ニューヨークから学ぶこと
花の都パリや、霧の街ロンドン……いまや世界のどこでも日本人は生活者として生きているだろう。そしてニューヨークにも日本人はいるのである。私もそのひとりである。
日本に帰国すると私がニューヨークに住んでいることを羨ましがる方が多い。だいたい感嘆の声を上げて「ニューヨーク!」と羨ましがられる。でも、生活者としてみると、確かにエキサイティングな街で、刺激はいっぱいなのだが、観光客として遊びにくるぶんには楽しい! と過ごすことができても、生活者だとそれなりに苦労も多い。
ニューヨークには世界各国から人がやってくる。それだけ競争の激しい街で、まさに生き馬の目を抜く大都会なのである。人のことなんてかまっていられない、自分のことで精いっぱい! と言う“ゆとり”のない空気がそこここに充満している。
金持ちは高級住宅街の――マンハッタンは高級住宅がそのまま高層アパートになるのだが、環境のいいイーストサイドの高層アパートに居を構えている。トランプ・ワールド・タワーと言う国連近くのアパートは、ビル・ゲイツやJay-Z&ビヨンセ夫妻、ヤンキースのジータ等が保有しているという。どうして“住んでいる”と書かなかったかと言うと、ああいう大富豪は別荘感覚でそれらのアパートを持っているのだ。ジータなどはヤンキース所属なので住んでいるのだろうけれど、高級アパートの窓を夜見上げると、意外に明かりが少ない。要するにスーパーリッチな人々は、物件を所有しているだけで使っていないのだ。ビル・ゲイツだって一人しかいないから、基本西海岸で過ごしているだろう。
金持ちもいれば、当然貧乏な人もいる。ホームレスは文字どおり家すらない。同じ人間として生まれてきて、富豪は住みもしない高級アパートをマンハッタンに持ち、ホームレスはマンハッタンで生活しているのにもかかわらず家もないのである。
しかし、この貧富の差にニューヨークの学びがある。
この街は現金な街だ。例えば人がどこに住んでいるかで、その人の経済状況を判断することも可能なのである。アッパーイーストやミッドタウンイーストに住んでいると、いい生活をしているのだなと判断できる。
ただ、ニューヨークは現金な街だからこそ、経済的なことのみを大事とする人間を薄っぺらく感じるのだ。金があれば生きていくのに不自由はしない。賛否両論はあるが人から尊敬されることもある。ただしこれは金への尊敬であって人間性は無視とする。そして肩書きもニューヨークでは特に重宝がられる。弁護士や会計士、特別な資格のある人たちは職業人として信用を勝ち取る。どちらかと言うと人間性を伴わないでこれらの職業を金もうけの手段としてしている人たちも少なくはない。
厳しい街である。世界中から一旗あげようとやる気のある人間がやってきて、ほとんどは夢破れる。夢の残骸があちこちに散らばっている。
生活者はこの本当の姿を知っている。観光客には華やかな表舞台しかみえないけれど、生活者には楽屋の本当の空間を知っている。華美が横行する街で、虚勢が顔を利かす街で、それでも生活者としてささやかな暮らしを続けることで、生きる厳しさをこの街から学んでいる。
鼻持ちならなかったであろう私も、この街に鍛えられ、少しは人間らしくなっているような気がする。
画像:frickr from YAHOO!
http://www.flickr.com/photos/rickharris/5076621163/in/photostream/
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。