エッセイ「酒と酒場と男と女」【酔っぱライター 江口まゆみ】

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食と異性、食と恋愛、デートと外食などをテーマにした女性クリエイターによるリレー連載「21世紀のGUY食問題」。

今回はお酒を中心とした飲食文化に造詣の深い作家の江口まゆみさんが登場。「酔っぱライター」の異名を持つ彼女が、男女とお酒の関わりについて語ります。

私が「酔っぱライターです」と自己紹介すると、だいたい決まって質問されることがあります。「毎日飲むんですか?」「何が一番好きな酒ですか?」「肝臓は大丈夫ですか?」などなど。その中に、「酒飲みだから食べないでしょう?」というものがあります。

私の体型が痩せ形だからかもしれませんが、それは大きな誤解です。食べることは大好きですし、酒席でおいしいつまみがないと、むしろ酒がすすみません。

酒にはうまい肴が必要

これまでこの質問をするのは男性だけでした。確かに男性は、酒を飲み始めると食べない人が多いようです。とくに中高年のオジサマにこの傾向が強いですね。

あるとき仲良しのオジサマからお誘いがあり、お寿司屋さんに入ったので、「わーい、今夜はお寿司だ!」と喜んだのもつかの間、彼は少々の刺身を食べたあと、「大将、のり!」と言って、ひたすら焼きのりをつまみに熱燗を飲んでいるではありませんか。こういう状況で、好きなものを頼めと言われても、本当に好きなものをガンガン頼むほど図々しくない私は、おなかをすかせながら一緒にのりで酒を飲み、お茶を濁すしかありませんでした。

逆に女性で「私飲むと食べられなくなるの」などと言う人はいるのでしょうか。私がこれまで出会った中では皆無です。お店を選ぶときも、おいしい酒がそろっていればうれしいけれど、それより料理がおいしいかどうかが重要だと考えている女性がほとんどです。

では、どんな料理が酒の肴として理想なのでしょうか。食べるといっても酒が主役で、決しておなかいっぱいになりたいわけではないのですから、少量ずつでいいので、いろいろなものが食べられること。そして、器や盛り付けまで美しければ、なおうれしいといったところでしょうか。

ですから女性と酒を飲みに行くなら、酒の品ぞろえよりも、まず料理のレベルの高いお店を選ぶと間違いありません。その際、高いか安いかは関係ありません。安くても絶品のハムカツや、激ウマな煮込みだってあります。常日頃、酒を飲むとき「ここの料理はおいしいか否か?」という観点から、アンテナを張っておくことが大切です。

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ボロいお店と汚いお店は違う

女性にとってもうひとつ、お店選びで大切なポイントがあります。それは「清潔さ」です。最近、「センベロ」などといって、赤羽や立石あたりの安くてディープな居酒屋さんが流行っていますね。酒好きの女性に「そういうお店を一度案内してほしい」と頼まれたとします。そんなとき、あまり深く考えないで、雑誌に載っていたとか行きつけだからといって、適当に連れて行ったら痛い目に遭う可能性大です。

女性は基本的に立ち飲みでも、カウンターにぎゅうぎゅう詰めでも、文句を言ったりしません。好奇心旺盛な人なら、かえってそういうところに面白さを感じてくれるでしょう。でも、唯一汚いお店には我慢できません。

ボロいお店と汚いお店は違います。汚いお店とは、ホコリがたまっていたり、テーブルに残りカスがついていたり、トイレの掃除が行き届いていないお店です。とくに女性にとって、トイレのきれいさは最重要課題です。

安くてディープなお店でも、ピカピカに掃除されているところはあります。逆に一見新しくてオシャレなお店でも、トイレの汚いところがあったりするので要注意です。こちらも常日頃から、「清潔さ」を基準にお店を見るクセをつけておくと、いざというとき困らないでしょう。

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最高の肴は楽しい会話

私は酒場では極力身分を隠して飲んでいますが、たまに店主が気を利かしたつもりで「この人、酔っぱライターといって、お酒の本を書いているんですよ。じつは以前うちのお店も取材してもらいました」などと、他のお客さんに紹介してくれることがあります。

するとやっかいなことに、「なんだって? 女の酒ライター? どれだけ酒のことがわかっているんだ。俺の方が酒歴は長いぞ」などと、やたら挑んでくる人がいるのです。そして酒のウンチクを得々と披露し始めます。もちろん私は「あら、おっしゃる通りですね! よくご存じで〜」と笑顔で聞き流しますが。

もしかしたら、あなたも酒場で女性相手に酒のウンチクを語っていないでしょうか? でもたいていの女性はウンチク話が嫌いです。酒米の種類や酵母の名前について語り合うより、「このお酒、コクがあってこのタケノコにめっちゃ合うわ〜」というような、他愛のない会話を望んでいるのです。

もっと言うと、女性はあなたの話を聞きに来ているのではなく、自分の話を聞いてほしいのです。私は夜毎バーに通って、マスターに話を聞いてもらっている女性を何人も知っています。バーのマスターは聞き上手ですし、口が堅いので何をしゃべっても安心ですからね。

女性と酒を飲むときは、開口一番「で、最近どう?」から始めましょう。「君の話を聞くよ」という気持ちを込めて。話を聞きながら自分が話したくてウズウズしても、じっと我慢。しばらく聞き役に徹していれば、自然と彼女はあなたに心を開いてくれるでしょう。そんな二人の仲をとりもってくれるもの、それが酒なのです。

※この記事は2017年6月の情報です。

書いた人:江口まゆみ

江口まゆみ

神奈川県鎌倉生まれ。早稲田大学卒。1995年より、「酔っぱライター」として世界中の知られざる地酒を飲み歩き、日本中の酒のつくり手をたずねる旅を続ける。旅をした国は20ヶ国以上、訪ねた日本酒、焼酎、ワイン、ビール、ウイスキーの現場は100カ所以上。JCBA認定ビアテイスター。SSI認定利酒師。酒に関する著書多数。近著は『ビジネスパーソンのための一目おかれる酒選び』(平凡社)

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