【背脂チャッチャ系】伝説の環七「土佐っ子」のDNAを受け継ぎし「じょっぱりラーメン」

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環七ブームの立役者、「土佐っ子」

土佐っ子ラーメンを覚えているだろうか。

1980~90年代にかけて、環七ラーメン戦争と呼ばれるムーブメントが勃発した頃の話だ。

夜な夜なタクシーや一般乗用車が向かった先は、東京の交通網の大動脈となった環状七号線(通称:環七)沿いに、派手なネオンの輝くラーメン店。

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▲幹線道路沿いの光景 ※写真はイメージです

車社会が出来上がるにつれ、幹線道路沿いにドライバーを当て込むかのようにラーメン店が増えた時代だった。ラーメンの味は脂でコッテリとしたものが主流。つまり、この連載1回目のホープ軒本舗タイプのラーメンが経済成長期の働き盛りの男たちをメインにウケ、ホープ軒の支店やその出身店以外にも、まねた、今で言うインスパイア店が環七沿いに増殖した。

その中でもブームを牽引していたのが、板橋区は東武東上線ときわ台駅と中板橋駅の中間を走る環七沿いにあった、「土佐っ子」。

「土佐っ子」は、ホープ軒本舗が貸していた屋台から出発し、独立した店。

ラーメン自体は他の多くの店同様、ホープ軒スタイルの茶濁した豚骨醤油スープだったが、最大の違いは、スープにコクを与えるために投入される背脂を、溶かさず固形のまま丼に豪快に振りかける“背脂チャッチャ系”と呼ばれるスタイルだった。

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背脂まみれの一杯は見るからに身体に良くなさそうだが、そのパフォーマンスと、横一列に15人余り並ぶお客さんのラーメンを一気に作り、全員食べ終えたら、後ろに控えるまた15人程の列と入れ替わるという、まるでかつての共産圏の配給制度と見まごうシステムが独自の世界観を構築していた。

しかし盛者必衰の理なのか、初代の経営者は1990年代前半に諸々のトラブルで故郷の四国に帰ってしまった。経営者が代わり、土佐っ子「なすび」として営業を続けるも、徐々に味が下降線をたどり、また諸問題を抱え、ついに98年閉店となった。

今世紀に入った頃時期を同じくして、東京を中心に魚介と豚骨のWスープ等、さまざまなラーメンが登場し、ラーメン店そのものの数も増え、環七で栄えたタイプの豚骨醤油ラーメンが急速に姿を消していく。

現在、「土佐っ子」にいた従業員や関係者から教えを請うて独立したラーメン店がいくつか分派し、今なお営業を続けているお店も存在する。

そんな「土佐っ子」のDNAを受け継ぎし中でも、王道を行き、さらに進化しているお店が、「土佐っ子」と同じ板橋区内の東武東上線沿線に存在する。

下赤塚駅の南口からスグ、夜の街角にあたたかなオレンジ色の明かりが招く1軒。

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それが、「じょっぱりラーメン」だ!

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「じょっぱりラーメン」の営業は夜のみ。深夜23時も過ぎると、2軒め3軒めとしての飲みに、また〆のラーメンにと、ご機嫌なお客さんで賑わうが、19時開店しばらくは、本格派背脂チャッチャ系ラーメンを求めて人が集まってくる。

どんなお客さんも分け隔てなく渾身(こんしん)の一杯を振る舞う、店主の川口秋由さんに、生い立ちから、「土佐っ子」の味を提供し続ける思いにいたるまでをおうかがいしてみた。

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▲「土佐っ子」の文字が印された丼を持ってはにかむ川口さん

よくこんなもん食えるな!

── ご主人出身は、じょっぱり(津軽の方言で頑固者)というだけに青森ですよね?

川口さん(以下敬称略):青森県のむつ市です。下北半島。有名なのは大間のマグロ。津軽海峡・冬景色。古いね?

── 上京されたのは、お仕事で?

川口:そうそう、15歳でね。最初に千葉に行って。

── その時はラーメンのお仕事ではなかったんですか?

川口:床屋さん。親戚のつてで、住み込みで1年くらいやったんだけど、キツくて辞めちゃったよ。それで一旦、青森に帰ったんだけど、スグ戻って。知り合いのつてで土木関係の仕事なんかを転々として、また千葉に行って、工務店に勤めてたんですよ。ある時、都内で仕事があった時に会社の人に土佐っ子ラーメンに初めて連れていかれて。最初食べた時は「なんだ? これでよく行列できるな」と。

── 最初はピンと来なかったんですか!?

