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「娘をあなたの愛人にしないで下さいね」積年の恋人が見抜いた下心!天涯孤独の美しい姫君を狙う男たち ~ツッコみたくなる源氏物語の残念な男女~

その遺言は娘への愛か嫉妬か?積年の恋人、六条の死

冷泉帝が即位したのをきっかけに、伊勢斎宮は任を解かれ、母・六条御息所と共に帰京。源氏はかつて以上に2人を見舞い、礼を尽くします。しかし、2人の間に恋が戻ることはありませんでした。

激しい愛憎劇の末に最高に美しい別れ方をし、伊勢と須磨にいる間はお互いに長い手紙をやり取りした2人。六条は、今更喜びよりも苦しみのほうが多かった恋を再開しようとは思いません。源氏も相手にその気がないのに、無理によりを戻して相手の恨みを買うのも嫌です。

その割に”お見舞い”と称してしげしげと訪問するのは、美しく成長であろう斎宮をひと目見たいから。14歳で伊勢へ向かった彼女は、紫の上より1歳下で、今は20歳になっていました。

しばらくして六条は体調を崩し、寝付くようになります。容態が悪化したのを機に、伊勢にいる間に神様に遠慮して仏様へのお勤めをしなかったことを悔やんで、出家しました。

六条危篤の知らせを聞いて、源氏は驚いて病床を見舞います。薄暗い部屋の中、六条は弱々しく脇息(肘掛け)に身を起こし、その背中には切られた髪がハラハラとかかっている。最期の瞬間でも、作者は彼女の美の描写に手を抜きません。

六条は苦しい息の下から、源氏に遺言を残します。「娘のことが気がかりでなりません。私が死んだら、あの子は天涯孤独の身になってしまう。もう少し大人になるまでついていてあげたかった。どうか娘をよろしくお願いします」

「そう仰らなくても、斎宮のことは責任を持ってお世話するつもりでした。どうかご心配なく」。源氏はもちろんだと言わんばかりです。

しかし六条は「ありがとう。でも、娘の面倒を見るのは、実の父親でもとても難しいものですわ。母を失った孤独な娘を、あなたが新しい愛人のお一人にされたらどうしましょう。……嫌な事を言うようですが、あの子には、私が経験した辛さや悲しみを味あわせたくない。できれば女性として幸福な人生を送らせたいのです」

死の間際に、かつての恋人に「娘に手を出すな」といって死んでいく母親。どこの世界にそんなすごい話があるだろうかと思うのですが、源氏物語にはあるんですね…。生霊になるまで苦しめられた六条の発言には説得力があり、「源氏ならやりかねない」と見通していることもわかります。

源氏はさすがにムッとして「残念ですね。帰京からしての私は、若い頃のような奔放な生活はしていないのに。まあ、そのうちにわかって頂けると思いますが」。言いながら、几帳の影から母親を案じている、斎宮の姿をチラ見します。

斎宮は男子禁制の暮らしが長かったせいか、源氏の覗き見には気がついていないらしい。体つきは華奢で、頬杖をついて悲しそうにしている様がなんとも可憐です。なんて可愛い人だろうと源氏は興味をそそられながら(いや、ダメって言われたところなんだから)と気持ちを押さえます。

言ったそばからこの調子だよ…。もしきっちり言いおかなかったらどうなっていたか。六条の遺言は気の回し過ぎなどではなく、非常に的を得ていて、かつ確実な抑止力になっています。その読みの深さに脱帽するとともに、源氏をそこまで愛し、理解していたのかと思うとなんともやりきれません。

瀬戸内寂聴の『女人源氏物語』では、源氏に遺言した六条の本心を以下のように描いています。

でもあなたにこんな遺言をした心の底の底の本音をあかせば、わたくしはわが娘にさえ起こり得ないとはいえぬあなたとの未来の愛に、物狂おしい嫉妬を覚えていたのではないでしょうか。わが産みの娘の若さに、死んでいく母のわたくしが嫉妬している……なんという浅ましさ……わたくしの心に巣くう鬼めは、こんなに弱りはてたいまわの際のわたくしの軀の中からさえも、去ろうとはしていないのです。あの世までも、地獄の底までも、わたくしはこの心の鬼と共に堕ちてゆくのでしょうか。(瀬戸内寂聴『女人源氏物語』より抜粋)

母のしての愛情の裏には、女としての嫉妬が隠れていたかも…と想像するのも興味深いですね。源氏の心を知り尽くしつつも、その彼に娘を託さなければならなかった六条は、遺言後7日ほどして他界します。

母の死後、早速男たちに狙われる孤独な斎宮

源氏は六条の死を悼み、葬儀の手配を行います。源氏は最期まで「自分がどれだけ六条を愛していたか」をうまく伝えられないまま逝かせてしまったことを後悔していました。本当にいろいろありすぎたけど、源氏にとっては尊敬と畏怖、思慕と嫌悪、その全てであった大きな存在でした。以前の薄情さを埋め合わせるかのような配慮に、六条邸の人間たちも心を動かされます。

ずっと母子で暮らしてきて、伊勢行きでさえ母親と一緒だった斎宮は、「雪やみぞれのように消えてしまわないのが悲しい、毎日泣いて暮らしているのに」。源氏は若く美しく、悲しみに暮れる斎宮に気に入られようと、優しい言葉と美しい筆跡でマメに手紙を送り、時には直接ご機嫌伺いに行きます。大臣で、お出かけの暇がないとか言っていませんでしたっけ?

(彼女が伊勢に行った時から気になっていた。今はもう神様に使える身でもなく、これから自分のモノにしてもいいわけだ。でもあんな遺言をされたし、まだ母の死を悼んでいる人に言い寄るのも気の毒だ。もし斎宮と関係を持てば、世間も「やっぱりね」という目で見るだろうし、やはりここは養女にして、冷泉帝の後宮に入れることにしよう。

いろいろな腹づもりをしつつ、源氏は(顔が見たい、声が聞きたい)という下心で「これからは私を親代わりと思って、打ち解けてくださると嬉しいです」などと斎宮に挨拶し、話を引き出そうとします。

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