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「ホンモノ経営者が経験から学んだことはこんなにスゴイ!」

藤井正隆さんの著書『ぴょんぴょんウサギとのろのろカメの経営法則』書影

 バブルの崩壊以降、長く不況の時代が続き、さらに世界経済の情勢も見通しが立たなくなっている。そんな中で、日本の少子高齢化は“人口減”という問題を生み出し、企業は国内市場が縮小していくことを前提に戦略を立てなければいけなくなった。
 では、日本の中小企業はどのような経営を目指すべきなのか?

 30年近く数多くの企業や経営者と関わってきた藤井正隆さんは、著書『ぴょんぴょんウサギとのろのろカメの経営法則』(経済界/刊)の中で、時代を超えて普遍性が高い経営として、「カメ型の経営」を推奨する。カメ型の経営とは、持続がおぼつかない一時的で急激な成長戦略ではなく、ゆっくりと確実な成長戦略を描く経営を指す。

 では、その「カメ型の経営」の実際とは一体どのようなものなのだろうか? 今回は、著者の藤井正隆さんにインタビューを行い、お話しをうかがった。

■企業は“利益最優先”では成功できない

―この度出版された『ぴょんぴょんウサギとのろのろカメの経営法則』は、イソップ寓話の「ウサギとカメ」をモチーフにされていらっしゃいますよね。非常にユニークな構成になっていると思ったのですが、こうした寓話をモチーフにした理由から教えていただけますでしょうか。

「まず一つはシンプルだということですね。小さな頃に両親や近所のおじちゃんおばちゃんから教えてもらったこと、童話・寓話で書かれていることは、普遍性を端的に示しているものが多いと思うんですよ。
もう一つは親しみやすさ、想像しやすしさですね。経営書だとどうしても横文字や専門用語が中心になってしまい、分かりにくくなります。だから、『ウサギとカメ』が同じことを伝えているのであれば、そちらの方が理解しやすいですし、親しみが持てると思ったんですね」

―なるほど。経営を突き詰めて考えていくと、本質的な部分はシンプルで昔から変わっていないということになるのでしょうか。

「原理原則や法則に関しては、私は変わっていないと思いますね。時代とともに技術が発達して、インターネットができて……というようなことは変わりますが、例えばAさんとBさんの仲が悪いとか、集団の中でいざこざが起こるというようなことは大昔から繰り返し起きています。そういった人間関係の部分はとても普遍的で、経営の中においても極めて重要ですし、どんなに素晴らしいビジネスモデルを創りあげても、その点をしっかり抑えていないと結局ダメになってしまうと思います」

―本書では、カメのように一歩ずつ歩みを進めていく企業を「カメ型経営」として18社取り上げ、その経営の現場を伝えています。これらの企業は非常に身の丈にあった経営をしている印象を受けたのですが、藤井さんは、この18社に共通する部分はどのようなところだと思いますか?

「これは前著『感動する会社は、なぜ、すべてがうまく回っているのか?』でも書かせていただいたのですが、基本的にはお客様への価値提供を先に行っているということですね」

―つまり、利益を最優先するのではなく…。

「そうです。自社の売上や利益を、お客様へ価値を提供したことの結果として捉えています。多くの企業はその逆で、売上や利益が先行しています。高度経済成長期であればそれでも何とか企業を維持できました。しかし、今は低成長・マイナス成長の時代ですから、売上・利益先行では、必ず無理が生じます。そして、数値の成長が前提としてあるから、無理な押し込み販売などをして、社員がクタクタになってしまうんです。こうなると、みんなが不幸になってしまい何も生まないんですよ。
また、身の丈にといった印象を受けるかも知れませんが、決して、無理をしないということではありません。企業が成長する上で、ある時期多少無理をしてでも頑張るというのは大事です。ただ、お客様への価値が伴わない無理な成長は企業をおかしくする原因になりますし、誰かが犠牲になるでしょう。それは従業員かも知れないし、取引先、お客様かも知れません。多くの場合、歪みが生じてしまうので、5年は続いても、10年、20年スパンで見たときには続かないでしょうね。30年間、様々な企業の盛衰を見てきましたが、その経験からそういえると思います」

