Cygames常務が語る、e-Sportsと『Shadowverse』 e-Sportsでスポンサー企業になる意味とは?
近年、日本のe-Sportsをめぐる状況は注目を集め、さまざまな議論が行われている。特に取りざたされるのは、かつて“ゲーム大国”とまで呼ばれた日本が“e-Sports後進国”になっているということ。これには、海外とのゲーム文化の違いや日本国内での大会賞金をめぐる景表法の解釈など、さまざまな原因が挙げられ、ゲームファンをやきもきとさせている。
そんな中、今年3月、大手ゲーム会社Cygamesは、プロゲーマー・梅原大吾氏を擁するプロゲーミングチーム「Cygames Beast」を発足。同社は、2015年にはTCG『Magic: The Gathering』のプロプレイヤーチーム「Team Cygames」を立ち上げるなど、国内のe-Sports/プロゲームシーンで存在感を発揮してきた。
同時に、2016年6月にはDCG(デジタルカードゲーム)『Shadowverse』を配信スタート。同作はe-Sportsの大会競技にも採用されるなど、シーンの盛り上がりに一役買っている。
今回、そんなCygames常務取締役で、『Shadowverse』のプロデューサーをつとめる木村唯人氏にインタビューを敢行。“e-Sports後進国”とされる日本の現状から、『Shadowverse』とe-Sportsの関係、そして、プロゲーミングチーム発足の狙いまでをうかがった。
構成:須賀原みち 編集:新見直
日本でe-Sportsがイマイチな理由
──現在は「海外に比べ、日本国内ではいまひとつe-Sportsが盛り上がらない」といった声も挙がっています。そういった声が挙がる理由として、e-Sports/プロゲーム分野で日本と海外の間で差を感じることはありますか?
Cygames常務取締役・木村唯人(以下、木村) 日本には「ゲームが強い=格好良い」と思う文化がまだそこまでない、ということに尽きると思います。
アメリカや海外には成功者を讃える文化があり、どんなものであれ、成功を収めて富や名声を得ることに憧れがある。でも、日本ではそれに憧れるわけではないという違いがあるかなと。
──日本の場合、成功者に憧れず、嫉妬する傾向が強い、といったことですか?
木村 嫉妬するということもあるし、「あの人はすごいけど、自分には絶対無理だ」と考えてしまう、日本人の諦め感があるんだと思います。アメリカだと、(成功者に)自己投影して「すごい! 自分もあの人みたいになれるかもしれない!!」と憧れたりするイメージですね。
──日本では、どうして「ゲームが強い=格好良い」と思う文化が根付いていないのでしょうか?
木村 日本には「努力しないものに対して評価をしない」という文化があるからだと思います。
例えば、野球はみんなが努力をして、ドラマがあるから素晴らしいと感じる。でも、ゲームの場合、それ自体が遊びで楽しいことなので、いくらゲームをプレイしても、それは努力をしているわけではなく、遊んでいるだけだと見られてしまう。
ただ、実際にはプロゲーマーはめちゃくちゃ努力をしています。それに、反射神経が落ちたら勝てなくなるといった厳しい世界で頑張っているんです。でも、ゲームファン以外の一般の人には、それが伝わっていないからわからない。「ゲームが好きで、ずっと遊んでたから強いんでしょ」という文脈になってしまう。
──一方で、プロプレイヤー本人たちも「好き」を極めようとしている部分もあるのでは?
木村 その側面もあると思いますが、プロ野球選手の場合でも野球が好きで、やり続けた結果極めたっていう方も多いのでは?と思います。
──「世界と遊ぶ」と掲げているKAI-YOU.netでは、「遊びを極めることで生きていく」ことに希望を見出しています。なぜ、遊んでるだけだと応援されづらいのでしょう?
木村 「働かざるもの食うべからず」という、日本の文化に合わないからではないかと思います。日本は、「みんなが苦労してやってきたから、あなたも苦労して頑張りなさい」っていう考え方が強い国だと思います。ただ、そういう人が多いからこそ、日本は発展してきたところもあるかなと。みんな時間通りに会社に来て、みんながちゃんと頑張る国でもある。
日本で対戦ゲームは流行りづらい!?
