ゲーム開発をテーマに開催 アドビの開発者向けイベント『ADC MEETUP ROUND04』レポート

ゲーム開発をテーマに開催 アドビの開発者向けイベント『ADC MEETUP ROUND04』レポート

アドビ システムズは、アドビ製品の開発者向けイベント『ADC MEETUP ROUND04』を2月28日に開催しました。モバイルをテーマにした第1回、HTML5/CSS3/jQuery Mobileをテーマにした第2回、米国で開催されたカンファレンス『Adobe MAX 2011』をフォローアップした第3回に続く今回のテーマは「Social Gaming」。ソーシャルゲームやスマートフォンアプリ、ブラウザベースの3Dゲームなど、Flashプラットフォームをベースにしたゲーム開発の事例が紹介されました。

ソーシャルゲームにフォーカスするFlashプラットフォーム

ゲーム開発は、FlashプラットフォームがHTML5に対して優位性をアピールでき、今後アドビがフォーカスする分野のひとつ。同社によるセッション『ソーシャルゲーム市場とアドビ Flash 戦略』では、同社ソリューショナーキテクトのAndy Hall氏とデベロッパーマーケティングスペシャリストの轟啓介氏が、国内外のソーシャルゲームの現状とFlashプラットフォームの最新動向を伝えました。

ゲーム市場の成長予測

国内のソーシャルゲームの市場規模は成長が予測され、さらに課金ユーザーの増加が見込まれています。米国の現状は「ゲーマー」と定義される人口が2008年の5600万人から2011年には約3倍の1億3500万人に増加。中でも家庭内で母親層のソーシャルゲームを遊ぶユーザーが増えているとのこと。ゲーム市場は今後モバイル、ソーシャルゲーム、基本プレイ無料のオンラインゲームで成長が見込まれています。アドビはこの3分野でのゲーム開発を支援していくと発表。

日本市場の今後については「ソーシャル・カジュアルコンテンツの定着」「モバイルゲームの普及」「課金への慣れ」が課題である一方、携帯課金に親しんだ日本は「ソーシャルゲームの先進国」(Hall氏)であり、日本の技術とノウハウを持って世界に出て行けばビジネスチャンスがあると主張しました。

ハードウェアアクセラレーションによる2D/3D描画機能『Stage3D』 『AIR』により複数プラットフォームへのアプリ書き出しが可能 『AIR』に実装された“ネイティブ拡張”

Flashプラットフォームのゲームに向けた機能としては、『Flash Player 11』のハードウェアアクセラレーションによる2D/3D描画機能『Stage3D』、同じFlashのソースファイルからアプリケーション実行環境『AIR』を利用してモバイル向けにAndroid/iOSのアプリを書き出す機能、デバイスやOS固有の機能を活用できる“ネイティブ拡張”を紹介。これらは続いて紹介するユーザー事例のセッションでもキーとなる技術です。

Flash/AIR最新版の特徴 『BunnyMark』によるパフォーマンステスト

続いて、Flashプラットフォームの次期版『Flash Player 11.2』と『AIR 3.2』の新機能が紹介されます。モバイル環境で利用可能になる『Stage3D』は、シューティングゲームや『iPad2』上で動作するベンチマークソフト『BunnyMark』によるパフォーマンステストが実演されました。『BunnyMark』は、画面上に表示するウサギの数を増やしていき、フレームレートを計測するベンチマークソフト。『Stage3D』を利用した場合には4250匹表示しても60FPSのフレームレートを実現するとのこと。

その後、2012年中には“Cyrill”“Dolores”のコードネームの2バージョンの『Flash Player』がリリースされ、2013年には『Flash Player NEXT』のリリースを予定しています。開発者向けツールでは、Flashコンテンツのパフォーマンスチューニングに利用する解析ツール『Monocle』、既存のCやC++で書かれたコードをFlashプラットフォームで活用できる『Alchemy2』、Flashプラットフォームのスクリプト言語ActionScriptを複数スレッドで同時実行する『Worker』を準備していることを発表しました。

