上司のパワハラは、絶対に耐えてはいけない――“自衛”のための3ステップ【働く女性相談室】

「働く女性の成功、成長、幸せのサポート」という理念のもと、キャリア支援やコンサルティング、現在では結婚コンサルタントなど、幅広い領域で活躍されている川崎貴子さん(川崎さんの記事一覧)。

人材コンサルティングの経験と、女性経営者ならではの視点から、のべ1万人以上の女性にアドバイスをしてきた川崎さんが、「“働く女性”に立ちはだかるさまざまなお悩み」に、厳しくも温かくお答えするこのコーナー。

第三弾の今回は、“パワハラ上司”に悩む女性からのお悩みです。パワハラ・モラハラがニュースに取り上げられる昨今、こうした問題に対して川崎さんのアドバイスは?

上司のパワハラは、絶対に耐えてはいけない

<今回の相談内容>

現在の上司にパワハラを受けていて転職を検討中ですが、先輩に相談したところ「どの会社にもいるから」と言われてしまいました。パワハラ上司から逃れるために転職するのに、また同じような上司に当たったら転職する意味がありません。個人攻撃を受けているのは私に何か問題があるからでしょうか?また、どこに行っても同じなら我慢するべきで、転職するのは時期尚早でしょうか?(30歳女性)

回答者:川崎貴子

川崎貴子

リントス(株)代表。「働く女性に成功と幸せを」を理念に、女性のキャリアに特化したコンサルティング事業を展開。

1972年生まれ、埼玉県出身。1997年、人材コンサルティング会社(株)ジョヤンテを設立。女性に特化した人材紹介業、教育事業、女性活用コンサルティング事業を手掛け、2017年3月に同社代表を退任。女性誌での執筆活動や講演多数。(株)ninoya取締役を兼任し、2016年11月、働く女性の結婚サイト「キャリ婚」を立ち上げる。婚活結社「魔女のサバト」主宰。女性の裏と表を知り尽くし、フォローしてきた女性は1万人以上。「女性マネージメントのプロ」「黒魔女」の異名を取る。12歳と5歳の娘を持つワーキングマザーでもある。

何故パワハラ・モラハラはなくならないのか?

先日、豊田議員のパワハラを録音したテープが秘書の手によって公開され、その暴言や手を出しているような音声をニュースで繰り返し聞くこととなりました。

民間企業でも、社会的にこれだけ問題視されているにも関わらず、職場におけるパワハラ・モラハラ問題は増加の一途をたどっています。ストレス社会が背景にあり、被害者が相談できる窓口が増えたことなども増加要因として挙げられておりますがそれにしても一向に減らない。

それもその筈。

豊田議員は華麗な経歴(東大、ハーバード、厚労省)を経て議員になった超エリートですが、日本の職場でパワハラを失くすためにパワハラを定義づけ、予防や解決に向けた旗振りをしているのがまさに彼女の前職である厚労省な訳です。部下とは結構な確率で上司のやり方を踏襲するものです。

これは私の完全な推測です。豊田議員を一方的に批判するつもりはありませんが、「上司は部下に対してこれぐらい言っても構わない。」という姿勢を彼女が厚労省時代に習得してしまっていたのだとしたら、提言している組織そのものにパワハラが存在している可能性があります。

また、今回の件で自民党の元官房長官が「あんな代議士は男ならいっぱいいる。」と擁護発言をして更に炎上しましたが、それが真実であるならば、政治家という国民の代表者達の間でも「パワハラはスタンダード」がまかり通っている事になる。そりゃあ、民間だけ正せませんし、容易に無くなりませんって。

熊に出会ったら威嚇すべし

ですから、相談した先輩の「どこにでもいるから。」という意見は、ある意味、悲しい真実をついているのかもしれません。部下は上司を選べませんから、配属先の上司が“ハラスメントモンスター”だった場合、自衛が必要になります。

以下、3つのステップで紹介します。

上司のパワハラは、絶対に耐えてはいけない_イメージ画像

△写真はイメージです

ステップ1.鈴を鳴らせ

「森の中で熊に遭遇したら死んだふりをしなければならない」と、子供の頃からずっと信じてきたのですが、大人になって「実はそれは間違い」と聞いて青天の霹靂。熊に遭遇しなかった自分の人生に胸を撫でおろしたものです。実際は、熊だってお腹がすいていない限り人間は怖いらしく、鈴を鳴らして「人間が通るけどよろしくね!」とお知らせするのが効果的なのだそう。そもそも、ハラスメントモンスターは、全ての人に暴言やいじわるを繰り出す訳ではなく、相手をよく選んでいます。どういう人かと言えば、比較的真面目でおとなしく、自罰的なタイプを対象に選ぶのです。

