【甲子園名物】高校球児の空きっ腹が生んだ「大力食堂」の超ド級カツ丼
高校球児たちが夢見る大舞台といえば「阪神甲子園球場」。私自身、春・夏の高校野球開催時には甲子園球場に足を運んで試合を観戦するのが楽しみである。白球を追いかけて熱闘を繰り広げる高校生たちを応援しながら飲むビールがたまらなくおいしいのだ。球児たちよ、酒の肴みたいにしてしまって申し訳ない。
さて、その「阪神甲子園球場」がある兵庫県西宮市に、高校球児たちに愛される昔ながらの大衆食堂が存在するのをご存じだろうか。阪神電車の甲子園駅から徒歩10分ほど。球場をグルッと裏側の方へ廻り込んだエリアにある「新甲子園商店街」の一角にたつ「大力食堂」がそのお店。
なんでもその「大力食堂」のカツ丼がとんでもないボリュームで、その食堂の名物メニューになっているそうなのだ。
いったいどんなものなのか、また、なぜそんな名物メニューが生まれたのか知りたくなり、お店をたずねてみることにした。
完食が学生らのステータスに
まずは甲子園駅から歩いてすぐの「阪神甲子園球場」に挨拶。
取材当日は、試合の行われない日であったため、いつもの熱気が嘘のように静かな雰囲気であった。高校野球大会の開催期間ともなれば、この周囲は球児や応援にやってきた高校生たちやたくさんの観客であふれかえり、大変な賑わいである。夏が待ち遠しい!
球場の周囲は、飲食店が散見されるものの、基本的には閑静な住宅街となっている。
のどかな雰囲気の町並みを歩いていくと、目的の「大力食堂」が現れた。
店頭の食品サンプルを見るに普通なサイズの「カツ丼」。
入店してみると、一目で「うおー!ここ絶対おいしい!」と確信する落ち着く雰囲気だ。
うどん、そば、丼ものをメインにしたメニューの中の「カツ丼(大)800円」がとんでもないボリュームなのだという。躊躇(ちゅうちょ)することなくさっそくオーダー。
改めて店内を見渡してみると、壁を埋め尽くさんばかりのサイン色紙の数々である。
テレビが取材に来ることもあるらしく、有名人のサインも多いのだが、それをしのぐ量なのが高校の野球部、運動系の部員たちが残していった「完食しました!」的なサインである。
どうやらこのお店で「カツ丼」を食べ切ることが、一部の高校生たちの中でステータスになっているようなのだ。
これがド迫力の「カツ丼(大)」!
ふーん、なるほどね、と色紙を眺めていたらズン! という重たい振動と共に「カツ丼(大)800円」の乗ったお盆がテーブルに置かれた。
えーと、
えーと、
多いっす!
真上から撮っても立体感が伝わる……3Dだ。
玉ねぎ、青ねぎと絡み合う卵をかきわけると、厚みがあって柔らかいカツが出現。
さっそくいただいてみると、甘じょっぱーいタレが染みていて美味!
しかしその下のご飯をスプーンですくってみると、どこまでも米ゾーンが終わらない。
部活帰りの学生をたらふくに
これは……おいしいけど、食の細い自分には到底食べきれない量だと即座に分かった。こんなこともあろうかと実は手を打ってある。強力な助っ人を呼んであるのだ。
出でよ! あいどん!
呼びました?
“あいどん”さんは、見ての通りの巨漢。
私の友人の中でも最も食える男である。身長176cm、体重170㎏。好きな食べ物はローストビーフ。
大阪が誇るスカムミュージシャン「クリトリック・リス」のスタッフとして活躍している。相撲部屋からスカウトを受けたことも一度や二度ではないという。
あいどんさんにかかればドカ盛りのカツ丼も怖くない。
と思ったが、「これはなかなかヤバい量すね……」と驚いている様子であった。
ガバッと一口ほおばり「うまい!うまいっす!」と快調なスピードで食べ進めていくあいどんさんを眺めつつ、「大力食堂」の店主・藤坂悦夫さんにお話をうかがうことにした。
── このカツ丼はご飯はどれぐらい使っているんですか?
「大盛りは2合半。まず丼の底にタレを入れて、そこにご飯を盛ってるんや」
── それで底の方までタレが染みてるんですね。それにしてもすごい量ですが……これは昔からですか?
「昔はこんなに多くなかったんやけど、クラブ活動の後に高校生がようお店に来るんや。どうしても学生さんは小遣い少ないやろ? 部活でおなかもごっつすくやろ。それでおっちゃんが量増やしていったんや」
── 壁の色紙も高校の野球部とか、体育系の部活動の生徒さんのものがたくさんありますね。
「グループで来てみんな完食したら色紙残してもらってんねん。学生さんよう来るよ。高校野球に出場する高校も予約で来よる。『カツ丼』の“カツ”で験を担ぐんやな。食べきれなかったら負けるいうてみんな必死で食べよるよ(笑)。せやから高校野球やってる時は楽しいよー。学生さん来てくれるのうれしいからな」
ちなみに、大力食堂の「カツ丼」には(大)と(小)があるのだが、女性からも「カツ丼を食べてみたい」という声があり、従来のボリュームだとどうしても食べきれないことが多いので(小)を作ったのだとか。
つまり、(大)とは言っているがあくまでこれが通常のボリュームということである。(小)のご飯の量は1合半とのこと。
お客さんの8割が注文するカツ丼
── 「大力食堂」は創業されてどれぐらいなんですか?