川口:だって自分の田舎の方にはないもん。食ったことないもん、あんな脂っこいギトギトしたの(笑)。東京の人は変わってんなぁって。

── (爆笑)

川口:最初はね、脂っこいだけで。でも断れないじゃない。ああいう会社って男社会だから。でも、2回3回と連れて行かれるうちに、なんか、おいしくなってくるんだよね(笑)

── わかります(笑)。

川口:そのうち癖になって。で、その会社が景気が悪くなった時にパンクしちゃって、途方にくれていた時に「そういえば、環七ラーメン食べたいなぁ」と思って行ったら、店頭に住み込みの従業員募集の貼紙をみつけて、(手を叩いて)これだ! と。それで、「土佐っ子」に入ったのが、28~9歳(90年代前半)くらい。

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▲ユニフォームに着替え、仕込みをしながらも冗談交じりに独特のテンションで話を続ける川口さん。その胸元には「土佐っ子」の文字が。聞くと、「土佐っ子」在籍当時のもので、今でも大事に着ているという

「土佐っ子」で副店長に抜てき

── その頃はもう経営者が変わって、「なすび」になってたんですか?

川口:なるかならないかの頃。それから最後までいたから。でもあの時代(「なすび」)から徐々に味が変わっちゃってね。経営者が変わる前の、先代の社長の頃からやっていた従業員がいて、その人が(「なすび」になってから)店長やってたの。

── 「土佐っ子」の店員さんというと、TVチャンピオンのラーメン職人選手権に「土佐っ子」代表として出られていた方を覚えています。

川口:そう、その人が店長。その下にボクがついてて。

── じゃあお店では二番手、ナンバー2だったんですね。

川口:がんばって副店長までならせてもらったけど。

── ほー!!

川口:当時だって、1日平均800食から1000食出てたからね。

── そんなに!? 当時仕込みもされてたんですか?

川口:仕込みもしてたよ。流れ全部覚えないと副店長できないから。

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▲「土佐っ子」当時の仕事の流れを説明しながら背脂をチャッチャする姿は、往時の杯数をさばく作り方より、さらに丁寧に背脂を丼に落とし込んでいるように見える

── 味が変わっていったっていうのは、何か原因があったんですか?

川口:いい加減にやっていたからじゃない(笑)。

── それをみて、自分の中でこうした方がいいんじゃないかっていうのは。

川口:あったと思う。お客さんにも「前と違うよ」って言われたから。でも自分は副店長だから、普段は余計なことは言わない。飽くまで補佐的な立場だから。

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▲じょっぱりの店内のアチコチに掲げられた、「土佐っ子」の味を継承した旨を記した説明書き

── となるとご主人くらいですか、「土佐っ子」にいて、いまでも営業を続けておられるのは。確か、ときわ台の下頭橋(げとうばし)ラーメン(「土佐っ子」DNAを受け継ぐ現役店の一つ)も、「土佐っ子」で元々働いていた人ではないんですよね。

川口:「土佐っ子」って、閉まる時に、競売にかかったの。その時に落としたオーナーがいたんだけど、このまま「土佐っ子」がなくなるのはもったいないからって、閉めて数カ月経ってから、新たに下頭橋ラーメンを始めたの。その時に、雇われてた人だね。

背脂チャッチャ系は進化する

── 「土佐っ子」がなくなって、川口さんは練馬ラーメンを開業されましたが、完全に自分のお店ってことですよね。

川口:33歳の時(99年頃)。6年くらいやったのかな。練馬ラーメンやってた頃は自信がなくて、途中、辞める頭もあった。お客さんも「『土佐っ子』と違うなぁ」って言われると、まだ若かったから言い合いになっちゃったりしてね。悔しい思いして、じゃあ新たにコッチ(下赤塚)で自分でやるってことになって、試行錯誤して、今の味にたどり着いた。

── 結局ご主人にはラーメンだった、というわけですね。

川口:(突如大声で)いろんな経緯を経て、じょっぱりのマスターは、淡々と自分のオリジナルのラーメンを作り上げ、いわゆる環七ラーメン進化系という、味に至ったのではないか!?……なんちゃって(笑)

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▲出来上がった渾身の一杯をハニカミながら出してくれた

── その後じょっぱりを2006年に始められたとき、「土佐っ子」時代の経験をいかして自分好みにした部分、一番ここを変えたっていう部分はなんですか?

川口:ぶちゃけ、これ(小指を立てて=女性)と一緒でしょ? 自分好みにするって。

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▲ご主人好みにチューニングされた環七ラーメン進化系、ラーメン正油700円(撮影用に通常よりチャーシュー多め)。これぞ背脂の海!!

