就職活動失敗…からの「まわり道」、私が見つけた夢を叶える裏ワザ | クロスステッチデザイナー 大図まことさん

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さまざまなシーンで活躍しているビジネスパーソンや著名人に、ファミコンにまつわる思い出から今につながる仕事の哲学や人生観についてうかがっていく本連載「思い出のファミコン – The Human Side –」。

今回ご登場いただくのは、クロスステッチデザイナーの大図まことさん。著書『GAME&STITCH!』(学研教育出版)で、『パックマン』『マッピー』『ゼビウス』といった懐かしのファミコンキャラクターを図案化したクロスステッチ集を発表し、大きく話題を集めました。そんな大図さんの創作の原点にはファミコンで培ったイメージ力が大きく影響しているといいます。現在のキャリアを築き上げる軌跡についてお話を伺いました。

<大図まことさん プロフィール>

1979年埼玉県生まれ。大学卒業後、酒屋チェーンのアルバイト、手芸用品店勤務を経て、2008年からクロスステッチデザイナーとして活動を開始。男子目線のポップなモチーフを扱ったデザインで人気を集める。最新刊『たのしいクロスステッチBOOK』(PHP研究所)ほか著書多数。さらにピクセルデザイナーとして、有名キャラクターとのコラボ商品やアーティストグッズ制作まで幅広く活躍中。

大図まこと活動10周年記念作品展示のおしらせ

2017/12/2(土)~12/10(日) 中野SF gallery.

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最初に出会ったゲームを「つまらない」と思っちゃいけない……と自分に言い聞かせていた

――ゲームとの関わりの原点についてきかせてください。

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じつはファミコンより前に「セガSG-1000II」を入手したんです。クリスマスプレゼントとしてファミコンが欲しかったんですけど、満を持して親を連れてショップに行ったらブームの真っ只中ということもあって本体は売り切れ。でも子供心に、このチャンスを逃したらゲーム機を買ってもらえないんじゃないかって考えて、ついセガ機を……。

当時、セガ機を持ってる友だちが周りにぜんぜんいなくて、カセット交換などの交流ができずに寂しかったですね。ファミコンの場合、カセットを取り出す時にレバーを押してガチャっと押し出すじゃないですか。セガ機だとそのまま引っこ抜くんですけど、友だちの家でセガ機方式で直接カセットをつかんで引き抜こうとしたら、友だちにマジギレされたことをよく覚えています(笑)

――とくに思い出深かったゲームは何ですか?

セガ機のゲームは親への配慮もあって、それなりに楽しんでいたんですけど、やっぱり友達と一緒のファミコンが欲しいってなって、結局翌年のクリスマスに買ってもらうことになりました。その時はいわゆる本体とカセットの抱き合わせ販売だったんです。その思い出のカセットが『元祖西遊記スーパーモンキー大冒険』ですね。

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抱き合わせになるくらいだから、おそらくあまり人気なかったんでしょうね。その上このゲーム、何をやっていいかまったくわからなかったんです。周りで誰も持っていないゲームだから攻略情報も何もない。いちおう西遊記をテーマにして孫悟空や三蔵法師を操作して天竺を目指すRPG、というゲームだったのですが。

せっかく念願叶ってファミコン買ってもらったし、これは「つまんない」って思っちゃいけないんだ……、と自分に言い聞かせながら遊んでました。そもそも、カセットがこれしかないので楽しいのかつまらないのかすらわからないまま、とにかくずっとプレイしてましたね。f:id:kensukesuzuki:20171127170906g:plain

▲当時の裏技を再現

でも実は私、このゲームの裏技を発見してるんですよ! セレクトボタンを押しながら歩くと、本来移動できないはずの海が渡れるんです。当時それを学校でクラスメートに自慢したんですけど、いかんせん超マイナーゲーム。みんな「ふーん」ってかんじで、喜びを共有できなかったですね……。

小学校の作文で宣言!

「大人になったらファミコンを作る人になりたい」

――不遇のファミコン体験をされてきたようですが、いつ頃までプレイしていましたか?

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結局ファミコンのカセットも小学生の頃はほとんど買ってもらえなかったし、しかも買ってもらったゲームが今思うとほんとにつまらないやつばかり、という引きの悪さで……。中高生に上がった頃からはフリーマーケットで激安で売っているカセットを買いあさるようになりました。ただその頃になると、周りの友だちはもうファミコンはすっかり卒業していたんですよね。

カセットを買い集めていたものの、私はそんなにゲームが上手ではないんです。ただゲームのキャラクターとかパッケージのイラストといったグラフィックのほうに興味がどんどん移っていきましたね。いわゆるジャケ買いをしたりとか。

――当時ファミコンゲームのイラストを描いたりはしていたのでしょうか?

