働く女性を押さえつけている「無意識バイアス」とは?

6月、リクルートキャリアとパソナキャリアの女性活躍支援プロジェクトチームの共催イベント『海外最新研究に学ぶ「リーダーシップと自分らしさ」の両立』が開催されました。休日にもかかわらず100名を超える女性が集まり、女性のキャリア、リーダーシップに対する注目の高さがうかがえました。

第一部は、『女性が管理職になったら読む本 ―「キャリア」と「自分らしさ」を両立させる方法』(ギンカ・トーゲル著・日本経済新聞出版社)の翻訳・構成に携わった小崎亜依子さんによる、「自分らしいリーダーシップのあり方」についての講演。第二部は、4社の女性社員によるパネルディスカッション。そして第三部は、小崎さん、パネラーとして登壇した女性社員と参加者によるキャリア座談会、というイベント構成。今回はその中から、第一部の小崎さんの講演内容を、前・後編に分けて詳しくリポートします。

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小崎亜依子さん

Waris Innovation Hub プロデューサー、株式会社Waris ワークスタイルクリエーター

野村アセットマネジメント勤務を経て、留学・出産育児で5年のキャリアブランク後、NPOでのアルバイトで復職。2007年より株式会社日本総合研究所で、企業のESG(環境・社会・ガバナンス)側面の評価分析を行い、社会的課題解決を投融資の側面から支援。「なでしこ銘柄」における企業分析などを担当した後、2015年株式会社Warisに参画。スイスのビジネススクールIMD教授、ギンカ・トーゲル氏の研究成果をまとめた『女性が管理職になったら読む本』(日本経済新聞出版社)の構成・翻訳を担当。

自分の殻をやぶり、自由に働く女性を増やしたい!

自身の経験を活かし、ブランクのある女性を対象としたインターンシップ事業を手掛けるとともに、プロフェッショナル女性を対象としたプロジェクト型ワークの創出や多様化推進のためのコンサルティングを行う小崎さん。「働き方の選択肢を増やしたい」「自分の殻をやぶり、自由に働く女性を増やしたい」を自らのキャリアビジョンに置いています。

そんな小崎さんによる講演テーマは、「女性のリーダーシップ」に関する最新研究結果をもとにした「自分らしいリーダーシップのあり方」について。『女性が管理職になったら読む本』(日本経済新聞出版社)の内容をもとに、1.「リーダーになりたくない・ムリ!」の背景にあるもの、2.女性こそリーダーに向いている、3.キャリアを前進させるアドバイス、の3部構成で語っていただきました。

女性リーダーが増えれば、個の意見が通りやすくなる

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日本における「管理職に占める女性の割合」は、諸外国に比べて際立って低いのが特徴。「データブック国際労働比較2015」(労働政策研究・研修機構)によると、アメリカの40%超、イギリスの30%超に比べ、日本は10%程度に過ぎません。

日本でもこの数値を増やそうと政府が積極的に動いていますが、「なぜ増やさなければならないの?何のメリットがあるの?」と思う方もいるかもしれませんね。でも、女性リーダーが増えることは、女性にとって大きなメリットがあるのです。

女性のリーダー比率が低いうちは、いくら有益な発言をしても「女性の発言」として捉えられますが、35%を超えると「女性の発言」ではなく「一人の意見」として見なされるようになる、との研究結果があります。従って、女性リーダー比率が高まると、それぞれの意見が通りやすくなり、個性が活かせる社会が実現できるようになるのです。だからぜひ、女性リーダーに関する取り組みを“自分事”として捉えてほしいですね。

「リーダーになりたくない!」の背景にある「無意識バイアス」

しかし、多くの女性は「リーダーになりなくない。私にはムリ!」と思っています。そう思う背景には、リーダーシップに関する「無意識バイアス」があります。

米ラドガース大学のラドマン教授らが、「男性らしい特性」「女性らしい特性」についてアンケート調査を行ったところ、「男性らしい特性」としては、【キャリア志向、リーダーシップ能力、好戦的、積極的、自立している】などのキーワードが上位に挙がりました。これは、皆が思っているいわゆる「リーダーらしい特性」とほぼ一致します。

一方で、「女性らしい特性」として多くの人が挙げたのは、【優しい、子どもへの関心、周囲への気遣い、良い聞き役、明るく元気】などで、男性とは全く違うイメージであることがわかりました。

