「見通しが甘い人」に“決定的”に足りない視点――ドラッカーからの伝言
『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』や『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、P・F・ドラッカーの名言を解説いただくコーナー。第15回の今回は、「ビジネスは『未来』を予測できるかで“差”がつく」についてです。
【P・F・ドラッカーについて】
ピーター・F・ドラッカー(1909〜2005)は、オーストリア出身の著名な経営学者。激動のヨーロッパで古い価値観・社会が崩壊していくのを目撃。ユダヤ人の血を引いていたドラッカーはナチスの台頭に危険を感じて渡米、ニューヨーク大学の教授などを経て、執筆と教育、コンサルティング活動等に従事する。
ドラッカーが深い関心を寄せていたのは、社会において企業が果たす役割についてであり、生涯にわたって、組織内で人をよりよく活かす方法について研究、思考し続けた。「マネジメントの父」と呼ばれ、GE社のジャック・ウェルチ氏やP&G社のアラン・ラフリー氏など、ドラッカーを師と仰ぐ世界的な経営者は数多い。
こんにちは。俣野成敏です。
著名な経営学者であるP・F・ドラッカー氏の言葉を「私なりの解釈を付けて読み解いていく」というこのコーナー。
世界中に支持者を持つ一方で、難解と言われることも多いドラッカー氏ですが、残された著書を紐解くことによって、長年にわたり世界的企業の第一線で指導を続けた氏の真髄に触れることができます。これを機会にぜひ氏に親しんでいただき、氏の英知をご自身の仕事に取り入れていただくきっかけとなりましたら幸いです。
本日は、下記の名言について解説いたします。
【本日の名言】
「人口構造の変化が企業家にとって実りあるイノベーションの機会となるのは、ひとえに既存の企業や公的機関の多くが、それを無視してくれるからである。彼らが、人口構造の変化は起こらないもの、あるいは急速には起こらないものであるとの仮定にしがみついているからである」
(P・F・ドラッカー『イノベーションと企業家精神』)
あなたも、どこかで日本の人口ピラミッド図を目にしたことがあるのではないでしょうか。「ピラミッド」の名が示すように、かつては日本の人口分布図も、若年層がもっとも多い綺麗な三角形型をしていました。それが今では真ん中の中年層がもっとも厚い「釣鐘型」構造に変化しています。
これは、何を意味するのでしょうか?
未来の社会は「ある程度は予測できる」
ドラッカー氏は『イノベーションと企業家精神』の中でこのように述べています。
「新しく生まれた赤ん坊が幼稚園児となり幼稚園の教室や先生を必要とするようになるには、五年を要する。彼らが消費者として意味をもつ存在になるには一五年、成人の労働力となるには一九年から二〇年以上を要する」
当たり前の話ですが、たとえば今、10歳の人は10年後には20歳になります。20年後に20歳になる人は今、生まれていなければなりません。現在、10歳の人が何人いるのかはすでにわかっています。よって「その人たちが人口に占める割合はどれくらいで」「成長するにつれ、市場にどういう影響を与えるのか?」ということは「ある程度、予測がつく」というワケです。
同じ人間でも、年を取ればニーズも変化する
人口構造の変化に対応した事例として、ドラッカー氏は同書の中でアメリカの靴屋チェーン・メルビルを挙げています。
メルビルは1960年代、当時まだ10代だったベビーブーマーに合わせたデザインや販売戦略をいち早く取り入れ、成功します。しかし、メルビルの成功を見た他の企業が同じ10代の市場に参入してくるころには、当のメルビルは早々にターゲットを20代へと移行させていました。自分たちのユーザーがやがて20代になることを見越してのことでした。
人口構造の変化とともに、市場のニーズも変化します。これが氏の言う「イノベーションの機会」です。
日本の人口に関して言うと、やはり少子高齢化や若年層の減少といったことが今後の焦点となるでしょう。それに対して現在、企業が行なっている対策とは、たとえばコンビニ業界が労働力確保のために派遣会社などと提携したり、飲食業界では24時間営業を取りやめるといった動きが見られます。人材市場では若年層に代わって高齢者や主婦層、外国人などを活用しようという流れがあり、AIの導入も進んでいます。
若者の人口減により、40%以上の私立大学が定員割れ