スクエニはコンソールゲームのクオリティをFlashで実現

スクウェア・エニックスのデモ

ユーザー事例セッションで最も注目を集めたのが、スクウェア・エニックスオンライン事業部テクニカルプランナーの月岡伸博氏が登壇したセッション『コンソールゲームクオリティのStage3D研究開発』。同社は、国内ではパソコン(PC)のハード環境整備やソフトのインストールを手間に思うユーザーが多い一方、ソーシャルゲームの普及によりブラウザでプレイするゲームユーザーが増えていることに着目。ブラウザで気軽にプレイでき、協力や対戦の要素を持たせたウェブゲームの研究開発を進めています。自社のコンソール機のリソースを利用して、グラフィックのクオリティをブラウザ上で再現し、どこまで動作するか検証した成果が発表されました。

コンテンツを動作させる環境として、『Flash Player』の普及率の高さ、3D表示性能の高さ、『AIR』経由で可能になる複数デバイス展開の観点から『Stage3D』を採用。30FPSのフレームレートを目標に、ロード時間を短くする、3Dモデルの陰影処理や影のリアルさ、背景の空気感の処理を意識したというデモを発表します。

発表されたデモは、3DモデルとしてPS2『ファイナルファンタジーXII』とWii『FFCCクリスタルベアラー』からモンスターとフィールドマップのモデルを利用したもの。モンスターのリング部分の環境マッピングの美しさ、ドロップシャドーがリアルなこと、背景はライト処理、フォグ処理でクオリティを高めていることなどが紹介されました。競技場マップはそのまま、モンスターもほぼそのまま利用しているとのこと。

Colladaファイルから独自のファイル形式に変換して読み込む手法を考案

開発には、フリーランスのFlashクリエーターである『sipo.jp』の尾野政樹氏が参加。ウェブ向けにコンテンツを開発するノウハウを盛り込んでいます。尾野氏を中心に、『ClockMaker』の池田泰延氏、『丸林商店』の酒井直一氏、ActionScriptのコード開発者コミュニティ『wonderfl』などで作品を発表する小川穣氏がプロジェクトに参加。『Stage3D』とロシア製の3Dエンジン『Altanativa3D』を組み合わせた3Dコンテンツの開発工程について検討を進めました。

尾野氏らは、3DモデルをFlashに読み込む際、XMLベースの中間フォーマットであるColladaファイルを利用するとファイルサイズが大きく、変換速度が遅いという課題に対して、Colladaファイルから独自のファイル形式に変換して読み込む手法を考案。これにより、PS2レベルの表現が可能になると発表しました。

『BARTS』のデモ

月岡氏はこの成果を盛り込んだゲーム『BARTS』をデモ。プレイヤー1人、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)4人を動作させて30FPSのフレームレートを実現しています。『Stage3D』ではGPUによるハードウェアアクセラレーションが必要になる一方で、ノートPCユーザーが多い日本ではオンボードチップでも動作させることが重要。これに対してスクウェア・エニックスはアドビへ要望を出し、『Flash Player 11.2』からGPUドライバの制限が緩和されています。これにより、2008年のノートPCでもドライバを更新すれば30FPSで動作が可能に。タブレットなどモバイルデバイス向けにはテクスチャメモリーを抑えることで実用レベルの動作が実現しています。公開が楽しみなコンテンツですね。

『Angry Birds』の『Facebook』版はFlashで開発

『Angry Birds』を開発するRovio Entertainmentが登壇

スマートフォンを中心に人気を集めるゲーム『Angry Birds』を開発するRovio EntertainmentのAntti Sonninen氏は、『世界的ヒットゲームAngry Birds Facebook – powered by Adobe Flash』のセッションに登壇。「なぜアドビのセッションに?」と思うかもしれませんが、2月14日にリリースされた『Angry Birds Facebook』は、Flashプラットフォームを利用して開発されています。Flashプラットフォームを採用した経緯や開発の過程、今後の展開が発表されました。

