日本エネルギー機関代表が解説!「これからの日本の住宅の省エネ」
「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)」が2016年4月に一部施行され、2017年4月1日から完全施行された。これにより、規模の大きな非住宅の建築物については届出を義務化されることになった。ただし、2020年までには、住宅を含む全ての建築物についても段階的に適合義務化を行っていくという。
先進的なドイツの省エネ住宅事情に詳しく、省エネ住宅の普及啓発やコンサルタントを行う日本エネルギー機関代表の中谷哲郎さんに、これからの住宅の省エネについて解説してもらった。
大規模な建築を手始めに住宅にも省エネ適合義務化を
住宅・建築物で消費されるエネルギー量は、わが国のエネルギー消費の約1/3を占めている。政府は2016年5月に、2030年までにこれを約40%の削減を目指す「地球温暖化対策計画」を閣議決定した。
その具体的な取り組みの一つとして、「建築物省エネ法」により、2017年4月から、延べ面積2000m2以上の新築の非住宅建築物に対して、省エネ基準の適合義務化が始まった。そして、2020年までに、一戸建て住宅を含む全ての新築において適合義務化が拡大される。
「建築物省エネ法」の特徴は「一次エネルギー消費量」に着目している点だ。
一次エネルギーとは、石油・石炭など化石燃料や原子力、水力・太陽光などのあるがままのエネルギーのことだ。それらによって生み出される電気やガスは「二次エネルギー」と呼ばれる。
中谷さんは「ドイツをはじめとした欧州では、“エネルギーパス”という制度があり、快適な室内温度を保つために必要なエネルギー量が明示されています。誰もが簡単に家の燃費を確認することができます」と説明する。わが国においても、ようやく「一次エネルギー」に基づく建築がつくられる土壌ができたと中谷さんは評価している。
政府の掲げる「温室効果ガス削減」の目標から見れば、今後もさらに省エネ性能の向上が課されていくことになるだろう。
つまり、住宅の省エネ性能はこれから上がっていく。消費者としても、住宅の省エネ性能に注目する必要がある。
省エネ性能の見える化、「BELS」に着目
「ドイツではエネルギーパスの認証を得ることは、新築する上では義務となっています。住宅のエネルギー性能は数値化されて示されています」と中谷さんは話す。
日本においては、住宅のエネルギー消費性能を示す「BELS(ベルス)」という制度が、2016年4月から始められた。
これは省エネルギー性能を分かりやすく表示するもので、一次エネルギー消費性能に応じ「★」の数で表示するものだ。★の数は5つまであり、★が2つで省エネ基準に適合しているレベル。3つ以上だと、基準を上回る。さらに、基準から「○%削減」という削減率の表示も用いられる場合もある。【画像1】建築物の省エネ性能の表示例(出典/「住宅・ビル等の省エネ性能の表示について」)
同じように★の数で表示され家電業界で普及している「省エネルギーラベル」の住宅版と捉えると理解しやすいだろう。
2016年4月の制度開始から12月までの9カ月で、住宅でBELSを取得した件数は1万1465戸であったという。取得件数は増加傾向である。
中谷さんは「BELSについては始められたばかりの制度で、認証を取るのに手間がかかるので普及はこれからですが、建物の省エネ性能を確認できる仕組みができたのは良いことです」と話す。
新築だけでなく、既存住宅や賃貸住宅の省エネ化も
わが国では、こうした省エネ性能の高い住宅は新築時において対応されることがほとんどだ。
それに対して中谷さんは「ドイツにおいては高い省エネ性能が求められる新築住宅がつくられる一方で、リフォームによる省エネ化が約50万戸/年(2010年ごろのデータ)と、リフォームによる対応のほうが上回っています」と指摘する。ドイツに約4000万戸ある既存住宅について、高額の改修費用(約1000万~2000万円)をかけて省エネ改修するロードマップを作成し、全ての住宅の省エネ化を推し進めているのだという。【画像2】ドイツにおける住宅建物の建設費総額の推移(資料/日本エネルギー機関)
また、わが国において賃貸住宅では省エネ化によってコストアップすることから、事業者が省エネ性能向上に消極的であると言われている。
そこで、国は「賃貸住宅における省CO2促進モデル事業」によって省エネ性能の高い賃貸住宅に補助金を交付している。一定の断熱性能を満たし、かつ住宅の省エネ基準よりもCO2排出量が少ない賃貸住宅を新築または既築住宅を改修する場合に、追加的に必要となる給湯、空調、照明設備等の高効率化の費用の一部を補助する、というものだ。
中谷さんは「新築住宅だけでなく、既存住宅や賃貸住宅においても省エネ性能が高められることで、住宅全体の省CO2が実現できることになります。これからは省エネ性能に着目して、家づくり、家選びを行う必要があります」と話す。
私たち一人ひとりの地球温暖化対策への貢献という面はもちろんのことだが、住宅の省エネ性能の向上は、光熱費の抑制はもちろんのこと、家の中でのヒートショックを防ぎ健康寿命が向上するという研究結果もある。クルマ選び、家電選びで省エネ性能を気にするのが当たり前であるように、住宅選びにも省エネに着目するのが当たり前になってきた。●取材協力
中谷哲郎氏
株式会社日本エネルギー機関 代表
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