自民党広報のツイートに物申す~みんなこのインチキに気付いてくれ~(モノシリンの3分でまとめるモノシリ話)

自民党広報のツイートに物申す

今回はモノシリンさんのブログ『モノシリンの3分でまとめるモノシリ話』からご寄稿いただきました。

自民党広報のツイートに物申す~みんなこのインチキに気付いてくれ~(モノシリンの3分でまとめるモノシリ話)

自民党広報がこんなツイートをしている。


【データで見る!アベノミクス5年間の実績】
名目GDPはこの5年間で50兆円増加!過去最高の水準です。#アベノミクス の加速で #景気回復 #デフレ脱却 を実現します!多くの方に知っていただきたいのでぜひシェアにご協力ください!#この国を守り抜く #自民党 #衆院選 #拡散希望
20:44 – 2017年10月10日

これに対し,経済評論家の池田信夫氏がこんなツッコミを入れている。


池田信夫 ✔@ikedanob
これはGDPを計算する「SNA」を新基準に変更したために名目ベースで31兆円嵩上げされたんだよ。恥ずかしいから、自民党はこのツイートを削除したほうがいい。
0:37 – 2017年10月11日

SNA新基準対応に伴い名目GDPが大きくかさ上げされたのは事実だ。
しかし,それ「だけ」で31兆円かさ上げされた,との認識は誤りである。

専門家の池田信夫氏ですら気付いていないおぞましい事実がある。
これはアベノミクスに批判的な他の専門家達も気付いていない。

今度の選挙は自民党が大勝しそうな勢いだが,これを全国民が知ったら果たして自民党に投票するだろうか。

結論から言うと,「最新の国際的GDP算出基準への対応」を隠れ蓑にし,GDPが改ざんされている可能性が非常に高い。私はほぼ確信に至っている。

2016年12月8日,内閣府は新しい算出基準によるGDPを公表した。これに伴い,1994年度以降のGDPが全て改定された。

改定の概要は非常に単純化すると下記のとおり。

*1:「平成27年度国民経済計算年次推計(平成23年基準改定値)(フロー編)ポイント」2016年12月22日『内閣府』
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/h27/sankou/pdf/point20161222.pdf

1.実質GDPの基準年を平成17年から平成23年に変更
2.算出基準を1993SNAから2008SNAに変更
3.その他もろもろ変更
4.1994年まで遡って全部改定

「その他もろもろ変更」が最も重要なので覚えておいていただきたい。
この部分は,2008SNAとは全く関係無い。
以下,改定前の数値を「平成17年基準」,改定後の数値を「平成23年基準」と呼ぶ。

改定によって大きく名目GDPがかさ上げされた。改定前後を比較すると下記のとおり。

名目GDP改定前後比較

平成17年基準(青線)では,1997年度の521.3兆円が過去最大値であった。2015年度の500.6兆円と比較すると約20兆円もの差がある。
ところが,平成23年基準(オレンジ)では,1997年度がピークであることに変わりはないが,その額は533.1兆円。

他方,直近の2015年度の数字がなんと532.2兆円になっており,1997年度とほとんど同じ額になっているのである。
20兆円も差があったのに,改定によってその差が埋まってしまったということだ。

なぜそのようになるのか。下記のグラフを見ていただきたい。これは改定によるかさ上げ額を抜粋したものである。

名目かさ上げ幅

アベノミクス開始後の2013年度以降の額が突出しているのが分かるだろう。
2015年度なんて31.6兆円もかさ上げされている。これはアベノミクス開始直前である2012年度の約1.5倍である。
これをかさ上げ率にしてみると下記のとおり。

かさ上げ率

アベノミクス開始以降だけ5%を超える高いかさ上げ率を記録しているのが分かる。

問題は,このかさ上げの内訳である。以下,内閣府公表資料から抜粋する。

*2:「平成27年度国民経済計算年次推計(平成23年基準改定値)(フロー編)ポイント」2016年12月22日『内閣府』
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/h27/sankou/pdf/point20161222.pdf

