肉々しいマグロと、迫力満点の解体ショーに打ちのめされる【日本橋馬喰町たいこ茶屋】

見た目は肉、その正体は……
ども、メシ通レポーターの松沢直樹です。
今日もおつかれさまでした。
ビールで乾杯の前に、いくつか料理を頼みましょうか。
とりあえず、煮込みとかどうかな?

あら、よく煮込まれていて、いい感じじゃないですか。

そうそう。スタミナつけたいなら、揚げ物はマストだよね。
串カツですか。いいじゃないですか、いいじゃないですか。

レバーは貧血とか疲れにもいいらしいっすよ。濃厚でまったりしたタレ味のレバーは、ビールでも日本酒でもいけますよね。

まだまだ、お肉食い足りないよね? ステーキも追加しましょうよ。
きたきたきた。ボリューミーで最高じゃないっすか!
さ、料理はとりあえずこんなところで。
生ビールを人数分頼んで乾杯しましょうか。
おつかれさまでした。かんぱーい。
あいや!
その乾杯、しばし待たれい!
せっかく盛り上がりかけたところで、水をさしてしまってスミマセン。
実は、この料理、ぜーんぶお肉じゃないんです。マグロ料理なんです。
一番上から「マグロの皮と筋の煮込み」「マグロの串カツ」「まぐろの心臓の串焼き」「マグロのほほ肉のステーキ」
でも見た目、完全に「お肉」でしょ?
10キロ級キハダマグロが!
これだけ、肉々しいマグロ料理を出すお店とはなんぞ?
東京は日本橋馬喰町にあります居酒屋さん「たいこ茶屋」です。

ほぼ毎日19時からマグロの解体ショー、20時からはじゃんけん大会を行うなど、サービス精神たっぷりで勢いがあるお店なんですな。

ここが入り口。お店は地下にあります。
なんせ看板にも、マグロが飾られているくらいですから、マグロに対する思い入れはハンパない。
お店の入口のそばには、今夜の解体ショーでさばかれるであろう1匹が、氷の中でスタンバイしておりました。

キハダマグロですね。重さは10キロ前後くらいでしょうか。
「ドナドナドーナードーナー♪」
まぐろの悲しい目を見て「ドナドナ」を脳内再生してしまったのはナイショです。
こちらの「たいこ茶屋」、マグロにこだわっているとはいえ、基本的には居酒屋さんなので、お肉や定番メニューもたくさんあります。こんな感じ。


肉々しいマグロ料理が続々と

こちら「たいこ茶屋」のメインはやはりマグロ料理。グランドメニューにもある通り、リーズナブルで、特徴のあるマグロ料理がたくさん提供されています。
ではさっそく注文してみましょう。
ご覧ください。このボリューミーなこと。

▲たいこ茶屋名物、大中赤てんこ盛(1,449円)
まさにマグロ山脈。

この丼、上から大トロ、中トロ、赤身と層になってるんですが、黒マグロ本来のおいしさが楽しめます。

赤身は、黒マグロの赤身独特のうま味と酸味が感じられます。
リーズナブルなので、部位ごとのうまさを楽しんでもいいですね。
火が入ったマグロ料理も負けていません。

▲すじトロ煮込み(399円)
ちまたの酒場で出てくる「もつ煮込み」とは、ひと味もふた味も違います。
ゼラチン質のとろとろな口当たりは、一般的なもつ煮込みより風味が強いですね。それでいて、生臭さがなく後味さっぱり。
しつこくないし、皮にはコラーゲンも入っているため女性の方にも好きになってもらえるんじゃないでしょうか。

▲串カツ (1本 294円、3串 819円)

マグロを串カツにしたら、パサパサな食感になっちゃいそうなイメージがありますけど、全然そんなことはありません。確かにまぐろなんだけど、どこまでもジューシー。
衣との一体感がたまりません!