若者の減少が著しい日本で今、苦境に陥っているのが私立大学です。内閣府などが作成した資料によると、1992年度には約205万人いた18歳人口が2014年度には約118万人にまで落ち込んできています。このままいくと2030年度には約101万人となり、将来的に100万人を割るのはほぼ確実と見られています。
ところがそれに反して、私立大学の数は一貫して増え続けてきました(私立短期大学を除く)。2015年度に学生募集を行った私立大学は579校あり、そのうち定員割れを起こした大学の割合は43.2%の250校に及んでいます(文部科学省高等教育局作成資料より)。
今まで大学が増えてきた背景には、
(1)1990年代初頭に大学設置基準の緩和が行われた影響
(2)進学率の上昇
といったことが挙げられます。
これまでは(2)の進学率の上昇によって、18歳人口は増えていなくても学生になりたい人が増えていました。
学歴が「将来を保証してくれなくなった」
しかし結局、新しい大学を増やしたところで「入学希望者が殺到するのは一部の有名大学に限られる」という図式は変わりませんでした。要は、有名大学以外の大学が学生獲得に四苦八苦するのは、始めからわかっていたことです。私立大学の定員割れ問題は、人口動態に関する対応を十分に考慮せず、甘い見通しのもとに大学経営を始めてしまったツケが回ってきている、ということでしょう。
ここへきて、さらにサラリーマンの平均年収が下がってきています。一方、大学の授業料は緩やかに上がり続けています。今後はサラリーマン家庭から子供を大学へ行かせるのが難しい時代になっていくことが予想されます。最近は学生が奨学金を借りて大学に進学する、という事例も増えていますが、卒業しても就職がうまくいかずに奨学金を返済できない人が続出しているとも聞きます。
これまでは、良い学校を卒業すれば良い企業に就職することができました。そうなれば高収入、高待遇、退職金、年金などがセットで手に入ります。しかし今、その方程式が崩れてきています。日本はすでに「学歴が将来を約束してくれる時代ではなくなった」ということです。
そもそも「大学進学が正しい道なのか?」ということも含めて、この問題は社会のあり方そのものが見直されるべき時にきている、ということを暗示しているのではないでしょうか。
比較をすれば、見えてくるものがある
これからの日本は若年層の人口が確実に減っていくにもかかわらず、国も、企業もいまだに有効な手を打ててはいません。理由の一つに「人は実際に経験してみなければ、その世界を実感するのが難しい」ということが挙げられます。
今、日本社会の高齢化は人類史上、例のないスピードで進んでいます。当然ながら、これまで誰も「3人に1人が高齢者(2035年予測)」という世界を経験したことがありません。人は経験していないことを容易に想像することはできないものです。だからこそ「一早く未来の世界を予測し、対処できる者にとってはチャンスだ」とドラッカー氏は言っているのです。
もし、「少しでも未来が見通せる方法はないのか?」と言うのであれば、方法の一つとしては「他との比較」をしてみることです。たとえば「現在と過去との比較」「自国と他国との比較」などをしてみることでしょう。
氏も今回の話を、最後はこのように締めくくっています。
「現場に行き、見て、聞く者にとって、人口構造の変化は信頼性と生産性の高いイノベーションの機会となる」
(『イノベーションと企業家精神』)
俣野成敏(またの・なるとし)
大学卒業後、シチズン時計(株)入社。リストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。31歳でアウトレット流通を社内起業。年商14億円企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン』(プレジデント社)と『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)のシリーズが共に12万部を超えるベストセラーに。近著では『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」』が11刷となっている。著作累計は34万部超。2012年に独立後は、ビジネスオーナーや投資家としての活動の傍ら、私塾『プロ研』を創設。マネースクール等を主宰する。メディア掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿している。『まぐまぐ大賞2016』で1位(MONEY VOICE賞)を受賞。一般社団法人日本IFP協会金融教育顧問。
俣野成敏 公式サイト
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