保活で高額な「認可外」に 退職するしかない? 賢い住まいのマネー術(1)
今年も本格化してきた「保活戦争」。しかし同じ東京都でも、住むエリアによって認可保育園の保育料が大きく変わることをご存じでしょうか。今回は住む場所によって家計やライフプランが大きく変わることを解説すると共に、もし保育料が高額な認可外保育園しか入れなかったとしても、働き続けたほうがよい理由をお伝えします。【連載】賢い住まいのマネー術
住まいに関する支出は、家庭の大きな割合を占めるもの。保活から住宅ローン控除まで、住まいに関する家計管理や節約術に定評のあるファイナンシャルプランナー(FP)の花輪陽子さんが解説します。
認可保育園の保育料、自治体によって年30万円の差!?
同じ東京23区内であれば、認可保育園の保育料は大差ない……そう思っていませんか? 実は自治体によっては、月額2倍以上の差が出ることもあるんです。
具体的なケースを見てみましょう。
「保育園を考える親の会」作成の「100都市保育力充実度チェック(2017年度版)」で認可保育園の保育料(※中間額)が安い街をみると、1位の渋谷区では7490円、23位の江戸川区では3万1500円と、同じモデルケースでも月額2万4000円もの差があります。■3歳未満児の認可保育園 月額保育料が「安い」自治体TOP3(東京23区・中間額)
1位:渋谷区 7490円
2位:中央区 1万3100円
3位:練馬区 2万600円
※100都市保育力充実度チェック(2017年度版)より■3歳未満児の認可保育園 月額保育料が「高い」自治体TOP3(東京23区・中間額)
1位:江戸川区 3万1500円
2位:江東区 2万9800円
3位:墨田区 2万8500円
※100都市保育力充実度チェック(2017年度版)より
年間の差額は30万円近くになりますので、決して小さな額ではありません。住まい探しの前にぜひとも下調べしておきたいですね。
※中間額:所得控除前の年収が夫496万2396円・妻78万7584円、夫の社会保険料額を69万4735円、子供1人とした第1子保育料
とはいえ、現在東京23区内にお住まいであれば、希望の認可保育園にすんなり入れるケースは珍しいかもしれません。認証保育園や認可外保育園を選択せざるをえない場合でも、注意すべき点があります。
家賃が高いエリアでも、認可外助成がある区のほうがオトクなことも
料金が変わるのは認可保育園の保育料だけではありません。東京都の基準を満たしている認可外施設に通わせている家庭に対し、認可保育所を利用した場合との差額を助成する自治体もあります。しかし、助成のない自治体も多く、助成額が多い自治体と比べると大きく家計が変わってしまいます。
例えば、港区の場合、通っている認可外保育園の保育料または助成基準額(3歳未満児は10万円、3歳以上児は9万7000円)のいずれか低い金額と、認可保育園等保育料との差額を助成します。
また、世田谷区でも平成28年から、3歳児以下について、認証保育園以外の認可外保育施設でも認証と同じ5000円~4万円を補助する制度を創設しました。これは待機児童が多いことを受けた緊急対策との位置付けで、平成31年度までの期間限定で運用されるといいます。
家計はどうなるのか、具体的なモデルケースで考えてみましょう。
港区に住むA家庭は、認可保育園に通う場合、家庭の収入から月額保育料は3万1000円ですが、認可外保育園に通う場合、保育料は月額11万円と高額です。しかし、助成基準額の10万円と認可保育料の3万1000円の差額である6万9000円を助成してもらえ、保護者負担は10万円を超過した1万円と認可保育園料の合計となる4万1000円になります。月額11万円だったはずの保育料の多くを、自治体からの助成で賄うことができるのです。■計算式
1歳児の認可外保育園の保育料:月額11万円
・港区の場合:11万円(認可外保育料)― 6万9000円(助成額)=4万1000円(自己負担額)
・補助額0円の区の場合:11万円(自己負担額)
●月間保育料の差額:6万9000円
●年間保育料の差額:82万8000円
同じ東京都内であっても、認可外保育園に対する助成がゼロの区に住んでいれば、月額の保育料の負担は11万円になります。港区に住んだケースと比べると、年額で82万8000円も差が出ます。家賃が少し上がっても、助成のある区に住んだほうが支出を抑えることができる場合もあるのです。
出産で退職すると、2億5000万円を失う
イラスト/PIXTA
とはいっても、すでに認可保育園に入りにくく助成額も少ない自治体に住んでいる場合、そう簡単に引っ越しできるものではありませんよね。
時短勤務などを取得していれば、認可外保育園の保育料と、月々のお給料がトントンになってしまうケースもあるかもしれません。そんな時は「いっそ退職しようか……」といった考えが頭をよぎるのも無理はないかもしれませんが、出産で仕事をやめると、約2億5000万円もの生涯賃金を失うことをご存じでしょうか。
「国民生活白書」によれば、大卒女性が仕事を中断することなく、38年間働き続けた場合の生涯賃金は退職金込みで約2億7700万円です。育児休業を2年間取得して36年間働く場合、失うお金は約1900万円と比較的少なく済み、生涯賃金は約2億5800万円となります。(平成17年版、第3章「子育てにかかる費用と時間」より)
一方、出産後退職をして8年間のブランクを経て再就職する場合、正社員として復帰するケースの生涯賃金は約1億7700万円、パートとして復帰するケースの生涯賃金は約4900万円になります。
結婚後は専業主婦という場合の生涯賃金は約2200万円と、ずっと働き続ける場合と比べると2億5000万円ものお金を失うことになります。(「国民生活白書」平成17年版。28歳で第1子出産、31歳で第2子出産と仮定)
生涯賃金という視点から考えると、できる限りキャリアにブランクを空けず、正社員として復帰をすることが大切だということが分かります。妊娠中に体調が優れずにやむを得ずに退職をすることになったという場合も、できるだけ早期に正社員として復帰するほうが、当然生涯賃金は多くなります。
高い保育料は期間限定 長期的な視野で保活を
認可外保育園の保育料は月額10万円を越える場合もありますが、それは長いライフプランの中の限られた期間に限定されます。子育ては計画が立てやすいものです。
0~2歳時は期間限定と割り切り、高い保育料を支払ったとしても、3歳児以降になれば延長保育のある幼稚園も含めて選択肢が広がります。仕事をキープしたほうが、生涯賃金を考えると逸失金額が少なく済む場合が多いでしょう。どのエリアに住むかによって受けられるベネフィットが大きく違いますから、これからを住まい探す場合は、希望エリアの行政サービスをよく調べておきたいものです。
もし高額な保育料を払うことになったとしても、「保育料以上に稼げないから働くのをあきらめる」という短期的な目線だけではなく、3歳以上になると保育の選択肢が広がること、働き方によって生涯賃金が大きく変わるということを頭に入れ、長期的に試算した上で保活を考えることが大切です。
人気のエリア、子育てがしやすそうというイメージだけではなく、数字でしっかりと把握してから住まいを選ぶほうが賢明ですね。花輪 陽子(ファイナンシャルプランナー)CFP認定者、1級FP技能士。外資系投資銀行を経てFPに。「夫婦で貯める1億円!」「貯金ゼロ 借金200万円!ダメダメOLが資産1500万円を作るまで」などの著書やテレビ出演、雑誌監修など多数。
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