福島ではなぜ、6000戸以上の木造仮設住宅を建てることができたのか?
仮設住宅と聞くと、まずプレハブ型の仮設住宅を思い浮かべる。“ログハウス工法”や、壁材に横板を用い壁塗りを行わない”木造板倉工法”などでつくられた、木造の仮設住宅をイメージする人は多くないだろう。未曽有の広域被害をもたらした2011年3月11日の東日本大震災。現在も福島県内に残る6000戸以上もの「木造仮設住宅群」は、東日本大震災後に誕生した、全国的にも珍しい事例だ。甚大な被害をもたらした震災後に、福島県ではなぜ、木造仮設住宅を建設することができたのか? 木造仮設住宅のメリットは何か。今後の災害対策に地域防災として教訓をどう活かせるか。9月1日の防災の日を前に、福島県土木部の建築住宅課の榊枝克幸さん、建築住宅課の須藤祐樹さんに話を聞いた。
「とにかく早く住む場所を」の地元の強い思いが木造仮設住宅へとつながった
そもそも、災害時の応急的な住宅対策には、以下のような3本の柱がある。
(1)建設型の仮設住宅の供給
(2)民間賃貸住宅を借り上げて提供する「みなし仮設」
(3)既存の公営住宅の空き住戸の提供
そのうち、(1)建設型の仮設住宅は、通常は各自治体と災害協定を結ぶ一般社団法人プレハブ建築協会(以下、プレハブ建築協会)が供給することになっている。しかし、福島県では、プレハブ建築協会提供の仮設住宅以外にも、地元工務店が木造仮設住宅を建設している。まず、木造仮設住宅を建設することになった経緯を伺った。
「岩手県、宮城県も被災しましたが、福島県では、地震、津波、さらに原子力発電事故があり、前例がないほど大規模な住宅の確保が必要になりました。東日本大震災が発生した3月末の時点では約1万4000戸が必要になりましたが、ストックや資材がなく、プレハブ建築協会だけで短期間に住宅を供給するのはかなり厳しいと分かりました。そこで、地元工務店に仮設住宅建設の門戸を開けないかと、福島県内1万4000戸のうち、不足する4000戸について公募を行いました」(榊枝さん)
震災からわずか31日後の4月11日、福島県は仮設住宅建設の公募を開始した。住む場所をとにかく早く確保しなければというスピード感と、仮設といえども安心して暮らせる住宅を供給しなければという想いから、早期に公募を決定。そのとき、木造も公募対象にしたのは、以下のような理由だ。
(1)プレハブ建築協会の供給に加えて、地元公募型による供給の2つの方法でスピードアップが図れること
(2)地元工務店を支援する地域型の木造住宅建築のネットワークが既に形成されていたこと
(3)県産材や県内の木造住宅を得意とする工務店を活用することにより県内への経済効果が期待できること
もちろん、地元の工務店の地域に貢献したいという意欲や申し出があったこともポイントだ。
公募は、建設に関して一定の前提基準を示したうえで、企画を審査して優れた提案を選ぶ、透明性、平等性の高いプロポーザル方式を採用し、スピードと精度を確保した。そして、初期段階で必要とされた1万6800戸の仮設住宅のうち、地元工務店から1次・2次公募を合わせて27業者が採択され、全体の1/3以上にあたる6819戸(うち6319戸が木造)が2011年5月31日から2013年3月6日までに供給された(ほとんどは2012年3月末までに完成)。【画像1】福島県いわき市平上山口の応急仮設住宅。暖かく住みやすいと人気の木造板倉工法による木造住宅(画像提供/福島県土木部)
3月に公募を決めて4月に1次公募を開始。震災の混乱のなかで、非常にスピーディーに地元による木造仮設住宅のプロジェクトが進んだのはなぜだろうか。
「いくら行政がやろうとしても、やってくれる人がいなければ進みません。建設業協会、電設業協会、空調衛生協会など県内の事業者団体からぜひ地元に貢献したい、という申し出があったことが一番です。さらに、地元工務店同士の連携、大学の先生、研究者、施工者、製材業者など幅広いネットワークが機能しました。とにかく1日も早く住む所を確保しなければならない状況で、地元の思いを生かすことで早急に住宅が供給できたことは非常によかったと思います」と話す榊枝さん。
震災前から地元工務店、大工の育成を目的に、県の建築住宅課と地元業者が情報交換などを行い、交流があったことも大きい。「二次的なことですが、県産材や県内の建築業者を活用するということでの人材発掘の効果、復興や経済効果への期待もありました。短期間で公募が決定できたのは、そういう土壌があってこそですね」
無垢材ならではの快適さ!木造仮設と同じような新居を希望した入居者も
福島市飯坂町にある応急仮設住宅建設地を訪ねた。
ログハウス工法、木造板倉工法の家を見学したが、建設して6年以上経っても、室内は木の香りがする。仮設住宅とは思えないほど、しっかりとした造りだ。プレハブ住宅と建設面、住み心地の面でどのような違いがあるか、専門建築技師(応急仮設住宅担当)の須藤祐樹さんに聞いた。
「仮設住宅の工期は標準的に1カ月ですが、木造仮設住宅は標準化されていないため、平均でプレハブ仮設住宅の約1.5倍かかりました。例えばログハウス工法は工場で組み立てて現場施工、木造軸組工法は現場組み立てとタイプにより工程も異なります。また、手づくりなので、コストもプレハブ住宅より割高にはなります」(須藤さん) 【画像2】福島県福島市飯坂町で地元工務店により建設された木造仮設住宅。いろいろなタイプがあるが、画像2は、ログハウス工法によるもの。外壁の絵は地元の高校の美術部の生徒が描いた(写真撮影/筆者) 【画像3】福島県福島市飯坂町で地元工務店により建設された木造仮設住宅のうち木造パネル化工法を採用した住宅。広さは20m2、30m2、40m2で、2DKまである(写真撮影/筆者)【画像4】福島県福島市飯坂町の応急仮設住宅群のうち、非木造のプレハブ住宅(写真撮影/筆者)
