SNS×プロレスの可能性も? 新日本プロレスの株式を100%取得したブシロード木谷社長に今後のコンテンツ展開と戦略を聞く
1月31日、ブシロードグループパブリッシングが新日本プロレスリングの株式100%を取得し、子会社化することを発表しました。新日本プロレスは2005年から、ゲーム会社のユークスが株式を取得、その後100%株式を保有していましたが、これをブシロードが買い取ったというもの。ブシロードといえば、『カードファイト!! ヴァンガード』などのカードゲームやゲーム・アニメなどのメディアミックス作品『探偵オペラ ミルキィホームズ』で知られるコンテンツパブリッシャー。同社は今後、プロレスというコンテンツをどのように展開していくのでしょうか。2月29日に同社が開催予定の『2012新日本プロレス戦略発表会』を前に、ブシロード代表取締役社長の木谷高明氏に今後の展開のヒントやプロレスの可能性についてお話を伺いました。
聞き手:ガジェット通信 宮原俊介(shnsk)
このままではプロレスがなくなる
ガジェ通:木谷さんご自身は、プロレス界の現状はどうご覧になっていますか。
木谷:ヤバいと思いますよ。今回の動機のひとつに、このまま放っておいたらプロレスも格闘技もなくなる、存在自体がなくなる危機感というのはありましたよね。その中でどこが自分としてかかわれて、最も可能性があるのかなと考えたら新日本プロレスしかない。過去の映像資産もありますしブランドもある、名選手を何人も輩出していますし、今最も勢いがある。行く方向が明確になってますよね。
ガジェ通:今回の、新日本プロレスの株式を取得した経緯を教えてください。
木谷:昨年の8月末にユークスの谷口社長と食事をさせていただいて、私の方から「是非、新日本プロレスを任せていただけないか」ということで切り出しました。
その後、金額やどういう形で、という双方での検討があって、秋ぐらいには基本合意をしつつ、最終合意は1月に入ってからですね。そして1月31日に調印と同時に記者発表を行いました。
ガジェ通:木谷さん個人としては、ユークスさんとお付き合いがあったのでしょうか。
木谷:前の会社(ブロッコリー)でちょっと商品を作らせていただいたり、もちろん社長とも面識があって。これからも可能ならば、新日本プロレスのコンシューマーゲームなどを作っていただきたいですね。
ガジェ通:ユークスによるこれまでの新日本プロレスの再建に対しては、どのように評価されていますか。
木谷:ホントに、新日本プロレスがいちばん厳しかったときが2005~2007年なんですよね。そこのいちばん厳しいところを支えていただいて、なんとかここにきて形になっている。
2月12日の大阪大会も、本当に盛り上がりましたしね。第1試合から最後の試合まで、すごく流れがいいんです。大会自体が。最初はなんとなく楽しく始まって、少し緊張感が出てきて、だんだん緊迫感が出てくる。最後はすごい迫力で終わる、見ていて楽しい試合でしたね。
中も外も含めて、ユークスさんは再建に貢献していただいたところを受ける形になって、ありがたいと思っています。是非一緒に頑張らせていただきます、という感じですね。
2年で売り上げ3倍増を目指す
ガジェ通:今後の新日本プロレスに求めていきたいこと、それと事業の方向性を教えてください。
木谷:2年連続で黒字にもなって、やっと攻めの体勢になってきたので。“ちょい黒”にはなりましたが、売り上げは別に増えていないんです。観客動員もそんなに増えていない。
今年はいよいよ攻めの体勢を取りたいです。観客動員も増やしつつ、それ以外の売り上げも増やしつつ、より多くのお客さんに楽しんでいただけるようにしたい、ファンを増やしたいですね。ファンクラブに力を入れたり、ケータイのファンサイトに力を入れたり、そういうこともやっていきたいですね。
新日本プロレスの売り上げが11億円台なんですよ。アメリカのWWEが780億円。どうしてこんなに差がついちゃったのか……70分の1って何ですかと。たぶん30年前ぐらいは同じぐらいだったはずですよ。これをまず10分の1ぐらいにしたいですね。新日本プロレスは過去最高で40億円ぐらいだと思うので、それはオーバーしたいです。30億円位までは、やはりイベントの世界なので、大会を中心に増やしていくしかないでしょうけども。まず30億円を2~3年で達成したいですよね。
