「ウチは大貴族のお姫様なんやで!スーパーセレブなんやで!」引用だらけのアホ手紙を晒される……黙っていれば可愛い爆弾娘と親子漫才 ~ツッコみたくなる源氏物語の残念な男女~

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その子、本当はあなたの娘ですよ!娘のことで悩むパパ

源氏に近江の君のことを冷やかされた紅梅は、父(頭の中将)に早速報告しました。「あちらにもよそから連れてきて、大事にしている姫君がいたろう。玉鬘の君と言ったかな。どうも源氏の君は我が家のことにはお耳が早い。光栄なことだ」。その子、本当はあなたの娘ですけどね。

玉鬘の君の悪い評判は聞いたことがないですね。蛍宮などは熱心にアタックしていらっしゃるとか。皆、それはそれは素晴らしい姫君だろうと言っています」と、紅梅。

それは源氏の君の娘と思うからだ。世の中そういうもんだ。なーに、実際は大したこともなかろう。彼は子どもが少ない上に、紫の上との間にはできなくて、そこが泣き所なのだろうね。

ひょっとすると、その玉鬘の君とやらは、源氏の実子ではない可能性もある。あの人は昔から、なにを考えてるかよくわからんところがあるからな」。おっ、なかなかイイ線いってる。だから、本当はあなたの娘ですよ!

「で、玉鬘の君はいったい誰と結婚するのかね。蛍宮は源氏の君とは特に仲がいいし、決まれば万々歳というところかな」。でも、本当に気になるのはそっちではなく、次女の雲居雁のこと。

雲居雁こそ母君(大宮)に立派にしつけてもらい、誰と結婚させるかを算段したり、後宮に入れようかと思ったりしたかった。それをぶち壊しにしたのが夕霧だ。あいつも着実に出世してきてるが、まだまだ結婚は許さんぞ!……と、パパは思っています。相変わらず。

例外として、源氏が息子とともに頭を下げ「本当に私達が悪かった。どうかお嬢さんと結婚させてください」と言えば、まあ考えてやらんこともないぞ……とは思っているのですが、肝心の夕霧はそんな気配も見せず、落ち着き払っているので面白くない。結局どっちもどっちで、進展しないままです。

うたた寝もNG!パパの厳しい監視が続く次女

思い出しついでに、頭の中将は雲居雁の様子を見に行きました。大宮の元から連れ出したはいいものの、すっかりほったらかしです。暑い午後、雲居雁はシースルーの衣(単)だけを1枚きて、うたた寝をしていました。

雲居雁はなかなか起きず、ノックの代わりに扇を鳴らすと、ようやく目を覚ましました。寝ぼけて赤くなった目元が何とも可愛い年頃の娘。パパは思わず小言が出ます。

油断してうたた寝とは何事か。女房たちも側にいないじゃないか。女の子が無防備なのは品のないことです。常に気を配ってきちんとしていなくては。まあ、あまりツンツンしているのも可愛げがないがね」。そんな~、うたた寝もしちゃいけないの!?

更に源氏がちい姫を大事に育て、将来は中宮にしようとしている話も持ち出し「以前は、お前にもそういう夢を持っていたがね……。他人の姫君の話を聞くたび、お前の今後のことでため息がでるよ。とにかく、今は彼(夕霧)の誘惑に負けるんじゃないよ」。娘可愛さについついグチるお父さん。こんなに可愛い娘なのに、まったくなんでこんなことになったのかと、悔しくてたまりません。

当時は「どうして夕霧と仲良くしちゃいけないの」としか思わなかった雲居雁も、もう16、7歳。さすがに自分が何をやらかしたのか理解できています。(あの頃はなにも分からなくて、本当に馬鹿だった。恥ずかしい。お父様、ごめんなさい)

成長した雲居雁は、大宮にも会いに行くのをためらいます。おばあちゃんからはいつも「顔を見せてちょうだい」と手紙が来るし、会いたいのは山々なのですが、これ以上お父さんの機嫌を損ねたくもない。なかなかツライです。