名目GDPの改定要因について

かさ上げ額の内訳を大きく2つに分けると,
1.2008SNA対応によるもの
2.「その他」
である。

2008SNAというのはGDPの国際的な算出基準である。以前は1993SNAを使用していた。この算出基準の変更によって研究開発費等がGDPに加えられるので,名目GDPが大きくかさ上げされる。

*3:「GDP、基準改定で19.8兆円かさ上げ」2016年09月15日 『日本経済新聞』
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFS15H4U_V10C16A9EE8000/

まずは2008SNA対応によるかさ上げ額から見てみる。

2008SNAによる改定幅

これをかさ上げ率にすると下記のとおり。

2008SNAかさ上げ率

2015年度が1位,2014年度が2位,2013年度が3位。アベノミクス開始以降の年度が上位をすべて占めている。

だが,最も重要なのは「その他」のかさ上げ額だ。以下のグラフを見ていただきたい。

その他のかさ上げ額

アベノミクス開始以降の年度が異常にかさ上げされているのが一目瞭然である。アベノミクスの開始前とは全く比較にならない。

「その他」のかさ上げ額がプラスになること自体,過去22年度でたった6回しかない。そのうちの半分をアベノミクス以降が占めている。

さらに,アベノミクス前だと,「その他」の最高かさ上げ額は2005年度の0.7兆円。他方,アベノミクス開始以後だと下記のとおり。

・2013年度4兆円
・2014年度5.3兆円
・2015年度7.5兆円

桁が違い過ぎる。

そして,特に1990年代を見ていただきたい。かさ上げどころか,かさ「下げ」されている。全部マイナスである。1994年度なんてマイナス7.8兆円。

そして,かつて史上最高額を記録していた1997年度に注目である。「その他」で5兆円もマイナスになっている。

2015年度の名目GDPは「2008SNA対応」で24.1兆円,「その他」で7.5兆円もかさ上げされ,合計で実に31.6兆円のかさ上げ。

他方,改定前に史上最高額だった1997年度は,「2008SNA対応」で16.9兆円,「その他」でマイナス5兆円,合計で11.9兆円のかさ上げ。

同じ基準で改定したはずなのに,かさ上げ額に20兆円も差があるのだ。

その原因は,2008SNA対応部分でのかさ上げにも大きく差がある上,「その他」でさらに差を付けられたからである。

「その他」の部分だけ見ると,2015年度と1997年度には実に12.5兆円もの差が付いている。

この結果,改定後の2015年度名目GDPは,史上最高額である1997年度にほとんど追いついた。

そして・・・2016年度の名目GDPは1997年度を追い抜き,史上最高の537.5兆円を記録した。

もう一度言う。「その他」は2008SNAと全く関係無い。

この全く関係無い部分でかさ上げ額の不自然な調整がされ,2016年度名目GDPが「史上最高」を記録するという現象が起きている。

「その他」の内訳について,内閣府に問い合わせてみたが「内訳は無い」との回答であった。

じゃあどうやってこの空前絶後のかさ上げ額を算出したんだよ。

私はこの回答をもって,GDP改ざんを確信した。

さて,ここでもう1回さきほどの自民党広報ツイッターを見てみよう。


【データで見る!アベノミクス5年間の実績】
名目GDPはこの5年間で50兆円増加!過去最高の水準です。#アベノミクス の加速で #景気回復 #デフレ脱却 を実現します!多くの方に知っていただきたいのでぜひシェアにご協力ください!#この国を守り抜く #自民党 #衆院選 #拡散希望
20:44 – 2017年10月10日

「過去最高」と自慢している。
どう思うよ。俺は怒りで頭がおかしくなりそうだぜ。
国民の知らないところで凄まじいインチキがされている。

なぜこのようなことをするのか?

