こんな「TOEIC試験対策」は、やってはいけない

『頑張らない英語』シリーズ(あさ出版)『英語を「続ける」技術』(かんき出版)など数々の英語学習に関する著書を出されている西澤ロイさん。英語の“お医者さん”として、英語学習の改善指導なども行っている西澤さんに「正しい英語学習の方法」についてお話しいただくこのコーナー。第4回目の今回は「やってはいけないTOEIC(R)試験対策」についてです。f:id:k_kushida:20170425094341j:plain

TOEIC(R)(以下TOEIC)L&R試験に関して絶対に知っておくべき大事な心構えと、間違ったTOEIC対策の見極め方をお伝えします。また、「TOEICスコア」と「英語の実力」の両方がUPさせられる正しい対策方法を公開します。

失敗しないTOEIC対策

TOEIC(L&R)試験の年間受験者数は2011年に200万人を突破し、ビジネスパーソンの英語力を示す指標として、ますます重要なものとなっています。

会社から一定のTOEICスコア獲得を求められている人もいるでしょう。履歴書に書けるように、例えば600点や700点以上のスコアを持っておきたい人もいるでしょう。

書店のTOEICコーナーに行くと、TOEIC試験対策の書籍が山ほど出ています。有名な先生もたくさんいて、みなさんTOEIC満点だったりしますので、どう選んでよいか迷いますよね。また、インターネットで検索しても、様々なTOEIC試験対策情報が見つかります。

「一体、どれを選べば良いのだろうか…?」という悩みが減るように、今回はTOEIC対策の正しい心構えや方法についてお伝えしたいと思います。

TOEICスコアを目標にしてはいけない

まず、情報の選び方について語る前に、根本的な心構えについてお伝えします。それは「TOEICスコアを獲得することを目的にすべきではない」ということです。

そうではなく、例えば600点や700点などのスコアが獲得できるだけの「実力」を身につけることを目指すべきなのです。

これは、ちょっとした意識の差ですが、大きな違いがあります。スコアを求めてしまうと、実力とは無関係の「受験テクニック」に走ってしまいがちです。そうすると、スコアだけがうまくUPしたとしても、英語の実力が伴わないことになってしまいます。

これは、誰も幸せになれない悲劇を生んでしまいます。例えば、本来はTOEICスコアが700点に満たなかった人が、受験テクニックを駆使して820点を獲得できたとします。それを履歴書に書くことで、優良企業に無事に就職――。ここまでは幸せに見えるかもしれません。

しかし、フタを開けてみると、望まれていただけの英語力がないために、企業はまた別の人を探さなくてはいけません。また、その人も、クビにはならなかったとしても、英語に関しては肩身の狭い思いをし続けることになってしまうのです(留学経験者などもそうですが、英語ができることを期待されて入社したのに、それに応えられなかった場合には、英語に関する全てを封印してしまうケースが少なくありません)。

試験というものは本来、英語力を測るためのものです。そのスコアは本来、英語の実力を示す指標に過ぎません。単なる指標に過ぎないものを目的にすべきではないのです。目指すべきものは、英語の実力なのです。

やってはいけないTOEIC対策

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表面的なTOEIC対策テクニックに振り回されないためには、一体どうすれば良いのでしょうか?

よく見かけるのは「出題パターンを覚えましょう」というものです。例えば「Part1の写真描写問題には、こういうパターンがある」とか「こういうところが問われることが多い」、「こういう選択肢は不正解」など。

また、Part別の「頻出単語」などを教えてくれるものもあります。

こういった対策情報・アドバイスが、本当に良いものかどうかを判断するためには、次の質問をしてみてください。

「このアドバイスに従ったら、英語の実力が上がるだろうか?」

もし、答えがNOであれば、それはTOEIC試験にしか当てはまらない、表面的な情報である可能性が高いと言えます。ですので、答えがYESだと思えるアドバイスでない限り、従わないことをお勧めします。

上に書いた例の中であれば、役に立つのは「頻出単語」でしょうか。知らないものがあれば、覚えてしまえばボキャブラリーが増えますよね。TOEICでの頻出単語は、ビジネスでも使える可能性が高いはずです。

TOEICを「英語の試験」だと思ってはいけない!?

では、TOEIC (L&R)試験に対して、きちんとした対策をするにはどうすれば良いのでしょうか?