嫌味も通じない!マシンガントークの爆弾娘と親子漫才

頭の中将の頭を悩ませる娘がもう一人。最近引き取った近江の君です。今となっては焦って連れてきたのを後悔しているのですが、引き取った以上、返品するわけにもいかず、すっかり持て余しています。

(顔も頭も悪くないし、行儀作法を身につければなんとかならんか)と、パパは長女の弘徽殿女御に相談。女御は快く請け合います。開きかけた梅の花のような女御を見て(我が娘ながらなんと上品で美しく育ったものか)と、ここでも親バカ発揮。

「まったく、柏木が早合点してよく調べもせずに連れてきたのがいけない」と、ブツブツ言いながら近江の君の部屋の前に来ると、廊下に響くような声で「小さい目!小さい目!!」と絶叫が……。近江の君は従姉妹の五節とすごろくの真っ最中でした。

御簾に寄りかかっているので、簾がこんもり膨らんで廊下にはみ出しています。小さい目が出ると有利らしく、早口で呪文のように「小さい目小さい目小さい目!!」。五節も負けじと「お返しお返しお返し!!」。サイコロの入った筒をブンブン振りまくっています。確かに、これじゃ紅梅が源氏に嫌味言われても仕方ないですね。

パパは情けなさでめまいがしそう。それでも気を取り直して部屋に入り「どうかな、調子は。この家には馴染めましたか。私も忙しいから、あまり来てあげられなくて」。

「全然!めっちゃ快適やで!長年ずっと会いたい思てたお父ちゃんに会えて、ウチ、ほんまに嬉しいねん!ちょくちょく会えへんのは寂しいけど」。またこれも、びっくりするほど早口で甲高い声です。

「私の身の回りのことでもしてもらおうかと思ったが、さすがにそれもね。“あれが頭の中将のお嬢さん”と、いい意味で言われない可能性もあるし……」と、遠回しな嫌味。

「イヤやわぁお父ちゃん!ウチ、そんなんちっとも気にせんわ。おまるのお掃除かて、何でもするで!」……近江の君、嫌味はわからないらしい。「いやいや、さすがにそんなことはしなくていいよ。それよりもその早口を直しなさい。その方がお父さんは嬉しいな」。

「すんません。ウチの悪いくせやって、死んだお母ちゃんも言うてた。ウチが生まれる時、近所のお寺の坊さんを呼んだんやけど、その人がえっらい早口でお経を読まはったんて。きっとそれがうつってしもたんやって。

「ほうほう、それはまた大変なお坊さんを呼んでしまったね」。親子漫才を続けながら(うーん、これでは女御の女房たちに大笑いされて、あっという間に噂になってしまう)。やっぱり行儀見習の件はナシにしようかと思うのですが、一応本人に確認してみました。

「ホンマにええの!?ウチ、お兄さんお姉さんから、兄弟姉妹の一員やと思てほしくて仕方ないねん。水くみでもなんでもします、せやから女御のお姉さんのとこに行かせてください」。

「いやいや、だからそんな仕事はしなくていいよ。それより、その坊さんの早口をどっかにやってくれ」。頭の中将も呆れつつ、ちょっと面白がって漫才してます。

「そんならいつお伺いしましょ」「そうだね、まあ善は急げというから、それなら今日にでも行けば」。言い捨てて立ち去る父の後ろには、身分のある人達がゾロゾロとお供していきます。さすがは内大臣、VIPです。

黙っていれば可愛いのに…残念美人の近江の君

「はぁ~、あんな立派な人がウチのお父ちゃんやねんなぁ。それなのになんでウチは、あんな小ちゃい家で育ったんやろ」。…VIPなだけに普通の人なら萎縮して、フレンドリーに話しかけられるようなパパじゃないんですが、近江の君は無問題。

「うーん。なんや知らんけど、ちょっと立派すぎるんちゃう?もっと、そこそこのお家で大事にされる方がよかった気ィするわ」と五節。

五節ちゃん!あんた、何やねん!せっかくのええ気分が台無しやわ。ウチはな、もう大貴族のお姫様なんやで。スーパーセレブなんやで。アンタとは身分が違うんやから、今までみたいな馴れ馴れしい口きかんといてや」。