──国内外のe-Sportsの差をめぐる議論としては、「海外ではPCゲームの市場が大きい一方、日本ではPCゲームが普及していないため、e-Sportsが流行らない」といった指摘もあります。
木村 日本はコンシューマーの国で据え置きのゲーム文化がちゃんとあるので、e-Sportsが流行らない理由として、「PCゲームが普及していないから」というのは全く関係ないと思います。そういったところの違いで比べても、意味がないのかな、と。
それよりも、日本は対戦ゲームの人口が少ないんですよ。e-Sports(で扱われるゲーム)は必ず対戦ゲームです。でも、海外と比べると、日本は対戦ゲームがあまり好きではない。対戦ゲームというのは、勝つ人がいて負ける相手がいるわけで、ある意味、人に迷惑をかけるゲームともいえます。日本は“人に迷惑をかけてはいけない”と考える傾向が強い国なので、対戦ゲームというジャンル自体がもともと流行りづらいのです。
──それでは現在、日本国内でe-Sportsを普及するにあたって、ほかに何か障害や課題はありますか?
木村 あんまりないです。やっぱり急激に流行らせることはなかなか難しいな、というだけです。
(日本国内の)「ゲームをやることが良いとは思えない」という背景もありましたが、その意識も昨今薄れてきており、e-sportsの普及に将来的に役立っていくものと思っています。
『Shadowverse』とe-Sports
──そんな中、Cygamesは2016年6月にDCG『Shadowverse』をローンチしました。『Shadowverse』はe-Sports大会「RAGE」の競技としても採用されるなど、e-Sports業界でも注目を集めるタイトルとなっています。DCGは海外で競技的にも盛り上がりを見せていますが、『Shadowverse』製作にあたって、e-Sports業界に参入することは視野に入れていましたか?
木村 そうですね。『Shadowverse』は、まず“オンラインのカードゲーム”という新たな体験、“リアルな友達と気軽にカードゲームが遊べる”という体験、そして、“e-Sportsとしての遊び”という、3つの体験を備えたゲームとして作りました。
──e-Sportsの中でも、カードゲームというジャンルを選んだ理由はなんですか?
木村 ひとつは僕がカードゲームを好きだったからです。僕、好きなゲームジャンル以外は面白くできないので、作らないんです。あとは開発当時、ようやくスマホの性能が向上してカードゲームをおおよそ再現できるような時代になった、というのもありますね。
ただ、僕らは「e-Sportsのジャンルで日本に一番適しているのがDCGだから、『Shadowverse』を作ろう」と考えて作ったわけではまったくありません。
僕たちはカードゲームが好きで、その面白さを世に広めたいという気持ちで作っています。実際にカードを揃えたりデッキを作るのは大変なので、スマホでカードゲームをやったらこんなに便利に遊べて面白いんだ、ということを広げたい。
なので、「作ったゲームのジャンルがたまたまe-Sportsに含まれていた」という意味合いのほうが強いです。ただ、作った以上はe-Sportsとしての展開も、日本のどの会社よりも積極的にやっていこうとは考えています。
──開発時、海外ではDCGの市場がすでに出来つつあったと思います。そういった点で何か意識したことはありますか?
木村 『Shadowverse』のコンセプトのひとつとして、“スマホで遊びやすくする”というのがあります。パソコン向けにチューニングされて遊べるカードゲームは多かったんですが、スマホで遊びやすいカードゲームというのは、世界でもあまりありませんでした。ですので、『Shadowverse』はスマホで遊ぶことを念頭に置きました。
──「e-Sportsを盛り上げる」という意味で、e-Sportsと結びつきの強いジャンルである格闘ゲームやFPSといったジャンルのゲームを、今後Cygamesが積極的に製作をしていく、といった展望はありますか?
木村 僕らが作らなくてもe-Sportsは勝手に発展すると思っているので、僕らは作りたいゲームを作っていこうと思っています。
ちなみに、メジャーだと捉えられることが多いですが、格闘ゲームはe-Sportsでもマイナージャンルですよ。メジャーなのはFPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)とMOBA(マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ)だけで、あとはマイナージャンルですね。
世界的に流行っているゲームっていうのは、団体戦が多いんですよ。FPSもMOBAも団体戦で、個人戦のゲームはそんなに流行ってないです。野球とかもそうじゃないですか。日本でもやっぱり団体戦のほうが人気があるんですよね。
──確かに、Twitchなどを見ていても、人気作品は団体戦のゲームのほうが多いような…。さきほど「e-Sportsは勝手に発展する」とおっしゃいましたが、その根拠はなんでしょう?
