近所の家から子どもの激しい泣き声が。これって虐待…? 通報していいの?
「夜中に激しい子どもの泣き声が聞こえる」「隣家の子どもの泣き声が気になって眠れない……」。子どもは泣くのが仕事とはいえ、児童虐待のニュースなども気になる昨今、「もしかしてご近所で虐待かも……?」とモヤモヤした経験がある人、いるのではないだろうか。では、どこに、どのように通報したらよいのか。通報のボーダーラインなども聞いてみた。
虐待かなと思ったら「189」へ電話。地元の児童相談所につながる
今回の「ご近所の子どもの泣き声、これって児童虐待かな……?」というデリケートな質問に答えてくれるのは、子どもの虐待防止を訴える、認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワークで理事を務める高祖常子(こうそ ときこ)さん。そもそも、子どもの泣き声で虐待が疑われる場合、どこに通報したらいいのだろうか。
「虐待が疑われる場合の相談先として、全国共通の電話番号189(イチハヤク)が開設されています。電話は最寄りの児童相談所につながり、基本的に匿名で話すことができますので、安心してください。ただ、情報について追加で聞きたい場合などは、電話をした人の氏名や連絡先を聞くこともあるようです。
通報時には、分かる範囲でよいので子どもの年齢や性別、どんな状態でそれはいつから起きているかを伝えてください。また、泣き声の発生源がどこの部屋と分からない場合は、上階からとか、隣の部屋から、というだけでも役立つことも多いんですよ」と話す。
ただ、子どもの泣き声が聞こえるといっても、通報する程度なのか、それともよくある泣き声なのか、家庭に他人が立ち入っていいのなどと、判断も迷うところ。「目安」になるものはあるのだろうか。
「尋常ではない激しい泣き方、突然の悲鳴のような泣き声、一晩中泣き続けている、罵声や怒声、ものを壊す音、叩きつける音などといっしょに泣き声が聞こえるといった場合は、虐待の可能性が高いので連絡したほうがいいと思います。児童虐待防止法では確証がなくても通報することを義務づけています。虐待は、はじめは叩くなど小さなことからエスカレートしていくもの。早い段階で子どものSOSをキャッチできると、酷い虐待になることを防ぐことができます」(高祖さん、以下同)
児童相談所は「サポートする場所」。悩まずに連絡して!
とはいえ、「通報」となると事件となってしまい、大げさな事態にかかわるのは「面倒だな……」と思ってしまう人も多いはず。
「誤解されているのですが、『通報』といっても児童相談所は、罪を見つけて人を罰する権限はもっていません。『子育てで困っていませんか? 相談してみませんか?』と親子・家庭をサポートするところです。通報があれば、孤立無援で子育てに悩んでいる人、子どもをどう育てたらよいのか分からず追い詰められている人に対し、『こうするといいですよ』『こんなサポートを利用してみませんか』と助言することができ、『助けられた……』というママ・パパも多いんです。通報によって行政の関係機関の支援のスイッチが入ると考えていただくといいと思います。通報があればかかわることができる。虐待されていてもSOSの声を上げられない子どもにとって、通報は貴重な命綱なんです」
ちなみに、通報後の対応だが、事態の切迫度合いによって、すぐに子どもを保護するケースもあるが、多くは48時間以内に一度、児童相談所や市町村の担当窓口が該当家庭に働きかけ、その後、幼稚園や保育園、学校、地域の保健所などの各行政機関と連携し、情報共有が進められ、解決にあたることがほとんどだそう。
「泣き声が聞こえた、いつも同じ服を着ている、ご飯を食べさせてもらっていないなど、1つ1つの情報は小さくても、複数の通報が積み重なることで子どもや家庭がどんな状況に置かれているのかを知ることができます。気になる子どもがいたり、家庭が近くにあれば、ぜひ情報を寄せてください」
近年では、冒頭で紹介した3ケタの電話番号(189)が知られるようになったほか、児童虐待のニュースが注目を集めるようになり、通報そのものが増えているという。そのなかでも近隣からの通報は、警察についで2番目の多さ。多くの人が「子どもの命を守りたい」と気にかけているのが、こうした通報の増加につながっているようだ。【図1】厚生労働省発表の児童相談所での児童虐待相談対応件数(平成27年度・速報値)より、筆者作成。近隣や知人からの虐待相談は、警察からの通報に次いで2番目の多さとなっている
ただ、通報されてしまった側から見ると「一生懸命子育てしていたのに、周りからそんな風に見られていたなんて……」というショックは残らないだろうか。
「仮に通報されて児童相談所から連絡があったからといって、ショックをうける必要はまったくありません。周囲から見守られているんだ、気にかけてくれる人がいるんだ、と前向きにとらえてください。そもそも、子育ては昔から助けあって行ってきたもの。昨今、急激な孤立化・個室化が進んだほか、男性の長時間労働も一向に改善されないため、『子育ては親、特にママの責任』と思いつめてしまいがち。子育てで周囲の助けを借りるというのは当たり前のことなんです」とアドバイスしてくれた。
小さな部屋に大人数で生活、雨戸を締め切った家には注意を
最後に、家や部屋の周辺など、「子どもの虐待が起こりがちな住環境」についても聞いてみた。
「子どもの虐待には、家庭の経済苦、夫婦の不仲などが背景にあることが多いんです。例えば、単身用などの手狭な間取りに、不釣り合いなほど大人数で生活をしているのは、気をつけたいですね。あとは、子どもの泣き声・悲鳴が周囲に漏れないよう『雨戸が閉めっぱなし』『ずっと閉めっぱなしで不自然に防音している部屋』がある場合も、ひとつのサインです」と話す。
一方で、“普通”に見える住まいであっても、虐待が起きることもあるのだそう。
「虐待には身体的な虐待のほか、心理的虐待、性的虐待、ネグレクト(養育放棄)といったものがあります。たとえ何も問題がなさそうな家であっても、精神的なストレスなどからネグレクトや心理的虐待など、見えにくい虐待が起きているケースは意外とあるんですよ。本来、家庭は温かく、またくつろげる場所であるはずですが、子どもたちはこうした家で安らぐことはできず、常に緊張を強いられています。周囲の大人は、お子さんが出しているサインに気づいてあげてほしいですね」という。
日々のニュースでもよく流れ、ひとごととは思えない児童虐待。「何かできないかな」「ちょっと気になるな」と感じたら、思い切って電話してみてもいいかもしれない。●取材協力
・認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク/オレンジリボン運動●参考
・厚生労働省/平成27年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数<速報値>
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