ガジェ通:ビジネス的な面でいうと、WWEはマーチャンダイズといいますか、選手をスーパーヒーロー、アメコミのヒーローのような存在としてフィギュアを売ったり、グッズを売ったりしていますよね。日本人の選手でもそういうことができるポテンシャルはありますよね。
木谷:あるでしょうね。
ガジェ通:特に棚橋弘至選手は仮面ライダー好きで、スーパーヒーロー的存在を目指していると。プロレス選手が子どもたちが憧れる存在になっていくと、今後状況は変わっていくのでしょうか。
木谷:とはいえ、まだ子どもが見られる時間にテレビ放送が流れていないですからね。
ガジェ通:テレビ放送については、今後もっと早い時間に流れるようにテレビ朝日と交渉されていくのでしょうか。
木谷:それは簡単じゃないですよ。お金をつければちょっとは早い時間になるかもしれないですけど。今ゴールデンタイムに流れている放送でも、もともと23時台にやっていて、その前は1時台にやっていたものがだんだん昇格してくる。そういった厳しい予選がありますよね。
ガジェ通:ではまずイベントとしての面白さをアピールして、露出を増やしていく。
木谷:そうですね。
ガジェ通:1月31日の発表会見では、30代から50代の、かつてプロレスを観ていた人たちにもアプローチしたいというお話でしたね。
木谷:いろんな層に、形を変えてアプローチしなければいけないとは思っています。35歳から55歳の男性は、ホントに好きな人が多いですよね。でも最近は見ていない、という人が多いと思うんです。そういう人たちにいろんな形でちゃんと見せて、会場にもう1回足を運んでもらいたいです。それと同時並行で、若い層にも来てもらう努力をしなければいけないでしょう。
カードゲームと自社SNSにプロレスを展開
ガジェ通:詳しくは2月29日に発表になると思うのですが、カードゲームなどのコンテンツをプロレスでどう展開されていくのか、お話いただける範囲で教えてください。
木谷:まずはオンライン型のパソコンやケータイを使ったカードゲームを10月に出します。あと当社はスマートフォンのプラットフォームを立ち上げますので、ケータイの方ではそこともうまくリンクするように。
ガジェ通:発表会見では「我々はカードゲームというアナログなSNSを提供している企業だ」とおっしゃっていて、コンテンツではなくコミュニティなんだというのが面白いなと思ったのですが、そのプラットフォームは『mobage』とか『GREE』のような既存のプラットフォームに乗っていくのか、それとも自社で立ち上げられるのか……。
木谷:自社で立ち上げます。今年の年末まではいろんなところが立ち上げるんじゃないですかね。プロレス団体みたいに乱立状態……2団体時代から他団体時代になる。
ガジェ通:カードゲームへ展開する場合、これまでのカードゲームファンとプロレスファンは層が重なる部分はあるのでしょうか。
木谷:意外に重なるかなと感じています。当社は「コンテンツからコミュニティに」、という流れでビジネス展開をしようとしていますが、新日本プロレス自体は非常に濃いユニークユーザーを抱えていますよね。そこが実は魅力です。あとブランド力があります。ブランド価値の資産はなかなか表に出ないものですが、それも魅力でしたね。
ガジェ通:『アメーバピグ』(サイバーエージェント)で新日本プロレス選手のキャラクターが非常に人気を集めて、売り上げも上げているそうですね。思わぬところでファン層がつながっていく可能性があるということでしょうか。
木谷:そうですね。また、選手の商標権を会社が管理していますので、ほかのスポーツと比べて展開しやすいんですよ。権利が分散していないですからね。
ガジェ通:カードゲームを遊んでいる皆さん、プロレスを見ている皆さんが、今回の株式取得でどんなメリットがある、あるいはファンにどんなものを還元できると思いますか。
