小嶋陽太郎『ぼくらはその日まで』の甘酸っぱさにノックアウトされる!
本書を読まれるにあたって、ぜひおすすめしたいことがふたつ。ひとつは、先に前作『ぼくのとなりにきみ』(ポプラ社刊。よろしければ、2月15日更新のバックナンバーをお読みになってみてください)を読んでおくこと。もうひとつは、読書される部屋の床に置いてあるものをどけてなるべく広めのスペースを作ること。ひとつめはわかるけど、ふたつめは何のためかって? それは、『ぼくらはその日まで』のあまりの甘酸っぱさにノックアウトされて身悶えしてもだいじょうぶなようにするためさ(私も夫と息子らが出払ったすきを見計らい、心ゆくまで和室をゴロゴロと転げ回りました)!
『ぼくのとなり〜』に引き続いて、主要人物は「長谷川調査隊」の3名。この隊のリーダーで、スポーツ万能かつ天真爛漫なハセ(名字はもちろん長谷川)。不思議ちゃん的行動が目立つチカ(近田さん)。そして、シリーズを通じての語り手である慎重派のサク(佐久田くん)。前作では中1だった彼らも2年生に進級した。サクがチカに思いを寄せているのは相変わらずだが、本書では他にもさまざまな恋の話が登場する。新キャラのひとりは、ハセに片思いしているサクのクラスメイト・水瀬さん。と見せかけて、実は…? もうひとりのニューフェイスは、ハセが恋に落ちた高3の桐子さん。あのハセが! 大事なことだから二度言う、あのハセが!
2年生になるにあたって、昨年度までは全員同じクラスだった3人のうち、サクだけが違う組になってしまった。学校という場が人生のほぼすべてを占めることになりがちな中学生にとって、これはけっこうキツい事案だろう(同性同士であっても、3人グループでひとりだけ違うクラスになってしまったりすると疎外感がハンパなかったことを思い出す)。水瀬さんのハセへの恋心を打ち明けられて、自分の親友が知らないうちにかっこいい男に成長していたのかもしれないと気づくサク。自分を置きざりにしてハセの方がチカとなかよくなってしまうのではないか、と疑心暗鬼に陥る。
が、厳しいようだが、それで疎遠になるような仲ならそれまでの縁ということなのだ。長谷川調査隊の結束はそんなヤワなものではない(断言)! サクの物思いなどにはもちろん気づくはずもなく、ハセは夏休みに合宿を行うことを提案する。ハセの祖父母の家に10日間の泊まり込みという気合いの入ったスケジュール。意気揚々と出かけた3人が、ハセ祖父母の家の近所にある神社で出会ったのが桐子さんだった。彼女もなかなかに謎の人物である。美人だがやや変わった口調でしゃべり、どうも複雑な家庭環境であるらしい桐子さんも交え、夏の10日間が過ぎてゆく…。
恋バナ花盛りの物語を読むことになるとは、この1年で3人もずいぶんと成長したものだなあとしみじみ(まあ、チカについてはそっち方面はあんまりだが)。とはいえ、人間には変わる部分と変わらない部分がある。いや、変えるよう努力した方がいい部分と変えなくてもいい部分というべきか。ヒーローを目指していた頃のハセのような気持ちを持ったまま、みんな大人になれたらいい。
小嶋作品でいつも感心させられるのは、家族の存在がしっかりと描かれていることだ。特に若手作家の小説においてよくある気がするが、バックグラウンドのようなものにまったく言及されない若者がしばしば登場する。「ちょっと家の人に相談してみたらいいのに」と思うような問題もひとりで背負い込み、まるで自分だけの力でここまで成長してきましたみたいなたたずまい。もちろん若い人の孤独感を描写するには効果的な場合もあることはわかるのだが、もはや完全に中高年となってしまった身としては「もっと親や祖父母を大切に…」とつい苦言を呈したくなるもの。ハセが祖父母の家に着くとまずお墓参りをすることにしている、というエピソードにはぐっときた(そのハセにぐっときたサクにもぐっときた)。
果たしてシリーズ3作目はあるのだろうか? 読者としては、長谷川調査隊と来年の夏に再会しようと約束した桐子さんの言葉に期待したい。『ぼくのとなり〜』のマイ推しキャラだった竹丸先輩が卒業してしまったいま、次に注目している同じく美術部の間宮先輩(こちらは女子)の今後も気になるし。きっとハセ的少年の心を持ちつつ、サクのような繊細さで作品を書かれている小嶋陽太郎さん、続編についてのご検討よろしくお願いいたします!
(松井ゆかり)
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