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併せて「男性らしくない特性」「女性らしくない特性」についても聞いたところ、前者は【感情的、ナイーブ、弱い、自信がない】などで、リーダーらしくない特性とほぼ一致しますが、後者は、【好戦的、威圧的、支配的】など、リーダーらしい特性と似通っています。

つまり、「女性らしい特性」のイメージは、リーダーらしい特性のイメージとは真逆にあり、人々は無意識のうちに女性にこういう印象を持っているということになります。これをリーダーシップに関する「無意識バイアス」と言います。

米イエール大学の実験で、同じ内容のレジュメを男性名、女性名でそれぞれ企業に送ったところ、「指導したいかどうか」「採用可能性」「能力・適正」といったすべての評価において、女性名のものが男性名のものを下回りました。年収提示額も、女性名のほうが低いという結果になりました。全く同じ内容にもかかわらず、です。

米コロンビア大学ビジネススクールにおいて、シリコンバレーで活躍した実在の人物のストーリーを、男性名と女性名に分けて学生に読ませたところ、男性名で書かれたほうは「有能で結果を出せる人物、一緒に働きたい」、女性名で書かれたほうは「謙虚さに欠け、権力欲が強く、自己宣伝が過ぎる」という評価になりました。全く同じストーリーなのに、男女の違いだけで、人はこれだけ違う印象を受けるのです。

女性自身が、無意識バイアスで自分を押さえている

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この「無意識バイアス」は、当の女性自身にも影響を与えています。

『女性が管理職になったら読む本 ―「キャリア」と「自分らしさ」を両立させる方法』著者のギンカ・トーゲルさんの実験で、協調性が高いグループと低いグループに分かれ、ある課題に対する解決策を考えてもらったところ、男女混合グループの場合は、協調性が高いグループからは他者に寄り添った、低いグループからはゴールにフォーカスした、それぞれの性格特性に合ったソリューションが生まれたそうです。

しかし、女性のみのグループにして同じ実験を行ったところ、両方のグループから、他者に寄り添うソリューションが出てきたそうです。これは、女性自身が「女性は思いやりがあり、利他的でなくてはならない」と思っているからだ、とギンカさんは解釈しています。

この実験は海外のものはありますが、日本でも同様の傾向が見られると思います。そして、日本では多くの女性が、「女の子だからこんなことはしなくてもいい」「女の子だから上に立たなくてもいい」という教育を受けてきています。そうしたことも影響し、「自分に自信がない女性が多い」のが現状です。

例えば新しいプロジェクトを始めるとき、男性は自分が条件を満たしていなくても「やりたい」と思えば手を挙げますが、女性は条件を満たしていないことを気にして手を上げることをためらう傾向があります。仕事における自己アピールも、女性はあまりしません。「自己アピールしなくても、仕事の成果が宣伝してくれるはず」と考えているのです。そして、成功しても、その成功は自分に由来するものではなく、ただの偶然であると思い込んでしまう「インポスター症候群」も女性ならでは。

自分に自信がない…という女性は多いですが、これらの実験結果から考えると、本人にすべての原因があるわけではなく、育ってきた環境や属している会社に多分に影響を受けているのです。こういう背景を知ってもらえれば、少し楽になるはず。自信がないのは、あなたのせいではないのです。

「変革型リーダーシップ」に強みを持つ女性こそ、リーダーに向いている!

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実は女性こそ、リーダーに向いていると言われています。

「リーダーシップ」には大きく分けて、報酬と服従を交換する“アメとムチ”的な「交換型リーダーシップ」と、相手の内面にある価値観を変革する「変革型リーダーシップ」の2つがあります。そして、従来は「交換型リーダーシップ」が主流でしたが、競争が激しく、新しいイノベーションが求められる今の時代には「変革型リーダーシップ」がフィットすると言われています。

『変革型リーダーシップ』に必要な4つの資質

信頼=その人らしさに溢れた魅力で尊敬される

モチベーション=ビジョンを示して皆に活力を与え、その仕事に意義があるという実感を与える

刺激=意見の相違を認める雰囲気を醸成する

コーチング=人々の幸福と能力開発に高い関心を持ち、皆を気遣うとともに受け入れ、サポートする」

さまざまな論文内容を総合すると、この4つの資質は女性のほうが得意であり、特に「コーチング」においては女性が秀でているという結果が出ています。

つまり、時代が必要としている「変革型リーダーシップ」は女性にこそ向いている、ということ。ぜひ皆さんにもこの事実を理解したうえで、「自分らしいリーダーシップ」を築いてほしいと願っています。

>後編へ続く

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:刑部友康

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