ゲームプログラマが語る アップデート版に潜む開発者モラルハザード
近年、購入したゲームに関し、時折新しいバージョンが配信開始され、アップデートを勧めらるというケースも増えてきている事と思う。携帯端末へダウンロードしたアプリは元より、インターネットへ接続してるゲーム機等も含め、これはつまり、手持ちのゲームをインターネット経由などでバージョンアップさせる為の仕組みだ。
既に購入されたゲームに対し、主として、その販売時点においては修正する事の叶わなかった不具合を、改めまして貴方の手を煩わせる事となり誠に申し訳の一つも在りはしませんが、今、この場にて修正させて頂けないでしょうか上様という、販売元からの”お願い”である。
アップデートが見つかった場合、それを適用して良いかどうかについては通常、ユーザーの判断に委ねられる事となり、もしも望まなければバージョンアップを施さないままプレイを続けるという形も選択する事が可能だ。とは言え、大抵のケースではそれまで潜在的に、もしくはあからさまにプレイへ支障を来す事となっていた問題が修正され、又、不具合だけではなくゲーム本編における難易度調整等が行われる事もあり、基本的にユーザーはこの提案を受け入れるべきだ。
しかし、この流通形態の恒例化は、ユーザーの間においてある種不穏な空気を蔓延させ始める事となってきている。
”発売後にバージョンアップが出来るのであれば、多少発売スケジュールに無理が生じていても強引に販売し、後のバージョンアップでお茶を濁そうとするメーカーが出てくるのではないか”
”ならば、発売後暫く様子を伺い、幾つかのアップデートにより安定した頃に買った方が良いのではないか”
少なくともインターネット上においては、この手の話題が色濃く語られるようになってきた。これらが象徴している事はつまり、商品に対するある種不信感の表れであると言える。派手なバグが多く残されたままのゲームを購入する事となってしまい、ネガティブな気持ちを抱える事となってしまったユーザーの存在は、筆者もまた一人の開発者として心を痛める。彼らのこうした心理が膨らんだ結果、アップデート前提で進めているかのような開発姿勢に対する不信論は本当によく耳にするようになった。
さて、こうした背景の裏で、開発には一体何が起きているのであろうか。
制作側の立場より、幾つかの前衛的な知見を提供させて頂ければ幸いだ。
まず、多くの開発者達はその制作過程の中、特に序盤から中盤にかけては、アップデートシステムの存在を”あてにした”ような形にて開発を行っているわけではない。寧ろ、約束された刻限が過ぎた後にまで、その仕事をダラダラと継続させたくはないと思っている。ひとたび納品した後に、再びアップデート版を制作しなければならない状況を望んではいないのだ。
昨今の話題に上がるように、アップデートシステムが存在する事を前提とした開発者達がモラルハザードを引き起こし、注意力を散漫にさせたまま開発を進め、結果的にそれが多くのバグを引き起こしたままのリリースに繋がっているのではないかという、一部インターネット上にて散見されるようになったこの懸念は、必ずしも正しいものではない。
それどころか、ハードの高機能化、ゲームの大規模化等により、しっかりとした開発技術力が求められる昨今、アップデートシステムに心の拠り所を見い出し、未完成のまま出荷を試みよう等とするチームでは、今やファーストリリースにすらこぎ着ける事も難しい。
一方、仮に発売後のアップデートが出来ない場合、最悪の状態になれば製品回収しか道は残されてはいない。これにかかるコストはそのソフトハウスの存亡に関わる程に甚大だ。
せめてこれ程の事態を引き起こす様なバグだけでも、それこそ徹底的に潰しておかなければならないという最低限の理性は、大抵の開発者も持ち合わせている筈だ。
逆に言えば、これ程にまで重篤ではないバグに関しては、仮にそれを残したままの出荷になってしまったところで、よもや回収騒ぎにまでは発展しないであろうという盲信により、ある程度ならばバグがあっても納品してしまえるのでは無いかという考えを引き起こし易い。
こうした見解が全ての開発者に当てはまるとまでは言えない上、そもそもこれら全て筆者ら開発者側のエクスキューズである事はもちろん認めた上で、誤解を恐れずに話を進めるならば、我々開発者は勿論、より良い製品をリリースしたいと考えている。
昨今、幾つかのゲームにおいて多くのバグ被害が散見されている事実はあるが、その事とアップデートシステムの存在に因果関係がある事は希なのだ。
余談だが、モバイル系のプラットフォーム幾つかおいては、このアップデートシステムの存在に対し、別の意味におけるモラルハザードが引き起こされている面もある。
家庭用向けのゲームとは異なり、日々ストアへ並べられる沢山の競合アプリ達の中、自身のコンテンツを僅かにでも目立たせる為の手法として、特に更新が行われたわけでも無くアップデートが行われ、ユーザーの端末の中に埋もれているアプリを再び起動せしめようとする行為だ。
本当に内容のあるアップデートが行われたのかどうかについてユーザーがそれら全てを確かめる術は無く、任意に発行される更新履歴を信じるしか無い。
大多数のアプリにおいては勿論、至極まっとうにアップデートが配信されている。
しかし、スマートフォン等へインストールしたアプリ達のアップデートが、妙な早さでどんどんと貯まっていくなと感じられる昨今のこの背景には、こうした意図が含まれている可能性もあるのだ。
このように、現行のアップデートシステムにはまだまだ課題も多い。そもそも、インターネットに接続していない家庭用機ユーザーへ、アップデートを配信する事そのものが未だ事実上不可能だ。解決しなければならない課題に溢れ、その裏には開発者の怠慢が潜んでいるような風潮が目立つ。
しかし一方で、これからの時代においてはインターネットでの更新が行えるシステムがますます重要になってくる事実がある。バグ修正アップデートに留まらず、追加される魅力的なコンテンツも、これからは更に彩りを増してゆく事だろう。
我々開発者にとっては、そのインフラの持つ力を過信せず堅実な物作りをより一層意識していくと共に、ユーザーの皆においては、インターネットにおけるコンテンツ更新ラッシュを上手に乗りこなし、新しい時代を楽しんで頂ければ幸いだ。
画像:『任天堂 ニンテンドー3DS公式サイト』より
http://www.nintendo.co.jp/3ds/versionup/
※この記事はガジェ通ウェブライターの「Team Dyquem (ディケム)」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。