「予算に見合わなかった」「市場を奪い合う恐れがある」と断りの理由を示すほか、「ご期待に添えず〜」「〜私の力不足です」などの言葉で、お詫びの気持ちを示しています。
「私の力不足です」という言葉には誠意を感じます。遠回しに「あなたの企画が悪かったわけではありません」と伝えることによって、相手の気持ちを害すリスクを減らしています。
まだ脈がある場合の断り方
もしも、この商品企画案が完全なボツでなければ(脈が残っているようであれば)、終盤に次のような文章(赤字部分)を入れてあげればいいでしょう。
<前半省略>
熱心にご提案いただいたにも関わらず、ご期待に添えず申し訳ございませんでした。
上層部を説得できなかった私の力不足です。
一方で、今回の商品企画に対する社内の評価は、決して悪いものではありませんでした。
もし○○様さえよければ、秋(11月)に行われる商品企画会議で、
再度チャレンジの機会をいただけませんでしょうか。
私のほうでも、企画通過に必要な改善点を洗い出してみます。
ご検討いただければ幸いです。
引き続き、ご支援、ご協力いただけますよう、よろしくお願いいたします。
このように「完全な断りではないケース」や「条件付きで断るケース」では、その理由を具体的に書く必要があります。くれぐれも“思わせぶり”にならないよう注意しましょう。
取引先の「新商品発表会」にうかがえない。どうする?
別の例を挙げましょう。お誘いに対して断りを入れるケースです。
【断りメール】
ご案内いただいていた新商品発表会ですが、不参加でお願いします。
今後ともよろしくお願いいたします。
そっけない断りメールです。前述した3要素——(1) 断る理由を示す(可能な範囲で)/(2)お詫びの気持ちを示す/(3)誠意を示す——も、ほとんど盛り込まれていません。これでは「(わたしは)気乗りがしません」「(その商品発表会に)興味がありません」というニュアンスで受け取られても仕方ありません。相手に対する配慮や敬意に欠けた“悪しき断りメール”といえるでしょう。
【断りメールの修正文】
このたびは、新商品発表会のご案内をいただき、誠にありがとうございます。
あいにく当日は地方出張が入っており、参加がかないません。
いち早く商品を拝見したかったので本当に残念です。
もし新商品の資料をお送りいただけるようであれば、
小誌の「Brand New Goods」のコーナーでご紹介させていただきます。
お手数をおかけいたしますが、
ご検討いただけますよう、よろしくお願いいたします。
「不参加でお願いします」を「参加がかないません」に変えるだけでも、相手に与える印象が変わります。加えて「本当に残念です」と添えることで、「行きたいけど、行けない無念さ」が伝わります。
また、「地方出張が入っており」と、理由を明らかにしている点も好感ポイントです。この断りメールであれば、角が立たずに済むでしょう。
言うまでもありませんが、断る理由をでっち上げるのは(ウソをつくのは)よくありません(ウソがバレたときに一気に信用を失います)。具体的に言うと角が立ちそうなときは、「どうしても外せない仕事が入っており〜」「先約があるため〜」などの表現で対応しましょう。
さらに、「もし新商品の資料をお送りいただけるようであれば〜ご紹介させていただきます」と、相手が喜ぶオファーをしている点も心憎い配慮です。大切にしたい取引先などであれば、「何か相手にメリットを与えられないかな?」と考えてみましょう。
プライベートでも重視される「文章で断る技術」
仕事上のメールに限らず、プライベートでも、「断る文章」を書かなければいけないケースが多い昨今です(スマホのメッセージ機能やチャットアプリを含む)。知人や友人に対して、角を立てずに断ることができれば、人間関係を壊してしまうリスクも減るはずです。
仕事ができる人ほど、断りメールの書き方がうまいものです。彼ら彼女らの多くは「相手の気分を害さないこと」を最低限のノルマに据えつつ、「断りメール」の文面を工夫しています。なかには、心遣いにあふれる「断りメール」を書くことによって、今まで以上に良好な信頼関係を築いていく人もいます。あなたも、そんな達人の域を目指してみませんか?
著者:山口拓朗
『伝わるメールが「正しく」「速く」書ける92の法則』著者。
伝える力【話す・書く】研究所所長。「論理的に伝わる文章の書き方」や「好意と信頼を獲得するメールコミュニケーション」「売れるキャッチコピー作成」等の文章力向上をテーマに執筆・講演活動を行う。『伝わるメールが「正しく」「速く」書ける92の法則』(明日香出版社)のほか、『残念ながら、その文章では伝わりません』(だいわ文庫)、『問題を解くだけですらすら文章が書けるようになる本』(総合法令出版)、『何を書けばいいかわからない人のための「うまく」「はやく」書ける文章術』(日本実業出版社)、『書かずに文章がうまくなるトレーニング』(サンマーク出版)他がある。
山口拓朗公式サイト
http://yamaguchi-takuro.com/
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