木谷:プロレスファンの方の中には「このまま放っておいたらもっとプロレスは衰退しちゃうんじゃないか」と危機感をお持ちの方がたくさんいらっしゃった。そういう方の中には喜んでいらっしゃる方もいます。そうした方の中にはこの流れをきっかけに当社のカードゲームを始めた方も既にいると思います。そうなるとお父さん層にはアピールできたかな、と思いますね。
当社のカードゲームは今年の1月、過去最高の売り上げを達成したのですが、2月に入っても好調なんです。カードゲーム業界の中でもどんどんシェアが上がっていて、1月にはメディアクリエイト様の調べではとうとう25%を超えました。当社の去年の売り上げは64億9000万円ですが、今年は130億円ぐらい行くと思います。2倍、60億円以上増える見込みなんです。ですので、2年かけて11億円の新日本プロレスの売り上げを30億円に持っていくのは、そんな難しいことではないと考えています。ビジネスの構造上に違いはもちろんあるのですが。1年で達成は無理かもしれませんが、3年あれば夢ではありませんね。
きっかけは『ブシロードレスリング』
ガジェ通:昨年、格闘家の長島☆自演乙☆雄一郎選手をエースに立ててプロレスの大会『ブシロードレスリング』を開催しましたよね。そちらはどのように評価されていて、今回の動きにどうつながっているのでしょうか。
木谷:評判はすごくよかったです。なぜ『ブシロードレスリング』を開催したかというと、半分は趣味ですが、もう半分は自演乙選手の活躍の場を与えてあげたいなというのがあります。
一昨年、年末の『Dynamite!』に『ミルキィホームズ』の曲で入場してもらって、キャラクターも一緒に花道を歩きました。そこで自演乙選手が青木真也選手に衝撃的な勝利を収めたあと、『ミルキィホームズ』の評判も上がったんです。アニメブルーレイなんかも非常に動いたんですよ。
そういう経緯もあって、1回ご恩を返したいというのがありました。「プロレスをやってみたい」と言うので「1回やってみるか」とやってみたのが『ブシロードレスリング』。あれによっていろいろ分かりましたね。また、僕自身に対して「この人、プロレスのことを分かってるな」という認識も広がりました。あれがあったから今回、それほどザワザワしなくて済んだのではないかと思います。「まったくのド素人じゃないぞ」という。
ガジェ通:『ブシロードレスリング』の当時、新日本プロレスとはつながりはあったのでしょうか。
木谷:新日本の選手も、中西学選手とキング・ファレ選手に出ていただきました。あと、ちょこっとスポンサーしてたんですよ、夏の『G1クライマックス』とか。去年の『G1』は冠スポンサーをやりましたけどね。
ガジェ通:当時、実際に大会を開催してみて分かったことなどありますか。
木谷:単発で自社開催するとすごくお金がかかってしまいます。自社でやると難しいです。単発でやると当然、大赤字になってしまう。
ガジェ通:でもそれがあって業界内に認知されて、今回の足がかりになったと。
木谷:そうですね。
今後のイベント戦略
ガジェ通:対戦カードを決めるマッチメイクや他団体との交流など、プロレスでは大会の流れを作っていくうえで重要な要素があると思うのですが、今後の大会ではどのようにかかわっていくのでしょうか。
木谷:まず他団体との交流については、自主路線で行いたいと思っています。外国人選手の招へいに力を入れたいですね。外国人選手も固定化していますので、新しい選手の発掘をどんどんやっていきたいなと思っています。新日本プロレス自体も選手の発掘やスカウトをしなきゃいけない。特に若い人ですね。
マッチメイクに関しては現場にお任せしている話です。「この人とこの人の対戦だと宣伝として押しやすい」というのは当然ありますし、その意見交換、情報交換は行っています。マッチメイクについては現場と我々で一致するのではないでしょうか。大きなところは一致すると思います。
ガジェ通:WWEは、筋書きのあるエンターテインメントとして大会を展開していますが、日本のプロレスもそういう方向に行く可能性はあるのでしょうか。