相談者さんは今の上司にパワハラを受けていると感じているのに、「私が悪いんでしょうか?」などとこの期に及んでおっしゃっている。これは、遭遇した熊の前で死んだふりをしてまんまと食べられてしまう典型例です。ハラスメントモンスターの言葉が巧みで、いわば暗示にかかっている状態だからそのような思考になるとも言えますが、先ずはターゲットになる前(なったばかりでも可)に、威嚇の鈴をリンリン鳴らしましょう。うるさそうな女だと思われたってかまいやしません。「人格否定や怒鳴り声の指導は受け付けません」と、背中に彫る勢いで自己自衛のブランディングを致しましょう。「労働問題のケーススタディ本」などを机に置いたり、休憩時間に読む姿を見せつけるのも良いでしょう。

誤解しないでいただきたいのは、ターゲットになる人に問題があるから改善せよ、と言いたいのではありません。職場のハラスメントモンスターは実は誰が対象でもいいのです。「自分の正義」と「自分のストレス解消」を受け入れてもらえそうな人にたまたま繰り出しているだけですから、被害者がハラスメント上司を理解しようとしたり、怒りのパターンを学習しようとしても無駄に終わり、逆に益々自虐の思考に陥る事となります。ですから、職場で出会ったハラスメント上司は、森で出会ってしまった熊だと認識した方が対処は的確になるのです。

ステップ2.ターゲットにされてしまったら爆竹を鳴らすべし

鈴の効果むなしく熊に見つかってしまった場合は、熊の運動能力の方が明らかに高いので、木登りや走って逃げる方法はお薦めできないそうです。効果的なのは爆竹などで驚かせて撤退させる事らしい。

相談者さんはひっそり転職して解決しようとしたけれど、実際にはパワハラ上司の陰に怯えて転職活動もままならない訳です。社内中に爆竹音を轟かせて上司を威嚇する必要はありませんが、転職するという選択肢もあるのならば、しかるべき所にちゃんと相談してからでも遅くありません。相談者さんは先輩に相談しただけですが、パワハラ・モラハラは「上司と相談者さんの問題」ではなく、「会社と言う組織の問題」なのです。組織に熊が出たら報告してもらわないと経営側はマジで困ります。

話しやすく立場の近い先輩よりも、熊を放置しては置けない立場の人達、例えば、パワハラ上司より更に上の上司、それでも変わらなければ人事総務に、ハラスメント対応する窓口がある会社であればその窓口に訴えるのが早いかもしれません。それによって部署異動が願い入れられたり、ハラスメント上司が異動や降格したり、伴う精神的疾病がある場合は慰謝料や病院代が出たりすることも考えられます。泣き寝入りはもったいないです。

ステップ3.鉈を振り下ろすべし

爆竹も効かず、とうとう襲われそうになった場合は、鉈(なた)で一撃を食らわせると熊は怯んで逃げることがあるそうです。どうやって一撃を食らわせるのか想像もつきませんが、それは生存をかけた戦い。丸腰であたらないで武器に物を言わせ、「肉を切らせて骨を断つ」覚悟で臨めという事だと私は解釈しております。

豊田議員の秘書はまさに、音声を録音し、それをマスコミに流した訳ですから、威嚇どころか鉈で彼女の政治生命を切りつけに行ったようなものです。ハラスメントの殆どが密室で巧妙に行われているため、折角勇気を持って「熊警報」をお知らせしても信じてもらえないケースも多々あります。ハラスメントモンスターは優秀で頑張り屋な人が多く、会社側からすれば「あんなに貢献度の高い〇〇さんが?何かの間違いでは?」としか思われないからです。

それを回避するためにも、事前準備として録音テープやハラスメント日記は武器として用意しておきましょう。また、ハラスメント窓口や人事総務の人達は、「被害者の話に一貫性があるかどうか」を見ています。時系列、ハラスメント上司の言動など、箇条書きで良いのでまとめておくと話が飛ばずに事実を解りやすく伝えられるでしょう。判断するのは結局人ですから、日頃から勤務態度良く、仕事へ真面目に取り組み、信用を作っておくことも大切です。

長々と書いてしまいましたが、職場のハラスメントの相談件数に比例して、精神に不調をきたしている人が増えているのも事実です。相談者さんの精神状態が一番大切なのでくれぐれも無理はしないようにお願いします。ただ、私たちは多くの理不尽を受容できるほど大きなキャパシティを持ってはいません。自分自身の為に理不尽な相手にNO!を突き付け、自分自身の為に戦った経験は、その後の人生において決して無駄にはならないでしょう。 →川崎 貴子氏の記事一覧

→川崎 貴子氏のプロフィール

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