―本書を拝読して感じたのが、経営者の方々の中に、最初は無理をする経営を続けていたけれど、途中で軌道転換している人が多くいらっしゃったんですよね。例えばEC Studioの山本敏行さんはそうです。経営者の柔軟性といいますか、経営者が自分の経営の方法を変えるという意思決定に踏み込める人じゃないと、こうした経営は難しいのかなと思います。

「そうでしょうね。実際に地獄を見た経営者は、頭でなく腹で理解しています。そして、中小企業の経営の是非は、社員で決まることはほとんどないと思います。90%以上が経営者の責任でしょう。本質を腹で理解した良い経営者であれば良い社員が育ちますし、良いお客様がつくと思います。ほとんどの最終的な意思決定や判断を握っているのは、中小の場合は経営者自身ですから」

―本書の冒頭で松下幸之助の言葉を引用されている箇所がありましたが、その中に「生きた経営」という言葉が出てきます。これは非常に印象的な言葉だったのですが、藤井さんはこの「生きた経営」という言葉をどのように定義付けていらっしゃいますか?

「まだ言葉として整理できていないのですが、仕事柄、何千冊もビジネス書を読んできましたし、今でも月に10冊くらいは読むのですが、結局実際の現場にいる経営者に会って話したほうが、100冊の本を読む以上に学びが大きいんですよ。この本の中でも紹介したAZスーパー牧尾社長やディスコの関家社長の話等、経営学の本には書いていなかったり、セオリーとは真逆だったりしますが、本当に勉強になりました。
本は自分が知らないことを教えてくれ、経験を整理することになりますが、そこで得られる知識はクリスマスツリーで例えると飾りみたいなものなんですね。しっかりとしたツリーの幹がないと、どこに飾ったらいいのか分からなくなってしまいます。やはり経営者がずっと考えてきて自分の腑に落ちた自分なりの法則(幹)あって、はじめて、その知識を整理できるんです。
MBAが一時期ブームになりましたが、ミンツバーグという経営学者はMBAが会社をつぶすということを言っています。確かに銀行と折衝したこともない人が、カタカナでキャッシュフローと言っても説得力がないでしょう。経営者は納得しない。実際に、実践して結果を出す経営が「生きた経営」ではないでしょうか?大学院で経営学を教えている有名な教授が経営する会社が10年間赤字の例を知っていますが、何のための経営学かと思ってしまいますね。
自分自身も大学院に2校行き、会社を2社ほど経営していますので、机の上での勉強で経営はできないと思います。」

―つまり、座学だけでは絶対無理ということですよね。例えば、座学で理論は学べますが、実際にはそこに人々がいるわけで、彼らと向き合っていかなければいけない。人間そのものを見なければいけないわけですから、理論だけで押し込むことは到底できないですよね。

「できないですね。中にはすごく頭の良い方もいらっしゃって、非常に理路整然と話すのですが、たくさんの経営者と会って話していると勘みたいなものが働くんですよ。正しいことは言っているけれど、なんか上手くいかないだろうな、と」

(後編へ続く)

■藤井正隆さんプロフィール
1962年4月生まれ。
株式会社イマージョン代表取締役。法政大学大学院中小企業研究所特任研究員。経済産業省支援事業「ドリームゲートサービス」認定専門家『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)の著者で知られる法政大学政策創造研究科・坂本光司教授の推薦で取材した企業が、高い理念を具現化する社会性と経済性を両立した素晴らしい経営を実現していることに驚嘆。以来「優良企業を訪問することが趣味」になり、現在も研究室メンバーと月10社、年間120社の企業視察研究を継続する。人やチーム・組織のプロセスに関わる泥臭いコンサルティングや教育研修を行いながら、日本の農業問題にも関心を持ち、日本の農家株式会社を立ち上げ精力的に活動中。

著書『感動する会社は、なぜ、すべてがうまく回っているのか?』(マガジンハウス)ITmediaエグゼクティブで、経営者対象に「日本の元気ダマ」他、執筆多数。


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