『Facebook』版の開発にFlashを利用

同社は2011年の春に『Flash Player 10』向けにプロトタイプを開発。この時点では開発は容易だったものの、目標とする60FPSの動作は実現しなかったため、Flashバージョンの開発を保留。『Flash Player 11』のリリース後に、『Stage3D』の実装、動作環境がハードに依存しないこと、スクリーンサイズが異なってもフレームレートに影響を与えないこと、CPUの処理をプログラムコードの実行にフォーカスできることをメリットとして考え、開発を再開しました。結果として、60FPSが実現し、爆発のパーティクルを5倍に増やせる、フルスクリーンでもきれいに表示できる、SNSへの実装が容易というメリットが得られたそうです。

3月に公開された日本をテーマにしたエピソード『Cherry Blossom』

今後の展開として、3月に公開された日本をテーマにしたエピソード『Cherry Blossom』、新ゲーム『Angry Birds Space』が予告されました。

スマートフォンアプリを個人で制作

スマートフォンアプリの制作事例を発表

Flashプラットフォームを利用して個人でスマートフォンアプリを制作する事例を発表したのは、ガジェット通信でも『きょうのしかく』『ワクチンケース』をご紹介した中野亘氏。『あらかじめ知っておきたい幾つかのコト – Flash ひとつでスマホアプリ制作』のセッションに登壇しました。

複数ファイルを1ファイルにまとめる作業が中心だった

『きょうのしかく』は、画面の四角をマウス操作で移動させ、その日の日付けを出現させるFlashゲームで、1年365日分のステージが用意されています。PC用のウェブゲームとして公開した作品をまずiPhoneアプリに移植。iOSではアプリがFlashから書き出したswfファイルを扱うことができないため、ウェブ版ではメインのゲームファイルが日ごとのステージのswfファイルを読み込む仕様にしていたものを、すべてひとつのファイルにまとめるという作業が発生しました。まとめたファイルを『AIR』によりiPhoneアプリとして書き出します。スマートフォン操作に向けてステージごとに動作の調整があったものの、移植作業は「ほぼコピペ」で、「驚くほど簡単にできた」(中野氏)。Android向けにはホームボタンへの対応や解像度の調整など、iPhone向けに作ったものから1週間程度で調整できるので、アップルのアプリ審査を待つ間にできるとのこと。

タッチ操作するオブジェクトは縦横44ピクセル以上に 認識範囲を45°傾けて配置

『ワクチンケース』は、タッチ操作でステージのパーティションを開いて、ワクチンを流し込んでウイルスを消していくパズルゲーム。タッチ操作に向いていることからアプリとして企画したものの、実際に作ってみるとボタンが指で隠れたり、手の甲で画面が覆われるなど、思った以上に指が邪魔になることに気づきます。そこで、タッチ操作するオブジェクトは縦横44ピクセル以上にするというルールを考案。タッチの認識範囲は、パーティションを対角線にして45°傾けた正方形にして、認識範囲が重ならないステージデザインを心がけたとのこと。全100ステージの終盤ではオブジェクト数が多くなり、処理が重くなるステージもあったものの、『AIR』のバージョンが2.6から3.0に上がったことで解消。描画処理に負荷がかかるドロップシャドーなどの多用は避けるべきとアドバイスしていました。

スマートフォンアプリとしては3作目の『スリラーマンション』は、『ゲーム&ウオッチ』のような携帯液晶ゲーム機をイメージしたゲーム。年末年始の1週間で制作したとのことで、気軽にスピーディーに作れるという点が『Flash』を利用するメリット。開発者のハードルとしては、最新のAction Script 3.0を使う、iOS/Androidとも有償の開発者登録が必要なこと、登録の手続きに英語を使うことを挙げていましたが、「自分が作ったアプリがスマートフォンで動くのは感動するもの。是非作ってみてください」とエールを送り、セッションを終了しました。

プロモーションで成果を出すソーシャルコンテンツ

91万6000種類のバナーが公開されたナイキの“ソーシャルバナー”

バスキュール/バスキュール号 テクニカルディレクターの北島ハリー氏は、『Facebook、mixi アプリ制作TIPS大公開!』のセッションに登壇。『mixi』アプリの事例を中心に、ソーシャル要素を持たせたプロモーション用コンテンツ制作の事例を発表しました。

