『真実のビートルズ・サウンド完全版』ベストセラー記念対談 川瀬泰雄 × 野口広之(ギター・マガジン元編集長)

ビートルズのサウンドや楽器の演奏の仕方を解き明かした史上初の『真実のビートルズ・サウンド完全版 全213曲の音楽的マジックを解明』(リットーミュージック)。4月13日の発売以降、Amazon部門別ランキングの4冠も達成するなど話題を振りまいている本書ですが、今回ベストセラーを記念して、著者でありビートルズ研究家の川瀬泰雄さんと編集を担当した野口広之(ギター・マガジン元編集長)による対談をお届けします。

野口 今日はAmazonの3部門のランキングで1位をキープしていますが、4冠のときもあったんですよ。それにしても分厚い本(厚さ32mm)になりました(笑)。

川瀬 かなり(野口さんに)カットされた原稿もあるので、あれが入ってたら800ページくらいになっていたかもしれませんね(笑)。

野口 この本の前に、2008年に学研新書で『真実のビートルズ・サウンド』を出されていますよね?

川瀬 自分としては今回のような完全版を作りたかったけど、「新書版」で出すことが最初に決まっていたので、どうやったら少ないページの中に面白い文章を詰め込めるか常に考えていましたね。けっこう話題になってくれて、発売から1週間もしないうちに、僕のところにも続々と反響が届いてきました。今回は反響が遅かったんですよ。なんでだろうと思ってたら、発売後しばらく経ってから聞こえてくるようになりましたよね。本がすごく厚いから、読者の「読了時間」が前のときと違ったんですね(笑)。

野口 あはは! 確かにこの本を最初から最後まで読み終えるのは、簡単ではないかもしれないですね。自分の好きな曲から読み始めるのもいいですよ。だって半分「事典」のようなものですからね。Amazonのレビューの中に、すごく嬉しい感想があって。「ギターを片手にページをめくりながらCDを聴く。今まで聞こえなかった音が聴こえてきます。そしてギターでつま弾いてみる。楽しめる本です。」って。

川瀬 僕自身、リアルタイムでビートルズのコピーをしてて、サウンドを研究してましたが、当時はモノラルで、プレイヤーもかなりいい加減なポータブル。細かい音なんてぜんぜん聴こえてなかったんです。それが今はステレオだしヘッドフォンの性能もものすごくあがって。原稿を書きながら音を聴き返すわけですが、「あれー? こんな音もあんな音も聴こえてくる!」って、びっくりするわけですよ。

野口 サウンドが全然違うんですよね。

川瀬 どうせやるならちゃんとやりたい。研究して、書き留めたことを、人に言いたくて仕方ないんですよ(笑)。

野口 原稿を書いていた期間は8カ月くらいでしたが、実際どんな毎日でした?

川瀬 嫌いになりそうだった! あまりにも毎日毎日ビートルズを聴いてたから。でもそうならないのがビートルズのすごいところですよね。2008年に本を出した後、2009年にオリジナル・アルバムのリマスター版が出たんですけど、そうしたらまた余計なものが聴こえるようになっちゃって。もうイチから書き直すしかないと諦めて、毎日CDを聴きながら、ギターで確かめながら弾いて、「あ、確かにこの音だ」って気づいて、書いて、の毎日でした。

野口 僕がやっぱりすごいなと思ったのは、2008年の新書版発売から2017年の完全版発売までの間に、ポール・マッカートニーやジェフ・エメリックなどの文献資料が出ましたよね。川瀬さんはそれら全部に目を通して、今回の本にきちんと反映している。さらに、川瀬さんはギターもビートルズが使っていたものと同じギターを使って、サウンド研究されているじゃないですか。

川瀬 マニアですよね(笑)。

野口 ビートルズが持っていたギターはほとんど持っています?

川瀬 だいたいありますが、例えばリッケンバッカー360/12なんか当時2、3台しかないうちの1台をジョージ・ハリスンが持っている。そういうものは自分が手に入れられるわけないので、リイシュー・モデルで持っていますね。「プリーズ・プリーズ・ミー」はエレキ・ギターの音ですけど、実際はギブソンJ-160Eで出していますよね。だから僕も弾くときはJ-160Eで出します。

野口 ライブドキュメンタリー映画の『ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK』を観ていると、初期のビートルズって本当に仲が良かったんだなって思います。ああいう時代がちゃんとあったから、(後半こそ仲違いみたいになっちゃうけど)基本的には仲がよかったのかなって。

