記者の取材活動が萎縮する!? 政府が準備する「秘密保全法制」とは

西山太吉氏

 「秘密保全法制と情報公開」について考えるシンポジウム(主催:日本弁護士会連合会)が、2012年4月13日に開かれた。シンポジウムには、沖縄返還の密約をめぐる外務省機密漏えい事件を描いたドラマ『運命の人』(TBSテレビ)の主人公のモデルで、元毎日新聞記者の西山太吉氏らが登壇し、政府が国会への提出を急いでいる「秘密保全法制に関する法案」(秘密保全法案)の背景や、その危険性について語った。

 外交や軍事などに関する”国家機密”の漏えいに対する罰則強化を骨子とする秘密保全法案。2011年8月に開かれた「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」が取りまとめた報告書を受け、政府は国会への提出を準備している。

 外交や軍事に関する機密情報の保護は、国家の安全保障の観点から欠かすことはできない。しかし一方で、秘密保全法制の整備によって、1971年の沖縄返還協定の”密約”のような情報が「特別秘密」の指定を名目に秘匿され、マスメディアなどの取材活動を萎縮させてしまい、ひいては国民の「知る権利」が侵害される可能性がある。

■”日本の機密情報”は”アメリカの機密情報”

 シンポジウムでは、かつて沖縄返還の密約をめぐる外務省機密漏えい事件で有罪となった西山氏は、政府がいま秘密保全法制の整備を急ぐ背景について、

「今まで数十年間”機密”と言われてきた内容は、99%と言ってもいいぐらい、日米同盟に関する機密事項だ。(政権交代後に日米同盟を見直す)チャレンジが失敗し、外務・防衛官僚が復権し、日米同盟に関するキャリー(運用)の仕方が完全に元の鞘に戻った。それと同時に、機密保全の問題が頭をもたげてきた」

と分析。西山氏はさらに、「アメリカの要請を受けて陸上自衛隊につくられた中央即応集団は、在日米軍のキャンプ座間の傘下に入っている」「航空自衛隊総隊指令部は、横田の在日米軍第6軍司令部と一緒になっている」とした上で、

「アメリカの機密と日本の機密には境界線がない(ということだ)。軍事機密も外交機密も、日本の自衛隊と在日米軍との間には境界がない。日米軍事同盟の実態は、完全な共同体に近い。機密というものは、”自衛隊の機密”は”アメリカの機密”であり、”アメリカの機密”は”日本の機密”になる」

と述べ、秘密保全法案の制定を政府が目指す背景には、アメリカの軍事・外交戦略に日本政府が協力・従属している構図が関係しているとする見解を述べた。

■「秘密保全法」の恣意的な運用でジャーナリストが摘発される!?

 シンポジウム後半のパネルディスカッションでは、東京新聞論説兼編集委員の半田滋氏と上智大学文学部教授の田島泰彦氏が登壇した。半田氏は、およそ20年間に渡って防衛省を取材した経験から、秘密保全法が成立した場合に「取材がやりにくくなるだろう」との所感を述べた上で、

「(情報保全法が)適応されるものとして、国の安全、外交、公共の安全・秩序維持が挙げられるが、どういうものを指しているのか、はっきりわからない。何が法律違反になるかがわからないので、運用者の恣意的な判断次第で、いくらでも我々ジャーナリストが摘発されるようになるんじゃないか」

と語り、取材活動が萎縮し、国民の「知る権利」が失われる危険性を指摘した。

 また、憲法学者である田島氏は、

「これまでは、(法律で漏洩を禁止しているものは)防衛情報の漏洩についてだ。外交は入っていない。だから、(政府としては)外交も加えたい(と考えている)。(秘密保全法制には)国家の安全・外交・公共の安全と秩序の維持、はっきり言って何でもあり。原発だって当然入る」

と述べ、秘密保全法制によって軍事・外交情報だけでなく、原発の安全性など、国が持つあらゆる情報へのアクセスが抑圧される可能性に警鐘を鳴らした。

◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]西山太吉氏が「秘密保全法制」を語る部分から視聴 – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv88799437?po=newsgetnews&ref=news#0:27:27

(吉川慧)

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