▲ほほ肉おろしポン酢ステーキ(1,029円)

ポン酢おろしをつけたまま食べても、美味であります。また、付け合わせのもやしに、味が染みていて、おいしいんだこれが。

マグロのほほ肉だけを見ていただきましょうか。ほんと、魚には見えませんよね。
言われなければ「お肉」と間違える人がほとんどなんじゃないでしょうか。実に、食べ応えがある食感です。

▲まぐろのへそ焼き(714円)
え? マグロにおへそがあるの?
いえいえ、これ実は、まぐろの心臓なんです。
ふつう、まぐろって漁師さんが捕った後、腐敗を防ぐために、えらと内臓は全て取り除いて身の部分だけを市場に出すんですね。
では、腸や心臓はどうするかっていうと、漁師さんの宴会とか家庭で食べられちゃうんです。ちょうどホルモン焼きみたいな感じで、網焼きにして食べちゃうんだとか。
まさに命をかけてマグロと戦ってきた漁師さんの特権的な食材でもあるわけですが、これがめっちゃうまい。
焼き鳥のハツを、さらにクセがない風味にして、歯触りをよくした食感といえば、イメージしていただけるでしょうか。
こういった希少部位の料理がグランドメニューに載っているのには、理由があります。
「たいこ茶屋」が、マグロをそのまま一匹買い付けてるから。
だから「へそ焼き(心臓)」や、まぐろ一匹から2本しか取れない希少部位「脳天」の刺身なんてのが、グランドメニューの中にあるんですね。
「脳天の刺身」残念ながらこの日は売り切れていましたが、来店されたらぜひ召し上がってみてくださいね。
シメがほしいというツワモノは、しじみラーメン(680円)ほか、ゴハンものも充実していますよ。
豪快! マグロ解体ショー
さて、お楽しみはこれからです。
「たいこ茶屋」の魅力は、毎日ほぼ19時から始まる「マグロの解体ショー」。
お店で包丁を振るって、マグロをさばきながらMCもこなす嵯峨店長が登場し、ショーが始まりました。

「えー、みなさまが召し上がっておられるマグロは何種類もございまして、一番値が張るのが本マグロ。別名黒マグロとも申しますが、今年のお正月の初値で はなんと1キロ35万円の値がつきました(場内どよめき)。ちなみに、2年前は70万円を記録したこともございます(もはや場内ためいき!)」
インカムをつけた嵯峨店長が、まくしたてると常連さんたちが待ってましたとばかりに箸をとめて聞き入ります。
まぐろの解体は腕がいる仕事ですから、嵯峨さんが一流の板前さんなのは疑う由もありませぬ。それに加えて、しゃべりが心地よいこと。MCも一流。最高じゃありませんか。

ふつう、「マグロの解体ショー」で大型のマグロをさばくときは、二人がかりで、まぐろ包丁という、日本刀みたいな包丁でやるんですね。
対して嵯峨店長は、どんな大きなマグロも、普通の包丁を使って一人で解体できるという凄腕の持ち主。

「マグロのおいしさを見分ける目利きのポイントは三つございます。一つは腹が厚いこと。それから尻尾の断面を見て、脂がのってること。そしてもっとも重要視していることがございます。これです!」

嵯峨さん、 やおら切り落としたマグロの頭を掲げて全てのお客さんに、マグロの顔が見えるように見せて回ります。

「おいしいマグロを目利きする最後の決め手は、顔なんですね。餌を豊富に食べてるマグロは、顔が優しい顔をしてるんですね。お人形と同じでマグロも顔が命なんです!」
なるほど。なんとなく説得力を感じるお話ですね。

マグロの頭も、カブト焼きなどに供されますが、解体ショーが進む中で、解体されたまぐろの部位は、お客さんの間で競りにかけられていきます。
まずは、1匹で2個しかとれない「カマ」から。こちらは、競り落としたお客さんに、調理して提供されるのだそう。

「1,000円」
「1,500円っ!」
「2,000円っっ!!」
威勢のいい声が客席から響きます。
お客さんの入札の値がつり上がっていくに従って、他のお客さんの歓声がヒートアップ。まさに、マグロを愛するお客さんの真剣勝負。
まるで、ボクシングの試合で、ハードパンチの応酬が繰り広げられているシーンをリングサイドで見ているかのようであります。
果たして、カマは無事に競り落とされ、焼き物として落札したお客さんに供されました。
今回、解体ショーに出されたのは、キハダマグロ。

ふつう、キハダマグロは、赤身の部分しかなく、一昔前までは、ツナ缶などに使われることも珍しくありませんでした。
ただ、嵯峨さんいわく「ここまで脂がのっているキハダマグロは珍しい」とのこと。

▲嵯峨さんから渡さされたマグロを、アシスタントの方が手際よくブロックに切り分けていきます
マグロは、真横に寝かせて上半分の頭寄りの部位を「背上(せかみ)」、上半分の尻尾寄りのほうを「背下(せしも)」といいます。
同様に、下半分の頭寄りの前半分は、「腹上(はらかみ)」、下半分の尻尾よりの部分は「腹下(はらしも)」といわれます。