── なんとも言えないですけど(苦笑)。

川口:味はね、コクとかまろやかさ、そしてバランス。そして麺とスープの相性は、試行錯誤しました。当時の「土佐っ子」のラーメンって、ただ脂っこいだけ、味が濃いだけ。この背脂系ってのは5~10分と経つと、ヌルく感じる。

── 脂が冷めるのが早いんですかね。脂が固まるというか。

川口:鶏油みたいに、細かい薄い膜が貼るんじゃなくて、この背脂っていうのは、同じ脂でも粒状になるから、熱を吸収する。質が違うんですよ。だから冷めやすい。チャッチャ系のお店はそこを苦労してる。それとね、脂にもAランク、Bランク……。

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▲上質な脂の層から麺を引き出すと、甘辛い独特の濃いタレが顔を出す

── 質にレベルがあるんですよね。

川口:変な脂使うと、味にも響くし。まとわりつくような、ベタッとするような脂は味の良さが表に出てこない。最初はいいけど、飽きてくる。

── 食べた後気持ち悪くなるのありますよね。

川口:そう、いい脂っていうのは、それがないの。さらに、脂は良くても、麺がバランスよくスープと絡まないとダメだからね。一体にならないと。

三位一体になってこそ

── 麺に関しては、練馬ラーメン時代からつるや製麺(「土佐っ子」に卸していた製麺所で、現在までずっとの付き合い)特製の麺だったんですか?

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▲背脂の海から立ち上げる、つるやの特注麺

川口:いや、練馬ラーメンの頃は、下頭橋さんと一緒。(じょっぱりに来てから)なぜ特注にしたかというと、例えばどっかのラーメン屋さんで、麺はおいしいけど、スープおいしくなかったよねぇ……とか。あるでしょ。

── はいはい!

川口:逆に、スープはおいしいんだけど、なんでこの麺使ってるんだろって。じゃあどうすればいいか。麺が吸い込むようにすればいいわけ。麺が、スープをかき混ぜた時に、麺の中にスープが吸い込んでいくような麺を作ってあげたらいいんじゃないかって。だったら、一体になるでしょ!

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▲やや太めのモチッとした麺とスープの絡みが抜群な塩ラーメン750円。背脂が少なめで、スープを味わうにはもってこい

── 製麺所が、ご主人としっかりコミュニケーション取れてないと、スープに絡むバランスのいい麺は作れないですよね。

川口:いまのつるや製麺の二代目の社長は年齢的に近いしね。社長の時代からの付き合いだし、自分に合わせて試行錯誤してくれて、一緒に試食しながら、これだったらイケるんじゃね? って。

── イケてる麺だと思います。

川口:麺だけよくてもダメ。スープもチャーシューも、それらが一杯の中で三位一体になる、それがラーメンだと。ただおいしいだけじゃダメたと思う。おいしさを超えたものじゃないと、記憶に残らない。

── ご主人から、お客さんに対して、自分のラーメンのこういうところを見て欲しい、感じて欲しいってありますか?

川口:求めちゃいけないけど、ただ一杯のラーメンでも、そこのご主人、ご主人が情熱を込めて、一生懸命作ってるから、お客さんも味に対して向き合ってほしい。

── それはお客さんに響いてますよ! 貴重なお話、本当にありがとうございました。

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▲時に真剣に、時に冗談を散りばめつつも、常に絶やさない笑顔が実に印象的だった

現在のじょっぱりは、土地柄もあって、地域密着型の居酒屋ラーメン店として営業しているが、ご主人はあくまでラーメン専門店として、環七ラーメン進化系の味を貫き、ラーメン好き、特に背脂チャッチャフリークの心をわしづかみにしている。

夜更けに訪れて、常連客と和気あいあい飲みがてら味わうもよし、ひとりでじっくり堪能するもよし。目的に合わせて、職人魂によって進化した「土佐っ子」背脂チャッチャラーメンの現在の姿と、多くの方に向き合いに来ていただきたい。

お店情報

じょっぱりラーメン

住所:東京都板橋区赤塚新町1-24-8

電話番号:03-5383-6550

営業時間:19:30頃〜3:30(スープなくなり次第終了)

定休日:日曜日

www.hotpepper.jp

※この記事は2017年5月の情報です。

※金額はすべて消費税込みです。

書いた人:刈部山本(かるべ やまもと)

刈部山本

スペシャルティ珈琲&自家製ケーキ店を営む傍ら、路地裏系B級グルメのブログやミニコミ誌を作ってる人。時折、ギャンブル場グルメや板橋しっとりチャーハンでメディアに登場するが、基本はラーメン・酒場・町中華・喫茶で大衆食を貪りつつ、産業遺産・近代建築・郊外を彷徨い、見落としがちなものを拾う地味な作業を続けているオッサン。自著に、背脂番付 セアブラキング [デウスエクスマキな食堂13年夏号]、ザ・閉店 [デウスエクスマキな食堂15年冬号] など。 Twitter:@kekkojin

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