木村 今、e-Sportsは世界で発展しているので、日本でも発展しそうだな、と。僕の個人的な意見ですけど、みんな世の中の娯楽に多少飽きちゃってるんです。新しい娯楽というのは常に出てきて、そして廃れていく。その繰り返しです。その中で、テレビ、ゲーム、遊びなど様々なジャンルの土壌が形成され、流行っていくものと思っています。
色々な情報がある中で、それぞれの価値が細分化されていって、自分が最も好きなものを探すという活動も増えていくからです。
──これまでにない新しい娯楽として、e-Sportsは台頭し始めている。加えて、趣味が細分化され、ゲーム好きな人はe-Sportsと出会う機会も多くなっていくだろう、と。一方で、Cygamesとして一般の人に向けて「今、e-Sportsはこんなに盛り上がってるんだ!」というアピールをするような施策は考えていないのでしょうか?
木村 「e-Sportsがこんなに盛り上がってるんだ!」というのは、本当に盛り上がっていたら言う必要がないはずなんです。だから、「盛り上がってるぞ」とは言わずに、盛り上げること自体をやっていきます。
それにはやっぱり、プレイヤーだけでなく、「プレイしている姿を見ても楽しい」ということを広めるのが大事だろうと考えています。
ニコニコ動画でゲーム実況が出てきた時、初めて、“人がやってるゲームを見ても楽しい”という文化が生まれました。また、小さい頃にお兄ちゃんがゲームで遊ぶのを見ていて、「プレイしないけどゲーム実況は見てる」という女の子も増えています。実況者のおかげで、“ゲームは見ても楽しい”という文化が出来てきた。
そして、その後は実況者個人の面白いしゃべりというより、上手い人同士がプレイしているのを見て楽しいということに変わってきた。それが、e-Sportsです。
だから、e-Sportsの発展にダイレクトにつながっていくものとしては、例えば、高校生ゲーム選手権を開催して、そこで繰り広げられるドラマや”上手い人同士のゲームプレイを見る”という楽しさを、僕達が映像にして届けていくことだと思っています。
これまで日本にそういったコンテンツはあまりなかったのですが、徐々に増えてきて、実況解説のレベルや編集技術も上がってきています。そうやって、見るコンテンツとしての面白さのレベルが上がっていけば、普通に娯楽として受け入れられていくんじゃないでしょうか。
──e-Sportsをめぐる状況自体がエンタメ化していく?
木村 いうなれば、番組になるかどうか。大食い選手権と同じです(笑)。
スポンサー企業となるメリットとは…
──そして、2017年3月2日、Cygamesは梅原大吾氏らプロゲーマーとスポンサー契約を締結し、プロゲーミングチーム「Cygames Beast」を発足しました。その狙いをお教えください。
木村 僕らはゲーム企業なので、ゲーム業界全体の発展に寄与したいと考えています。その活動の一環として、世界で活躍されている梅原大吾さん、スネーク・アイズさん、PRバルログさんでチーム「Cygames Beast」を発足しました。
──「ゲーム業界全体の発展に寄与する」という意味で、プロゲーミングチームの発足、あるいはe-Sportsへの注力といった施策を選んだ理由は?
木村 僕らはゲームを作れますが、ゲームを作っただけではプレイヤー文化の発展にはつながりません。ゲームを作っている側の文化とプレイヤー文化、両方が発展していくことがゲーム業界全体の発展につながると思っています。(e-Sports支援は)プレイヤー文化の発展に貢献したいと思ったんです。
──今から2年前の2015年には、Cygamesは世界的TCG『Magic: The Gathering』のプロチーム「Team Cygames」を設立していますね。
木村 「Team Cygames」も「Cygames Beast」と共通して、プレイヤー文化発展のためです。スポンサードした理由としては、『Magic: The Gathering』は、僕がよく知っているゲームのひとつだということもありますし、世界中で遊ばれながら、日本人プレイヤーがすごく強いゲームだということもあります。これが注目されないのはもったいないな、という気持ちがあったんです。
──今後、「Cygames Beast」ではどういった展開を考えていますか?
木村 僕らはスポンサーなので、Cygamesが引っ張ってプロプレイヤーである彼らに何かをやらせる、ということはありません。
彼らプロゲーマーが安定した状態でゲームをプレイできて、強くなって勝つことができる。その環境を作ることが、チームを設立した目的です。
企業がスポンサードすることによって、ゲームで活躍し、みんなの人気を得て、スターになることができる。そういった道筋を作ることこそ、彼らをスポンサードしている意味なんです。ただ、そのスターを使って僕らが何かをどうにかしたいというわけではありません。ゲームを通じてスターが生まれやすい状況を作ることこそが、ゲーム業界全体の発展になると思っているんです。
──「Team Cygames」の紹介ページ(外部リンク)では、「Team Cygamesが業界外からのスポンサードの成功例となれば、他の様々な会社がスポンサードを行うのではないかと期待しています」と記されています。2015年の「Team Cygames」発足以降、国内のプロゲームシーンやe-Sports業界において、スポンサー企業の動向で何か変化はありましたか?