実際に住むと気になるのが性能面。「甚大な災害でしたので、かなり長期になるだろうと予測しました。そのため、建物自体は通常の住宅ぐらいの耐用年数を想定して建設しました。公募の時点で、断熱材の厚さはmm単位まで、開口部はペアガラスといった仕様など、数多くの項目で細かい基準を提示してクリアできる業者を選んだため、従来にないほど質の高い住宅が供給できていると思います。但し、基礎は解体しやすさを考慮したつくりになっています」と榊枝さん。
建設から6年以上経ち、台風や地震の際も問題ないが、雨が降ると基礎が雨ざらしになる。「雨の影響もあり、木の性質上、腐れやシロアリ被害があるのは仕方がないこと。毎年1回、基礎を中心に点検し、メンテナンスを行っています」(須藤さん) 【画像5】福島県いわき市平上山口のの応急仮設住宅群の木造板倉工法の内観。通常の木造軸組工法の約2倍の木材を使用しつつ、耐震性能、防火性能も高めている(写真提供/福島県土木部) 【画像6】福島県福島市飯坂町の応急仮設住宅群のログハウス工法の内観。無垢の表しの室内は木の香りが気持ち良く、ぬくもりが感じられる(写真撮影/筆者)【画像7】福島県福島市飯坂町の応急仮設住宅群の内観。アコーディオンカーテンで仕切れる多目的な間取りになっている。新建材を使わない室内の空気は爽やかだ(写真撮影/筆者)
住み心地はおおむね好評だ。「木造住宅は人気が高く、入居者から住み心地がいいという声を聞きます。無垢の表しで、調湿作用があり木材の良さがでます。雨漏りは多少ありましたが、断熱性もかなり良く、結露がかなり少ないと聞きます」(榊枝さん)。住み心地が快適なことから、浪江町では、ログハウスタイプの仮設住宅に住んでいた人が自宅を建てる際に「仮設のログハウスと同じように建てたい」と、仮設住宅を建てた地元建設業者に直接依頼したエピソードもある。
仮設住宅の用地確保や、地元の特性を活かした地域防災対策が必要
昨今は全国的に自然災害が増えている。福島県での木造仮設住宅の建設の経験を踏まえて、他地域で活かせるヒントや日ごろから準備しておくべきことを聞いた。
「建設型仮設住宅を建てる際、用地の確保が大変でした。災害の規模にもよりますが、日ごろから、万が一のときに使える公共用地があるか、ある程度想定しておくことが大事です。また、仮設住宅を建ててから、入居者の要望で追い焚き機能、サッシ、畳、エアコン、手摺りの設置などの追加工事や追加費用が大変だったので、最初から必要な設備を盛り込んでおくべきでした」(榊枝さん)
福島県での木造仮設住宅の県内施工という事例を、首都圏や他地域でそのまま活かすのは難しいという。
「東北という地域性、福島という木材の産地というなかでの木造仮設住宅。規模にもよりますが、例えば、民間賃貸住宅が潤沢な地域であれば、民間賃貸住宅を使って素早く供給することができるかもしれない。被災者は、今まで住んでいた地域や文化に根づいた暮らしと、全く違う暮らし方をするのは難しい。だからこそ、住んでいる県独自の特色、地域性を活かした災害対策が必ずあると思います」(榊枝さん)とアドバイスをくれた。
なお、福島県の木造仮設住宅の一部は今年度(2018年3月)で供給が終了となる。そうなると、次の課題として、解体に際してのコストや廃棄物の問題がもちあがる。
「木造仮設住宅を次の恒久的な利用につなげていくこも、最初に県内事業者に木造仮設住宅建設の公募を行った目的のひとつです。特に2次公募では、解体が容易で、次のステップである恒久的な住宅に積極的に利用できるかどうかも、審査基準に加えました」(榊枝さん)
木造仮設住宅の入居率は福島県全体で約23%だが、地震、津波被害のみのところは今年3月で供給が終了し、解体も増えている。そうなると、せっかくつくったものを単に壊し大量の廃棄物を出すこと、解体にコストがかかることも次の課題としてある。
また、2016年度からは、木造仮設住宅の「無償譲渡」を始めた。木造板倉の3戸をNPO法人に、浪江町のログハウス20戸を浪江町へ、川内村の木造在来軸組の48戸を川内村へと、これまで80戸ほど無償譲渡が行われた。農業従事者、研修生の宿泊施設、企業の社宅など、ほしいという声は徐々に増えて、今年7月からは、個人商店を含む民間事業者にも広がっている。なお、解体費、移築先での基礎などの工事費、組み上げ費用などは、譲渡先が負担する。
福島県での地元工務店による6000戸以上もの木造仮設住宅の建設は、災害が起きたときにすぐに動けるネットワークが普段からあり、地元の関連業者が自主的に役に立ちたいと名乗りをあげる土壌があって実現した。福島県の例を参考に、災害で自宅に住めなくなった場合、どんな方法で住宅を確保するのか、住宅を建てる用地はあるのか。地域や文化に合わせて、行政や建築業者、建築や街づくりの専門家個人が連携して皆で考えておきたい。●取材協力
・福島県
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