▲ブロックに切り分けられたキハダマグロ

本当に脂がのっているのか比較しやすいように、嵯峨さんが本マグロ(黒マグロ、右側)の同じ部位と比較して見せてくれました。
さすがに本マグロは脂がのっていますが、左側のキハダマグロも、なかなかの脂ののり具合ですね。
その後も競りが続き、競り落とされるたびに、お客さんが自宅まで持ち帰れるように保冷剤を入れてパックして、お渡ししておられました。

▲なんと、板場の側には、MC用のミキサーとエフェクターが!
被災地をマグロで支え続ける
解体ショー後、嵯峨店長にお話をうかがいました。

── 嵯峨店長、マグロの魅力ってなんでしょうか?
「やっぱり、日本人が一番好きな魚だと思うんですよ。もちろん、日本にはいろんなおいしい魚がありますけど、マグロが嫌いという人はあまりいないでしょう? マグロ自体は50年間扱わせていただいていますけど、やはりみなさん喜んでいただく方が大多数ですから、日本人が一番好きな魚といっても過言ではないんじゃないでしょうか」(嵯峨店長、以下同)
── お店を始めた当初から解体ショーはやられてたんですか?
「いえ、実は10年前くらいなんですよ。居酒屋さんだからみなさん酔いが回ってるでしょ? だから、みなさんに注目していただくには良い方法かなと思って始めたんです。とはいえ、人前でしゃべるのは素人でしたから、手探りで勉強させていただいて、今のスタイルに落ち着いています」
ちなみに、ご出身は宮城県の仙台。東日本大震災を機に解体ショーを披露する意義も大きく変わったといいます。
「震災が起きて以来ずっと、大恩がある生まれた場所に何かできないかと思って、マグロの解体ショーをやらせていただいています」

震災直後の被災地は、新鮮な魚どころか、保存食で食いつなぐ状態だったといいます。そこで大恩ある故郷のために、黒マグロをひっさげて解体ショーを実演し、被災した方々に新鮮なマグロを振る舞われたのだとか。熊本地震の後は、やはり現地の熊本に出かけてショーを行ったそうです。
「被災地での開催は40回を超えましたね。でもまだまだ支援し続けます」
嵯峨店長、男気満点です。「たいこ茶屋」店内で行う解体ショーで得た収益金は、被災地で解体ショーを行うための資金に回すと公言する潔さ。なかなかできることじゃありません。実にあっぱれ!
いよっ大将、男だねえ。

▲お店のメニューにも嵯峨店長のイラストが。めっちゃソックリ!
さてさて、解体ショーが終わったと思ったら、20時からはじゃんけん大会が。
この日は、ふだんMCを務めている嵯峨店長の娘さんが夜の部を卒業されるということもあってか、ファンの方が盛り上がっていました。

もう、盛り上がりは最高潮。
居酒屋さんに来たのに、ライブハウスにいるみたい。
もちろん、ここのいちばんのスターは、わかってますよね。
そう、マグロです!
【おまけ】
ちなみに、「たいこ茶屋」はランチもチョー有名。
バイキングでお刺身、海鮮、サラダ、ごはん、味噌汁、フルーツポンチなどが食べ放題!
今度はお昼にうかがってみようと思います。
※ランチ価格は1,200円で、要整理券。整理券は午前10時より配布。整理券が配布終了次第、当日のランチは受付終了。
お店情報
たいこ茶屋
住所:東京都中央区日本橋馬喰町2-3-2 セントピアビルB1
電話番号:03-3639-8670
営業時間:11:30~14:00、17:00~23:00
定休日:不定休
ウェブサイト:http://www.taikochaya.jp/
www.hotpepper.jp
※この情報は2017年4月時点のものです。
※金額はすべて消費税込です。
書いた人:松沢直樹

1968 年福岡県北九州市生まれ。SE、航空会社職員などを経て、1994年よりフリーランスの編集者・ライターとして活動。主に扱うジャンルは、食全般、医療、 農業、安全保障、社会保障など。マグロ解体ショーの実演、割烹の臨時板前などとして、メシを作ることも。近著に「うちの職場は隠れブラックかも(三五 館)」。 Twitter:@naoki_ma
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