木谷:日本のファンはそういうものを受け入れないと思います。
でも方向とするとそっちの方にいくしかないかな、というのもありますね。女性のファンも増えてきているし。女性ファンは自分が応援しているカッコいい選手が勝てばなんでもいいんですよ。
女性の方が、実はプロレスを素直に楽しんでいますよね。大阪でもやっぱり棚橋選手が負けて、泣きそうになってる女性ファンが沢山いらっしゃったから。逆に男性ははそこまで感情移入できなくなってる。
ガジェ通:スレた見方をしますよね。
木谷:「むしろそうきたか」「これで次の大会は大丈夫かよ」とか。だから、新規のライトなユーザーが入ってくる必要がありますね。
女性は勝ったら喜ぶ、負けたら泣く。それでいいんですよ。例えばドラマを見ていて、「この女優、ホントにこういう性格なのか」「この俳優、ホントにこんなカッコいいのか」とか考えないですよね。それと同じようなもので、女性はいい意味で深く考えないですね。男性もそうなった方が楽しいと思うんですけど、やたら理屈っぽくなっちゃって。20年も見ていると語りたくて仕方ないんですよね。
ガジェ通:昔、新日本でも『WRESTLE LAND』というエンタメ路線の大会がありましたが、そのような別ブランドを展開する可能性はありますか。
木谷:それはないでしょうね。もしやるなら『ブシロードレスリング』の名前でやるのも面白いかもしれないです。アニメとのコラボでアニメファンに来ていただく、とか。1回試しにやってみてもいいですね。後楽園ホールで開催すれば会場は一杯になると思いますね。
ガジェ通:ブシロードとして今、期待している選手はどんな選手になりますでしょうか。
木谷:大阪で勝ったオカダ・カズチカ選手、恐らく3月4日に内藤哲也選手と対戦すると思いますが、目先ではこの2人ですね。夏あたりまで考えると、大阪で負けた棚橋選手、中邑真輔選手がどういう形で巻き返していくかが楽しみですね。あとは大阪でインターコンチネンタル王者になった後藤洋央紀選手、キャラが突き抜けている真壁刀義選手。このあたりの6人が中心になっていくのではないでしょうか。
ガジェ通:ありがとうございました。
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今後のコンテンツ展開では、単に新日本プロレス選手をカードゲーム化するだけでなく、スマートフォンに向けた自前のソーシャルプラットフォームでファンのコミュニティを形成する可能性を示唆した木谷氏。「コンテンツではなくコミュニティ」というブシロードの戦略が、今後の新日本プロレスを盛り上げるキーワードになりそうです。かつてプロレスファンだった30~50代の男性にも届く戦略は用意されているのでしょうか。2月29日に開催される『2012 新日本プロレス戦略発表会』で明らかになるものとみられます。ガジェット通信もこの発表会を取材する予定なので、続報をお待ちください。
ブシロードは、この『2012 新日本プロレス戦略発表会』の模様を『ニコニコ生放送』で中継する予定。発表内容をいち早く知りたい方はチェックしてみましょう。
2012 新日本プロレス戦略発表会(ニコニコ生放送)
http://live.nicovideo.jp/watch/lv82491967[リンク]
ブシロード
http://bushiroad.com/[リンク]
写真提供:新日本プロレスリング株式会社
http://www.njpw.co.jp/[リンク]
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宮原俊介(エグゼクティブマネージャー) 酒と音楽とプロレスを愛する、未来検索ブラジルのコンテンツプロデューサー。2010年3月~2019年11月まで2代目編集長、2019年12月~2024年3月に編集主幹を務め現職。ゲームコミュニティ『モゲラ』も担当してます
ウェブサイト: http://mogera.jp/
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