一応ちょっと描いてたんですけど……うちは親がイラストの仕事をしていて、プロと比較されると凹むので次第に描かなくなりました。自分はもう下手くそだから描いちゃダメだな…って心を閉ざしてしまったんですね(苦笑)。

ただ小学生の頃の作文で、「僕は大人になったらファミコンを作る人になりたい」って書いていたんです。うちはなかなかゲームを買ってもらえなかったから、自分が作る側の人になりたいと思ったんでしょうね。特にデザイナーになりたいなという夢はぼんやりと持っていました。f:id:kensukesuzuki:20171127171136j:plain f:id:kensukesuzuki:20171127171159j:plain

▲当時の作文と絵

とはいえ絵もそんなに得意じゃないし、自分には無理だろう……という諦めもあって。将来設計をたいして考えないまま、なんとなく学生時代を過ごしていました。

――現在のお仕事に至るまではけっこう回り道をされたそうですね?

私が大学を卒業した当時は、就職氷河期でどこにも新卒入社できなかったんです。結局アルバイト採用で酒屋で働きはじめました。でもやっぱりデザイナーとかクリエイターはオシャレだしかっこいいなっていう憧れの気持ちはあって、いつかはそういう職業に就きたいと思っていました。酒屋の仕事をしながら、デザインのコンペに出品したり、イラストを描いて応募したり、といったことには地道に取り組んでいました。

巡り巡ってファミコンに関わりの深い仕事に行きつく

――クロスステッチに出会ったきっかけは?

酒屋で働きながら創作活動をしていた時に、「昔ファミコンが好きだったし、当時はドロー系のソフトを使ったイラストや3Dグラフィック全盛期であまりドット絵を見る機会が無かったので自分で描いてみよう」と、ある日思いついたんです。すると、たまたま手芸の仕事していた友だちが、「ドット絵みたいな“クロスステッチ”っていう刺繍のジャンルがあるよ」と教えてくれたんです。そこで色々調べてみたら、男性でクロスステッチをやっている人はほとんどいないことがわかったんです。

クロスステッチは主に女性が愉しむ手芸なので、モチーフがお花など可愛らしいものが多かったんです。そんななか私は、昆虫や恐竜とか乗り物みたいな男子らしいデザインのものを作ってみたところ、ユニークな仕上がりになったんです。そこからはクロスステッチに集中して、作品を作りためるようになりました。

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――どうやって自分の作品を世間に知ってもらったんですか?

当時はちょうどブログブームだったので、ブログを通じて作品をコツコツ発表していったら、話題になり、クラフトフェアやアート系イベントといったところから声をかけてもらえるようになったんです。

そんなかんじで手芸やクロスステッチが好きになり、これは自分の仕事にしたいなと思い始めました。でもいきなりフリーランスのクロスステッチ作家になるというのは不安があったので、とりあえず手芸業界の企業に入ろうと思い、縁もあってオカダヤ(手芸用品・材料の専門店)で働きながら、自分の作品も発表しつつ、というステップを踏みました。

結局オカダヤでは3年ほど働かせいただき、ちょうど30歳になる直前で独立することにしました。幸いなことに早い段階から出版社から「本を出しましょう」と声をかけてもらっていたので、完全オリジナルの作品として、最初の一冊『ぼくのステッチ・ブック』(白夜書房)を出版することができました。

今までになかった男子目線の刺しゅう図案集だったので、とくに男の子のお母さんたちのウケがよくてヒットしたんです。読者の方から「作りました!」っていう反響のメールも直接届いたりして、嬉しかったですね。

――そうして、ファミコンで遊んだ経験がいまのお仕事に結びついたんですね。

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私の場合クロスステッチに出会い、そこに独自のモチーフで切り込んだことで仕事がどんどん広がっていきました。そうこうしてるなかで、「昔のゲームをモチーフにクロスステッチを作りませんか?」っていう声をかけてもらって出版したのが、『GAME&STITCH!』(学研教育出版)。ここをきっかけにさらにお仕事の幅が大きくなっていきました。

今は「TOKYO PiXEL.」という8bitカルチャーをモチーフにしたデザインブランドも立ち上げて、ファミコンで遊んだ『パックマン』をはじめ、ナムコ(バンダイナムコエンターテインメント)のゲームグッズなどもいろいろオフィシャルライセンス商品として作らせてもらっています。子どもの頃の「ファミコンを作る人になりたい」っていう作文が、めぐりめぐってこういう形でゲームに関われる仕事ができていて、なんか色々遠回りしたけど夢は少しだけ叶ったかな、と思っています。

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取材・文:深田洋介

1975年生まれ、編集者。2003年に開設した投稿型サイト『思い出のファミコン』は、1600本を超える思い出コラムが寄せられる。2012年には同サイトを元にした書籍『ファミコンの思い出』(ナナロク社)を刊行。

http: //famicom.memorial/

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