近江の君は黙っていれば可愛く、コロコロ変わる表情も愛嬌があります。そして、やはりどことなく頭の中将に似ている。パパは柏木のことを怒ってますが、彼はこのへんを認めて連れてきたのでしょう。きっと。

しかし、マズいのはその早口と甲高い声。落ち着いてゆっくりと話せば、大した内容でなくてもよく聞こえるが、早口ではまったくの逆効果。近江の君はろくな教育も受けておらず、育てた人も甘やかしたのでこうなった、と説明されています。黙っていれば可愛いのに、の典型みたいな子です。

「こwwれwwwはwwww」引用だらけのアホ手紙を晒される

「お父ちゃんにウケても、女御のお姉さんに嫌われたらこの家に居られんようになる。お姉さんのお覚えがめでたくないとアカンわ。お邪魔するなら、礼儀正しくお手紙の一つも出さな。ウチ、こういうのは結構得意やねん」。頭の回転も悪くない近江の君は、さくっと手紙を書きました。

「”葦垣のま近きほどに“ 近くにおりましたが、今まで  ”影踏むばかり“ お目にかかる機会を得ませんでしたのは、 “勿来の関“ を設けていらっしゃったのかと悲しく思います。 “知らねども武蔵野といへば“ どうかどうかよろしくお願いいたします。

実は今晩にもお邪魔したいと思っておりますが ”厭ふにはゆるにや“ 、いえいえ ”あやしきは水無川“ と、こんなところで乱筆乱文失礼致します」

と、古い和歌の引用で教養アピール。でも正直ナンノコッチャです。やたらに引用したがる人って、どの時代にもいるんだなぁ。

締めの一首は「草若み常陸の浦のいかが崎 いかであひ見む田子の浦波」。常陸の浦、いかが崎、田子の浦と、デタラメに歌枕を読み込んだ三十一文字。なんじゃこりゃ。

それでも近江の君は「よっしゃ!我ながら傑作や」と得意げ。手紙を細く折って撫子の花に結びつけ、届けてもらいました。

手紙を受け取った女御は一読して微笑み、そっと下に置きます。「あまり見たことのない書き方で、ちょっとよくわからないわ」。女房たちは早速中を覗いて大騒ぎです。

(うわぁ、ヨレヨレした変な字!行が端にいくほどゆがんで斜めになってる!)(この”し”の字も、下の方をすご~く長く引っ張って書いてる。ダッサ)(おまけに、常陸の浦に田子の浦だって)(本と末が合ってない、アホなの?)

ネットスラング風に言えば「こwwれwwwはwwww」かな?なにぶん、世間がとても狭い社会なので、女房回し読みの刑は今ならネットにさらされるのと同じような事でしょう。多分。拡散力もすごいですし。

返信を求めてくるので、女御は「お返事もこんな風に書かないといけないのよね、誰かお願い」。女房の一人が女御の筆跡を真似て「常陸なる駿河の海の須磨の浦に 波立ち出でよ箱崎の松」と、なんとか同レベルの和歌を作成。女御は「まあ困るわ。本当に私が書いたと思われたらどうしよう」

いくら筆跡を似せていても、見る人が見れば真筆かどうかはわかるのですが、近江の君は「女御のお姉さん直々のお手紙や!素敵やわぁ。”松”は”待つ”やから、待ってて下さるっちゅうことやな!」

近江の君は張り切って、妙に甘ったるいお香を衣にたっぷり染み込ませ、顔には真っ赤なチークやリップをこってり塗り、髪を梳かしてバッチリ決めます。素がいいので、派手めメイクも悪くないのですが、だからこそもったいない!

この一幕は、その後の展開は読者の想像におまかせするが、さぞかし大変なことだったろう……と締めくくられて終わります。源氏と玉鬘の妖しいアダルティな展開にブッこまれた爆弾娘、近江の君。作中でも他の追随を許さない異色のキャラで、憎めない分、笑い者にされるのがかわいそうでもあります。

簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。

3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html
源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/

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(執筆者: 相澤マイコ) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか

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