「完璧なロールモデルは必要ない」女性がキャリアを前進させるために必要なこと

6月、リクルートキャリアとパソナキャリアの女性活躍支援プロジェクトチームの共催で行われたイベント『海外最新研究に学ぶ「リーダーシップと自分らしさ」の両立』。

その中で行われた、『女性が管理職になったら読む本 ―「キャリア」と「自分らしさ」を両立させる方法』(ギンカ・トーゲル著・日本経済新聞出版社)の翻訳・構成に携わった小崎亜依子さんによる「自分らしいリーダーシップのあり方」についての講演を、前・後編に分けて詳しくリポート。前編では、働く女性を押さえつける「無意識バイアス」について、後編では、女性がキャリアを前進させるために必要なことを語って下さっています。

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小崎亜依子さん

Waris Innovation Hub プロデューサー、株式会社Waris ワークスタイルクリエーター

野村アセットマネジメント勤務を経て、留学・出産育児で5年のキャリアブランク後、NPOでのアルバイトで復職。2007年より株式会社日本総合研究所で、企業のESG(環境・社会・ガバナンス)側面の評価分析を行い、社会的課題解決を投融資の側面から支援。「なでしこ銘柄」における企業分析などを担当した後、2015年株式会社Warisに参画。スイスのビジネススクールIMD教授、ギンカ・トーゲル氏の研究成果をまとめた『女性が管理職になったら読む本』(日本経済新聞出版社)の構成・翻訳を担当。

「自分らしい」リーダーシップを持つ人に、メンバーはついてくる

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「“自分らしい”リーダーシップ」と申し上げましたが、なぜリーダーシップに「自分らしさ」が必要かというと、誰かの真似をしている、自分の言葉で話していないリーダーは信頼されないからです。自分のやり方で、自分の言葉で率いてくれるリーダーのことは、メンバーは「信頼に値する人物」として評価し、ついていくのです。

ただ、「自分らしいってどういうこと?」と戸惑う方もいるかもしれませんね。個々で、いくつかの考え方をご紹介します。

米ハーバードビジネススクールのビル・ジョージ教授は、「自分らしさを貫くリーダーへの成長ステップ」として、以下を考えることが大事だと挙げています。

「自分らしさを貫くリーダーへの成長ステップ」

本当の自分だと思えるのはどのような瞬間? 自分の奥底にある価値観は? その価値観はどんな行動に結びついている? どんな場面でも、いつも同じ人間でいられるか?そうでないとすれば、何が障壁となっているのか?

また、前述のギンカ・トーゲルさんは、「自分の強み、弱みを認識することで、自分を前進させる」ことを勧めています。

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心理学では、人の性格は「情緒安定性」「外向性」「開放性」「協調性」「勤勉性」の5つの要素(ビッグファイブ)で表すことができるとされています。自分はどの傾向が強いのか、無料診断できるサイトが多数あるので、ぜひチェックしてみてください。

そのうえで、「自分が実現したいこと」を考え、それを達成するために改善した方が良いと思われる行動特性を意識して鍛えるのです。例えば、自分は外向性が低いが、目標を実現するためには、皆の前で効果的なプレゼンをする必要があるから、意識していろいろな人がいるところに出かけ、積極的にコミュニケーションを取ってみる…など。自分の性格を理解したうえで、鍛えたほうがいいと思うことを洗い出し、行動に移すことで「自分らしさ」を発揮できるようになります。性格を変えることはできないのですが、行動は変えることはできるのです。「自分らしい」というのは、コンフォートゾーン(楽な領域)に留まることではありません。

先輩の「いい部分」をパッチワーク的に組み合わせ、自分のものにしよう

女性がキャリアを前進させるために、「完璧なロールモデルは必要ない」「キャリアパターンは無限にある」「もっと交渉しよう!」の3つをアドバイスしたいと思っています。

各企業と、女性活躍推進の話をしていると、「うちにはロールモデルとなる女性社員がいない」「そういう女性を新たに採用したい」などと言われることが多いのですが、完璧なロールモデルは必要ないと思っています。

そもそも完璧なロールモデルなんていませんし、たとえいたとしても、その人のやりかたを完全にコピーしていては「自分らしさ」が発揮できず、メンバーもついてきません。

お勧めしたいのは、いろいろな人のいい部分を「つまみ食い」すること。例えば、営業のやり方はこの人から盗もう、仕事と子育ての両立方法はこの人から…などと、パッチワークを作るように「真似したい部分」だけを組み合わせていけば、自分ならではのやり方ができ上がります。