アベノミクスが大失敗に終わっているからである。うまくいっていればこのようなことをする必要は無い。
アベノミクスがどのような失敗をしたか,そして,どれほどおそろしい副作用が待っているか,それは拙著「アベノミクスによろしく」を読んでいただければ分かる。

GDP改ざん疑惑についてもより詳細に分析している。

下記リンクは書籍のダイジェストだが,これだけでもだいたい理解できるはず。

*3:「書籍版「アベノミクスによろしく」発売」2017年10月04日 『モノシリンの3分でまとめるモノシリ話』
http://blog.monoshirin.com/entry/2017/10/04/214417

この本では,「株価が上がった」「雇用が改善した」等,アベノミクスの成果とされているものまで全て客観的データをもって否定している。

この本を書かなければ,私の認識は「どれだけ自民党がひどくても,少なくとも経済は民主党時代よりマシ」という状態のままだったであろう。

今は違う。

アベノミクスは史上最低最悪の経済政策であり,我が国最大の国難である。
大失敗に終わっただけでなく,超巨大な副作用を孕んでいる。
民主党時代の方が圧倒的にマシであった。比較にすらならない。

この記事に対して文句を言いたくなる輩もいるだろうが,まずは拙著を読んでから文句を言っていただきたい。

追記

本当に内閣府に問い合わせたのか疑問という輩がいたので,内閣府から来た回答メールをここにそのまま載せる。

これは拙著の担当編集本川氏の問い合わせに対して,内閣府の市原氏から回答されたものである。太字部分は筆者。

—————

集英社インターナショナル 本川様

平素より大変お世話になっております。
内閣府経済社会総合研究所の市原と申します。

昨日お問い合わせのあった件について連絡が遅くなり、申し訳ありません。

当方で確認しましたところ、「その他」は平成23年基準改定のうち、「2008SNA対応」を除いた部分になりますが、
産業連関表の取り込み、定義・概念・分類の変更、その他の推計方法の変更(建設コモ法の見直し)等々が含まれ、
様々な要素があり、どの項目にどれほど影響しているか等の内訳はございません。

ですが、以下の資料でそれぞれ、2008SNA対応とそれ以外で詳しく解説がありますので、
ご参考までに送付させていただきます。

プレアナウンス*4
*4「国民経済計算の平成23年基準改定に向けて」2016年09月15日 『内閣府』
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/seibi/2008sna/pdf/20160915_2008sna.pdf

↓さらに詳しく
利用上の注意*5
*4「国民経済計算の平成 23 年基準改定の概要について」2016年11月30日 『内閣府』
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/h27/sankou/pdf/tyui27.pdf

↓さらに詳しく
季刊*6
*4「国民経済計算の平成23年基準改定に向けて」2016年09月30日 『内閣府』
http://www.esri.go.jp/jp/archive/snaq/snaq161/snaq161_c.pdf

————

もちろんリンク先の資料も私は見ている。

「その他」についての説明はされているが,「具体的に」「どの項目が」「いくら」という内訳は無い。

ここでもう一度かさ上げの内訳表を見ていただきたい。

見ての通り,2008SNA対応部分については詳細な内訳がある。
しかし「その他」については,まったく内訳がない。ここで変な操作がされているなんて,よく見なければ気づかない。

名目GDPの改定要因について

この事実だけは本当に国民に知ってもらいたい。是非拡散を。

追記2

ブコメを見ると「内訳が書いてある資料がある」との指摘がある。
これはデマ。
ちゃんと読めば分かる。
前述のとおり,内閣府の資料には「その他」の説明は書いてある。
しかし,それだけ。
肝心の「具体的な数字」が書いていない。
私はその点を問題にしている。
2008SNA対応部分は,説明がある上に,「数字」で内訳がはっきり書かれている。しかし,「その他」には「数字の内訳」が出てこない。
だからブラックボックスになっているのである。

追記3

アベノミクス以降のかさ上げ額が極端に増えているのは,研究開発費が増えたからだ,との指摘を目にした。

ここは重大な点だから強調しておく。
「研究・開発(R&D)の資本化」は,「2008SNA対応部分」だ。
「その他」とは全く関係無い。
だから問題にしてるのだよ私は。

なお,この異常なかさ上げ現象を,私は「カサアゲノミクス」と呼んでいる。

執筆: この記事は自民党広報のツイートに物申す~みんなこのインチキに気付いてくれ~(モノシリンの3分でまとめるモノシリ話)からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2017年10月16日時点のものです。

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