大学教授が語る、読書の本当の効果

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大学教授が語る、読書の本当の効果

出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!第46回となる今回は、『生物と無生物のあいだ』(講談社/刊)が話題となり、今回新刊『福岡ハカセの本棚』(メディアファクトリー/刊)を刊行した青山学院大学教授の福岡伸一さんです。

 本書は、読書家として知られる福岡さんが、これまでの人生のポイントごとに読んだ本を紹介していくという、一風変わったブックガイド。

 同氏は膨大な読書体験の中からどのように本書で取り上げる本を選んで行ったのでしょうか?

 第二回の今回は「読書」は人にどんなことをもたらすのかについてお話を伺いました。

■「何かを知れば知るほど、自分が何も知らないことを知る」

―読書というものは本来現実的な見返りを求めるものではないとは思いますが、もし読書になんらかの効果があるとしたらどんなことだとお考えですか?

福岡 「一つは、自分がこの世界についてほとんど何も知らないということがわかることではないでしょうか。もう一つは、結局うれしいことも悲しいことも、辛いことも希望も落胆も、すべて最後は言葉によってしか納得がもたらされないということがわかることです。

やっぱり私たちは言葉や言い回しを探しているんですよ。読書をすることの効用というか喜びの一つは“ああ、その通りだよね”という言葉と出会えること。つまり、言葉にできなかった思いや、こうじゃないかなと思っていたことを言い当ててくれる言葉を与えてくれるっていうのが読書の最大の効用、喜びだと思います。そういう言葉を得ると納得がやってくる。それによって世界の成り立ちを知っていくわけです」

―私は学生時代までほとんど本を読んでいなかったのですが、当時ある人に“本を読まないから人の気持ちがわからないんだ”と言われたことがあります。今でも疑問に思っているのですが、読書をすることで人の気持ちがわかるようになるものなのでしょうか?

福岡 「それはウソじゃないですかね(笑) 本を読もうが読むまいが人の心なんてわかりませんよ。むしろ本を読むことで、人の心なんて決してわからないということがわかるんじゃないですか。何かを知れば知るほど、自分は何も知らないことを知るわけですし。

本を読めば人の気持ちがわかるなんて安易に言われていることはほとんどウソですし、たとえわかったとしても、そんなのはあっという間に変わります。うれしいことも悲しいことも流れて行ってしまうことが本を読むとわかるのであって、本を読めば人の心や人の気持ちがわかるなんてことはないと思いますよ」

―「書を捨てよ町へ出よう」という言葉があるように、読書で得た知識は、身体感覚を通過させることで、より生きてくるというところがあると思います。福岡さん自身は、読書と身体感覚とのバランスについてどのように考えていますか?

福岡 「必ずしも身体感覚ということとは対応しないかもしれませんが、本で知ったことを現実の世界と対応づけたいということは考えています。本って結局は言葉であったり名づける行為を描いたものですよね。昆虫図鑑なら虫の名前というように、何らかの考えやコンセプトが文字になっているのが本です。それが実際にどんなものなのかを現実の世界と対応させたいという気持ちは持っていますね。

たとえば、図鑑で読んだ虫がどんなところに潜んでいてどんな色をしているのか、物語で読んだ街がどんな街で、どんな匂いや風を含んだ場所なのかということを知るために行ってみたいというのはあります。それがはたして身体感覚ということなのかはわからないですけど」

―それは、マップラバーとして自分の中の世界地図が正しいかどうか確かめるということになるのでしょうか。

福岡 「正しさを確かめるというか、実感したいということですね。言葉っていうのは、何か物があって、それに名前がつけられているから言葉が存在すると思われていますが、実はそうではなく、言葉があるからこそその対象である物が存在するとも言えます。だから、言葉によって名付けられた対象物がどんなものなのか実感してみたいという気持ちは常にありました。

私は子どもの頃からマップラバーとして、『ドリトル先生シリーズ』とか『十五少年漂流記』とか、いわゆる“探検モノ”とか“旅モノ”のように、地図を辿っていくような物語やルポルタージュにわくわくしていました。でも、そんなに活発な少年じゃありませんでしたから、いつも室内でそれを読んでいる“アームチェアトラベラー”だったわけです。それでも実際に行ってみたいと思う町や場所はいつもありましたね」

第三回 「書を捨てよ、町へ出よう」ではなく「早く帰って本を読もう」 につづく

(新刊JP編集部)

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元記事はこちら

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