「今年で51年や。おっちゃん今77歳。27歳の時に独立して始めてな。それまでは修行してた。いわゆる丁稚奉公やな。丁稚奉公いうたら給料もらわれへん。そのかわりご飯食べさせてもらって、泊めてもらえる。先輩 が7、8人おって、休みの日は『どっか行っておいで』って小遣いくれんねん。いろんなお店で修業して、和菓子や洋菓子も作って、全国大会も出たんやで。ここでも昔は大福とかも売っとったんやけどな。ショートケーキとか。独立する前に勉強しようと思っていろいろやったな」
シャツを脱ぎ、本気モードで食べ進むあいどんさん。
── いろんな経験を積んだ結果、こういう大衆食堂のお店をやろうと思ったのはなぜだったんですか?
「おっちゃんの若い頃は、貧困言うんかな。貧しい暮らしをしてる人が多かった。食べるものなんか、兄弟で奪い合いしたりな。せやから、家族でそろって来て、笑いの絶えないようなお店にしたくてな。安くおいしいものを食べられるお店。このカツ丼を1つか2つ頼んで家族で分けたら安く済むやろ?」
── 確かに。2人で半分ずつにしても十分な量ですよ。
「お客さんの80%ぐらいはカツ丼注文する。食べやすいように工夫してんねんで。味付けを少し濃い目にしてタレを多めに入れるようにしてな」
── 他にも「親子丼」「肉丼」と丼もののメニューがありますがこれも量は多いんですか?
「多いよ(笑)。とにかくおいしいものをたっぷり食べてもらう。できるだけ安くしてな。お金は持っとっても意味ないからな」
── 太っ腹なお店ですね。
「タッパー持ってくるお客さんもおるよ。カツ丼半分持って帰って家の冷蔵庫にある野菜と一緒にダシで煮込んでおじやにしたりしてな。そうするともう1食できるからな」
あいどんさんはそろそろ完食かというところで箸がストップ。
「これはすごいお腹に来ますね。消えない。ゆっくり食べてるのに満腹感がまったく減らないっす」とのこと。
「おかわりしいや。最低3杯食うつもりでこなあかんでー。4杯いったら新記録やで。色紙書かせてあげるよー。色紙増えてな。天井にも貼ってんねん」
ついに完食へ
「大力食堂」はご夫婦で切り盛りされている。奥さんのことについてもお話をうかがった。
── 奥さんとはどこで出会ったんですか?
「修業時代に同じところに勤めとってな。(奥さんは)会計係やってん。帳面から会計からみなできるからな。ゆくゆくは独立しよう思ってたから、この人やなと。この人がいたらお店ができる思ってな」
── すごいですね。そういうパートナー的な視点で! でも、この人だ! と思ったからといってその人の心を射止めるのは難しいですよね。
「いや、それは、簡単やねん(笑)」
── わはは!
「夫婦いうもんはお互いを理解せんとあかんねん。自分のできへんことを相手が補ってな。相手が調子悪いなと思ったら話を聞いてあげんねん」
それを聞いたあいどんさんは、「なるほどなぁ。いやぁ、奥さん欲しくなってきましたわ」とつぶやいていた。
そしてキレイに完食!
「おいしいカツ丼、ありがとうございました!」と感動の握手!
それに対し「おかわりいらんの?」とお父さん。
晩酌向け一品ツマミも充実
── ちなみに「大力食堂」に後継者はいるんですか?
「おるよ。息子が二人おるんやけどな、長男が今ホテルのレストランで働いとる。今いろいろ勉強してる最中や」
── なるほど、お父さんが若い頃修行したように息子さんもいろいろと吸収しているわけですね。そしてゆくゆくはこちらを継がれると。
「そうそう。若い時に苦労して修行すると後が楽やねん。そしたらいろんなことに耐えられるからな」
この食堂がこれからの安泰だと聞き、また、きっとお父さんのサービス精神が息子さんにも引き継がれていくのだろうと思い安心した。
「大力食堂」では、カツ丼の他に「カレーうどん」も人気で、そちらもかなりのボリュームらしいので次回ぜひ挑戦してみたい。
また、店内にはこんな風に、
一品 270円のおかずも用意されていて、これを肴にお酒やビールを楽しんでいくお客さんもいるそうだ。
みなさんも甲子園球場に野球観戦に行く際には、ぜひ足をのばしてみて欲しい。
「いやぁ、腹パンパンですわ!」と語るあいどんさんと「大力食堂」を出て、甲子園駅前の喫茶店に入ったのだが、クリームソーダとケーキを注文していて笑った。
さすが!
お店情報
大力食堂
住所:兵庫県西宮市甲子園網引町2-29
電話番号:0798-49-0800
営業時間: 9:00~20:00
定休日:月1回
www.hotpepper.jp
※この記事は2017年4月の情報です。
※金額はすべて税込みです。
書いた人:スズキナオ
1979年生まれ、東京育ち大阪在住のフリーライター。安い居酒屋とラーメンが大好きです。exciteやサイゾーなどのWEBサイトや週刊誌でB級グルメや街歩きのコラムを書いています。人力テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーでもあり、大阪中津にあるミニコミショップ「シカク」の店番もしており、パリッコさんとの酒ユニット「酒の穴」のメンバーでもあります。色々もがいています。 Twitter:@chimidoro
過去記事も読む
関連記事リンク(外部サイト)
【嫁さん評価★4】こんもりフワフワのかに玉、意外と簡単にできちゃいます【主夫のレシピ】
独自の進化を遂げたローカル麺「尼崎あんかけチャンポン」を食べ歩く【兵庫】
【嫁さん評価★5つ】ゆですぎたそうめんをサクッと「激ウマつまみ」に! 【今週はそうめん】
食を楽しみたいあなたのスキマ時間を、笑顔と感動と知って得する情報で満たす「グルメ情報マガジン」です。平日は休まず更新中。
ウェブサイト: http://www.hotpepper.jp/mesitsu/
TwitterID: mesitsu
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。