アクションRPG『OTTIKI』、2Dドット絵の横スクロールアクション『ヨバゲー』、ハリウッドを舞台にしたアドベンチャー『The Actress』といったソーシャルゲームを『mixi』アプリとして展開してきた同社。ナイキジャパンのプロモーションとして、ユーザーがカスタマイズしたシューズをバナー上に公開できる“ソーシャルバナー”の企画では、ユーザーにより91万6000種類のバナーが公開され、CTR(クリック数の割合)は通常のバナーと比較してPCで10倍、モバイルで16倍という成果を上げたと発表しました。

ユーザーが1億8000万回ベルを鳴らした『mixiクリスマス』

2011年のクリスマスシーズンに公開した『mixiクリスマス』では、友だちが飾る靴下のベルを鳴らすという仕掛けに対して、ユーザーが1億8000万回ベルを鳴らすという成果を上げたとのこと。これらは『Flash』で制作し、「いちばん言いたいことをいえるのがPCのFlash。スマートフォン向けもリッチにできた」(北島氏)とコメントしていました。

『Mobage』と『GREE』は“ネイティブ拡張”を活用

『Mobage』で“ネイティブ拡張”を活用へ

ソーシャルゲームプラットフォーム『Mobage』と『GREE』は、いずれも『AIR』で書き出したiPhone/Androidアプリからプラットフォームが用意するログインや課金などのAPI(Application Programming Interface)を利用可能にするために“ネイティブ拡張”を利用する構想を発表しました。

ディー・エヌ・エー CTO室ソフトウェアエンジニアの藤吾郎氏は『Mobage open platform and Mobage SDK for Adobe AIR』のセッションに登壇。同社は『Mobage』向けに用意しているJavaやObjective-Cで記述されたSDK(ソフトウェア開発キット)『Mobage Native SDK』を『AIR』アプリから“ネイティブ拡張”を経由して利用可能にする『Mobage AIR SDK』の提供を予定しています。これにより、ログインやランキング、課金などの『Mobage』の機能を利用でき、開発者はゲームロジックの開発に専念できることを『AIR』アプリのデモを交えながら説明。「ソーシャルゲームの新しい形に挑戦してほしい」(藤氏)と開発者に呼びかけました。

グリーの“ネイティブ拡張”(ANE)利用イメージ

グリー取締役執行役員CTO 開発本部長の藤本真樹氏は『Developing Smartphone Native Social Apps with Adobe AIR 3』のセッションに登壇しました。同社はアドビがFlashプラットフォームの“ネイティブ拡張”を発表した直後に『Adobe AIR 3.0 Plugin for GREE SDK』の提供を発表しています。同社は『AIR』について、グラフィックのパフォーマンスがよいことやFlash開発者の数が多く、これまでの経験やノウハウが生かせること、マルチプラットフォームで動作することを評価。『GREE』が持つソーシャルグラフや課金、ゲーム向けの機能を『AIR』アプリで利用可能にしていく考え。開発者に向けて「いろんなトライをして、日本にとどまらず世界に出て行けばワクワクする」(藤本氏)とコメントしていました。

当日の詳細なレポートや動画は、『Adobe Developer Connection』で公開されています。

Adobe Developer Connection
http://www.adobe.com/jp/devnet/socialgaming.html

米Adobe Systems社はゲーム開発者向けに技術情報や最新事例を紹介する『Adobe Gaming』を公開中。この分野への注力がうかがえます。インディーズゲームからコンシューマー機レベルのゲームまで、日本で生まれたゲームがFlashプラットフォームを利用して今後世界にも広がっていくことに期待したいところです。

Adobe Gaming
http://gaming.adobe.com/[リンク]

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shnsk

宮原俊介(エグゼクティブマネージャー) 酒と音楽とプロレスを愛する、未来検索ブラジルのコンテンツプロデューサー。2010年3月~2019年11月まで2代目編集長、2019年12月~2024年3月に編集主幹を務め現職。ゲームコミュニティ『モゲラ』も担当してます

ウェブサイト: http://mogera.jp/

TwitterID: shnskm

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