そのためにはまず、TOEIC試験に対する誤解を解く必要があります。TOEIC試験は、非常によくできた、信頼性の高い試験だと言えます。しかし、万人の英語力を正しく測ってくれる英語試験ではないのです。

まず、TOEICはあくまでも「ビジネス英語」に関する試験です。それに加えて、単なる「英語力(理解力)」ではなく、「英語を使った情報処理能力」を測る試験だと考えた方がより正確でしょう。2時間という試験時間内に、200問を解かなければなりませんから。迷っている暇はなく、試験中ずっと、高い集中力が求められます。

ですから、おっとりした性格の人は、間違いなく向いていないと言えます。また、「英語の勉強」よりも「コミュニケーションを取ること」の方が得意だという人も、TOEICスコアは上がりづらいでしょう。

そういった意味で、TOEICはちょっと「クセ」のある試験なのです。ですから「TOEICスコアが上がった=英語力が上がった」「TOEICスコアが変わらない=英語力も停滞中」などと短絡的に考えるべきではないのです。

オススメのTOEIC対策勉強法

では、どのような対策を取れば、きちんと英語の実力が上がり、また、TOEICスコアも上がることが期待できるのでしょうか?

オススメできるやり方を3つご紹介したいと思います。

1.問題を解くだけで満足しない

TOEIC対策問題集や公式問題集などを解いているという方も多いでしょう。問題を解くことは良いのですが、問題を解くことを目的にしてしまわないようにご注意ください。

我々はつい無意識のうちに、問題を解くことにフォーカスしてしまいがちです。そうではなく、実力をUPさせることにフォーカスすべきなのです。

そのためには、「問題が解ける」以上のことを求めてください。例えば、問題の中に出てくる全ての単語や表現を理解できるように、きちんと調べる。不正解の選択肢が、なぜ正しくないのかまでを理解する。

そういった意識を持って学習をしていれば、ただ問題を解くだけと比べると、間違いなく英語力がつきます。

2.リスニングは全て聞き取ることを目指す

リスニングに関して、多いアドバイスが「文頭を聞き逃さないように」とか「キーワードを逃さないように」といったものです。そういう聞き方をしてしまうと、変なクセがついてしまいますし、ネイティブによる生(ナチュラルスピード)の英語は一生聞き取れません。

TOEIC試験レベルの英語音声であれば、100%聞き取れることを目指すべきなのです(なお、いきなりは聞き取れなくても仕方ありません。目指すことが重要なのです)。

まず入口としては、Part1とPart2の短文について、完璧に聞き取ろうという意識を持って、真剣にリスニングをすることをオススメします。ちょっと大変かもしれませんが、ディクテーション(書き取り)も効果的です。

3.Part5の問題を徹底的に解く

リーディング・セクションにおいてまず重要なのがPart5の短文穴埋め問題です。Part5では、文法力とボキャブラリーが問われます。それも、理解が中途半端な場合には正解できない形で問われるのです。

つまり、Part5の問題が自信を持って正解できることを目指すことで、この2つの力を確実に高めることができるのです。

また、Part5で余計な時間をかけずに解けるようになれば、自然とスコアも底上げされることになります。

最後に

TOEIC試験のために、きちんと勉強や対策をしてから受験しようとする人がたくさんいるのは、とても素晴らしいことだと思います。なぜなら、TOEIC対策の勉強を通じて、時間をしっかりと確保して英語を学び直すチャンスが得られるからです。

だからこそ、表面的な受験テクニックに振り回されてしまうことなく、ぜひとも英語の実力が伴う形で、英語を学ぶ人が増えたら……と願っています。そして英語学習者のみなさんが、英語を活用して、ビジネスをはじめとする様々な面で、大きく活躍されることを応援しています。

西澤ロイ(にしざわ・ろい)

イングリッシュ・ドクター

英語の“お医者さん”として、英語に対する誤った思い込みや英語嫌いを治療し、心理面のケアや、学習体質の改善指導を行なっている。

TOEIC満点(990点)、英検4級。

獨協大学英語学科で学んだ言語学に、脳科学や心理学も取り入れ、英語流の「発想」や「考え方」を研究、実践することで、大人だからこそ上達する独自のメソッドを確立する。

暗記の要らない英会話教材「Just In Case」、正しいリスニング方法が身につくトレーニング教材「リアル・リスニング」も好評を博している。ベストセラーとなっている『頑張らない英語』シリーズ(あさ出版)や『英語を「続ける」技術』(かんき出版)他、著書多数。

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