川瀬 ジョージ・ハリスンも、ビートルズは『ラバー・ソウル』までで終わったと発言してますけど、『リボルバー』あたりから、段々と「レコーディングのための音作り」に変わってくるじゃないですか。『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の頃には、ポールはベースを弾きながら歌わずに、あとからベースを入れるレコーディングスタイルになった。歌はリンゴのドラムと生ギターだけで録って、みんなが帰った後に、夜中に一生懸命ベースのフレーズを考えて入れていく。それは音楽的にはすごく良いものになったけど、ジョージ・ハリスンはバンドマンだから、セッションで出来上がっていかないと面白くないってなったみたいですね。彼は「自分がファブ・フォーの一員だったのは『ラバー・ソウル』まで」のようなことも言ってましたから。

野口 ビートルズはどうして成立していたのかとか、ジョンとポールがどういう関係で刺激しあっただとか、解散の原因は実はジョージじゃないか、なんてことまで書かれていますよね。単なる楽曲解説じゃない。コーラスの分析も、二声三声、すごく詳しいですよね。ジョンのパートはこうで、ポールのパートはこうで、ジョージはこうで。ハーモニーの原則も書いてあるし、イレギュラーのパターンも書いてあるのがすごいですね。

川瀬 自分でカバーしたときにどうも感じがでないぞ、と気付いたんです。ジョンとポールのコーラスがクロスしたときに微妙な“ふにゃ”っていう瞬間がある。それまでポールが上、ジョンが下を歌ってたのに、突然ジョンが上にいっちゃってポールがいきなり下に潜る。そのクロスするときの“変なもの”がすごく気になって、ビデオで演奏を確認しながら必死に研究していったんです。

野口 コーラスのパートは譜面に起こすんですか? それともギターで音をとって、それを歌うんですか?

川瀬 僕は基本的に譜面書けないんですよ。だからギターで一生懸命探りながら覚えちゃったほうが早い。ハーモニーも、「ジョンがこれで、ポールがこれで、ポールが加わってこうなって」と実際に弾きながら確かめていくんです。

野口 ビートルズってときどきすごく声が似ていますよね。

川瀬 僕も最初は見分けがつかなかったですよ。デビュー当時は、顔もみんなマッシュルームヘアだし声も似ているからね、誰がどこを歌ってるのか本当に分からなかった(笑)。特にジョンとジョージはね。

野口 初期は特にそうですよね。川瀬さんはギタリストだから、本の中ではもちろんギターを中心に記述されていますけど、コーラスに関してもかなり詳しく書かれているのが大きなポイントだと僕は思っています。だからこの本のキャッチコピーには絶対「歌って弾いて確かめる」を使いたかったんですね。実際、読者のレビューの中には、「実際に聴きながら読んでいると、解説文と曲のフレーズが一致する事がしばしばある。そんな時は感動すら覚える。」という投稿もありました。嬉しかったですね。

川瀬 とても良いキャッチコピーですよね。

野口 本のサブタイトルは「全213曲の音楽的マジックを解明」ですけど、川瀬さんが感じるビートズルの印象的な「マジック」とは何でしょう? ビートルズの存在自体がもうマジックというのはありますけど。

川瀬 本当にそうですよね。でも一番は、ジョン・レノンのあの小節数のいい加減さかな(笑)。

野口 あの変拍子!? あれは確かにマジックかも(笑)

川瀬 「8分の9」とか、勝手に入れちゃったりするわけじゃないですか! それをまわりが否定しないで受け入れているのも、それをプロデューサーのジョージ・マーティンが音楽的に解決していくのも、すごいなと思いますよね。もし僕がプロデューサーだったら、カットしちゃうか、「間違えてるよ」って言っちゃうかも(笑)。

野口 「オール・ユー・ニード・イズ・ラブ」とか。

川瀬 そう、「グッド・モーニング・グッド・モーニング」とか。ジョンの曲は本当に変拍子が多くて、コピーするのが大変。リンゴ・スターがすごいのは、デモテープの段階でも、ジョンの生ギターと歌を聴きながら、全部キープしてまず叩いてしまうんですよね。そのドラムにあわせて、みんなが演奏するわけじゃないですか。『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』の頃は、そういうのがとても多くなりましたね。今はYouTubeなんかでもオリジナル音源を簡単に聴けるので、ぜひ本で紹介する曲とあわせて楽しんでもらえたら。「あ、こういうこと言いたかったんだ!」というのが分かると思うんです。僕のFacebookでもリンクを貼っているんでね、ぜひチェックしてみて欲しいです。

野口 この本以上の完全版は難しいでしょうけど、川瀬さんとビートルズに関する本をまた一緒に本を作りたいと思っています。僕、今アイディアあるんですよ。ふっふっふ(笑)。

川瀬 ぜひやりましょう。

*本記事で使用している画像はすべてリットーミュージックのものです。


『真実のビートルズ・サウンド完全版 全213曲の音楽的マジックを解明』
(リットーミュージック)
著者:川瀬泰雄
定価:(本体2,000円+税)

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