木村 KDDIがプロゲーミングチームの「DetonatioN Gaming」のスポンサーになりましたし、東京ヴェルディがe-Sportsを立ち上げたりといった活動が出てきましたよね【※】。
【※ それぞれ2017年3月、2016年11月のこと。また、「DetonatioN Gaming」は2017年3月に大塚食品「マッチセットポジション」と、同年4月にクレディセゾンとスポンサー契約をしたことも話題となった】
──大手企業のスポンサー活動が活発になってきた。そもそも、e-Sportsのスポンサー企業になるメリットというのは、どういったものなのですか?
木村 Team Cygamesを発足したことで、「Cygamesで働きたい」というゲーム業界の人や大学生が非常に増えました。昔、『Magic: The Gathering』をやっていたという人はいっぱいいて、Team Cygamesへのスポンサードを見て、「Cygamesは本当にゲームが好きなんだ」というのをわかっていただけたみたいです。
──企業としてのプロモーションに寄与していると。ただ、PRとして考えた場合、例えばテレビCMなどの方がパイとして大きいのでは?
木村 Cygamesは結構CMを打っているので、それで会社自体の知名度は上がったと思います。ただ、テレビで採用CMは流せないですし、コンテンツのCMをいくら打っても、Cygamesという会社がどんな会社かはわかりません。だから、テレビCMのその先、というところで、スポンサードは効果がありましたね。
実は、e-Sportsのスポンサー企業になるメリットを言う機会って、これまであまりなくて…。それで、思ったよりスポンサー企業が増えてないという側面もあるとは思うんですけど(苦笑)。
──先ほどおっしゃった業界自体の活性化という面で見れば、CSR(企業の社会的責任)的な部分もあるのかな、と。
木村 元々、スポンサードはCSRのためにやっています。なので、そもそもそれ以外の目的はありません。そうでないと、(方針が)ブレてしまい、選手に対しても失礼です。それ以外の目的(広報など)だとしたら、お金をかけてプロゲーマーの方に「PRしてください」とお願いすればいいわけですし。
──プロゲーミングチームのスポンサードといった活動は、「今後、Cygamesはe-Sportsビジネスに注力しよう」ということではない?
木村 「e-Sportsのジャンルのゲームもちゃんと作っていく」というだけに過ぎません。ただ、日本のゲーム業界発展のために、e-Sportsのためになることはどんどんやっていこうと思ってます。
──ちなみに、スポンサードするとなった時、社内から異論の声などはありましたか?
木村 あまりないですかね。「僕が責任を持ってやります」ということで、役員会議で決めたことなので。
──それでは、スポンサードのデメリットというのはありますか?
木村 それもないですね。
今後のe-Sportsを見据えて
──最後に、これからのe-Sports/プロゲームシーンを見据えた上での展望をお教えください。
木村 今年6月、韓国に現地法人「Cygames Korea」を設立しました。韓国を選んだのは距離的にも文化的にも近いからで、アメリカや台湾でも色々やっています。そうやって、各国にCygamesのゲームを根ざしていきます。各国でe-Sportsが盛り上がる中、『Shadowverse』もひとつのゲームとして確立していきたい。日本から発信したカードゲーム『Shadowverse』が世界中に広まって、世界大会が行われることを目指します。
──ゲームコンテンツに加え、Cygamesがスポンサー企業という形でe-Sports/プロゲーム文化を後押しすることで、国内でもe-Sportsが盛り上がっていくといいですね。
木村 大きな企業がスポンサードするだけで、プロゲーマーの地位はとても向上するんですよ。Team Cygamesの人たちも、「親にめっちゃ喜ばれた」って話してました。
──そうやって、文化を含めてゲーム業界全体を盛り上がっていこう、と。
木村 だから、僕らが率先してスポンサードを始めたんです。
──今後の展開も楽しみにしています。本日はありがとうございました。
引用元
Cygames常務が語る、e-Sportsと『Shadowverse』 e-Sportsでスポンサー企業になる意味とは?
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