また、女性は「コミュニケーションは得意だがネットワークを仕事に活かすのは不得意」と言われています。キャリアを前進させるには、卓越したネットワーカーに学ぶといいでしょう。これは、IMDのN・アーナンド教授と南カリフォルニア大学のジェイ・A・コンガー教授の研究に基づいています。

「卓越したネットワーカーの特徴」

最も影響力のあるキーパーソンを探し出そうとする 補完関係にあるニーズや能力を持つ者同士を引き合わせようとする 他者に対して常に感じのよい態度を取る

つまり、自分に都合よく使うのではなく、相手のために動くことで結果的に自分に返ってくる、という考え方です。これは特性ではなく行動であるため、誰でもすぐに真似できることだと思います。

女性のキャリアには無限のパターンがある

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女性のキャリアは、家庭の事情やパートナーの事情に大きな影響を受けます。配偶者の転勤や家族の要望など、自分でコントロールできない要因でキャリア変更や退職を余儀なくされる場合もあります。

でも、だからこそ、「1社で梯子を上がるようにキャリアを築く」男性と比べ、女性のキャリアには「万華鏡のようにさまざまなパターンがある」と言われています。

女性は、置かれている環境によって、重視したい項目が変わります。例えば、若いころは挑戦を重視し、子どもが生まれたら家庭とのバランスを考え、子育てが落ち着いたら自分らしさを発揮したい、などと考えます。すなわち、女性のキャリアは人によって無数のパターンがあり、「人とは違う」境遇に不安を感じたり、この状況はよくないと考え込んだりするのではなく、置かれた環境で自分なりにベストを尽くし、細く長くでも自分らしいキャリアを継続していけば、そのうち道は開けるのではないでしょうか。

「交渉」に慣れていない女性は、win-winを意識しよう

仕事における「交渉」とは、上司に対して「このプロジェクトがやりたい」とか「もっとこうすればどうですか?」など要求したり、意見を通したりすることです。リーダーにおいては必要なスキルですが、女性は男性に比べて、仕事やキャリアにおいて「交渉をしない」という調査結果があります。

そして、いざ交渉する際には「正論で攻める」人が多い傾向があります。私も若いころは上司に対して直球ばかり投げていました。「正しいことを言っているのに、なぜしらっとされるのだろう?」と悩み、さらに直球を投げる…という悪循環に陥っていたこともありました。

いくら主張が正しいものであっても、それだけでは不十分です。相手には相手の事情があり、達成しなければならない目標もある。交渉事をうまく進めるには、相手の達成したいことと自分の達成したいことを考え、win-winのウインウインの状況作ることが大切。お互いの主張が折り合う場所はどこなのか、探しながら交渉するとすっと通ることが多いので、ぜひお勧めしたいですね。

女性らしい特性、リーダーらしい特性…しなやかに両方のバランスを取ろう

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いろいろな角度から女性のリーダーシップについてお話してきましたが、「無意識バイアス」が存在する以上、女性がリーダーシップを発揮しようとしてぐいぐい前に出過ぎると、非難されるリスクがあります。本来は批判される筋合いなんてないのですが、キャリアを考える上では無視できません。実際、リーダーシップを前面に発揮した結果、悩み、苦しんでいる女性をよく見かけます。

ギンカ・トーゲルさんは、人々がイメージする「女性らしい特性」と「リーダーらしい特性」の2つのバランスを取り、自分らしいやり方で統合させることを勧めています。

あるときは、上司に「この事業を成功させます!」と強い意志を示し、ある時はメンバーに対して母のように温かく接する。このようにうまくバランスを取ることで、女性リーダーに対する批判リスクをかわしつつ、やりたいビジョンを実現できる…と提案しています。

これらのアドバイスをもとに、女性には、ぜひ自分を解き放って、自分らしく少しずつ前進してほしいと願っています。

自分を押さえているものは、実は自分だった…ということは、往々にしてあります。私自身も、時短勤務中にリーダーの打診を受けたのですが、「時短なのに務まるはずがない。18時にクライアントから電話がかかってきても受けられない」と断っていました。でも、そう思い込んでいたのは自分だけ。18時に電話がかかってきても「帰りました」と言ってもらえれば済むことだったんです。

家庭の事情などの影響を受けやすく、自分に自信を持ちにくい女性だからこそ、自分でチャンスを止めている可能性は大いにあります。思い切り自分を解き放ち、自分らしくイキイキ働く女性が増えることを、心から祈っています。

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:刑部友康

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