リノベオブザイヤー受賞の素敵リノベ実例[4] 商店街に現れる「アーケードハウス」
“その年を代表するリノベーション作品”を決める「リノベーション・オブ・ザ・イヤー」。『ひと気のない薄暗いアーケードにともされた、暮らしの明かりに衝撃を受けた』そんな審査員評を受けて、2016年度のリノベーション・オブ・ザ・イヤー(主催:一般社団法人リノベーション住宅推進協議会)の総合グランプリに輝いた福岡県行橋市のリノベーション物件「アーケードハウス」。単にデザインという視点だけでなく、リノベーションがこれからの時代に果たしていくべき役割を考えさせられる空間です。とりわけ地方都市の抱える問題にもヒントを与えてくれそうな今回のリノベーション物件に関して、さらに詳しくお話を聞いてみました。【連載】リノベオブザイヤー受賞の素敵リノベ実例
中古物件を現代のライフスタイル、好みのデザインや機能に合わせて改修する「リノベーション」。この連載では『リノベーション・オブ・ザ・イヤー2016』の受賞物件のなかから4つの実例を紹介。リノベーションに至るまでの背景、想い、こだわりポイントなどを施主のみなさんに取材してきました。リノベーションデータ
・築年:1979年10月
・構造:鉄骨造
・リノベーション面積:114.21m2
・施工期間:5カ月
・費用:1800万円(税込/外構工事や駐車場整備、物置制作等の費用も含む)
一貫してぶれなかった「アーケードを見下ろすLDK」のアイデア
「アーケードハウス」の設計を手がけたのは、北九州に拠点を置く株式会社タムタムデザインの田村晟一朗(たむら せいいちろう)さん。実は、田村さんのところに相談が来たときには、施主のご家族は既にこの商店街での暮らしを決めていました。大阪から地元の行橋市へ移住を考えたとき、ちょうどよい物件を探していたものの出会いがなかった。それならば「駅から近いし、利便性もいい」と、祖父母が商いをしている商店街の物件、その上の空き店舗での暮らしを選択したそうです。【画像1】どこか懐かしい商店街の雰囲気とモダンなリビングの対比も印象的(写真撮影/camekiti)
もともと入居していた学習塾が撤退してから5年。長く空き店舗のままだった物件に初めて足を踏み入れた瞬間から、田村さんのなかでは「アーケードに面した場所にリビングを置く」というアイデアが浮かんだそうです。施主も、「自分が育った商店街を見渡しながら暮らす」という斬新なアイデアを、最初から気に入ったのだとか。最終的な図面が決まるまでには、プラン全体はあれこれと変わっていきましたが、この「アーケードを見下ろすLDK」だけは、変わることなく一貫していました。【画像2】「アーケードハウス」の間取図のBeforeAfter(画像提供/タムタムデザイン)
もう一つの軸となったインナーバルコニー
今回の設計のなかで、もう一つの軸になっているのがインナーバルコニーです。当初は、新築当時の図面にあった天窓を活かすプランを提案していました。しかし、施主からの「洗濯ものを干したい」という要望から生まれてきたアイデアが、インナーバルコニー。
最初は、小さなスペースでしたが、最終的には6畳ほどの空間が確保されました。「光がとれない」「風が抜けない」といった空間の制約を解決できただけでなく、玄関から各居室までの全ての空間がゆるやかにつながるという間取りに。
おかげで「歯を磨いている」とか、「お風呂に入っている」といった、家族の存在をいつも何気に感じられる空間のコミュニケーションが生まれました。
難易度の高いリノベーションプランだけに、当初の想定予算を超える部分もでてきましたが、施主ご家族が最終的にはプランを納得。今では、インナーバルコニーのおかげで「家族の距離感がちょうどよい家になった」と感じているそうです。【画像3】玄関はもちろん、リビングや各居室もこのインナーリビングに面していることで商店街の2階であることを忘れさせるような明るい空間に(写真撮影/camekiti)
表層的なデザインだけでなく法令順守もカギに
施主のこだわりであるヘリンボーンの床材を使うなど、全体にモダンに仕上がっている空間ですが、表層的なデザインだけでなく、法令順守の部分も徹底したそうです。
商店街から住居へのリノベーション、また、100m2を超える空間だったので、用途変更の有無を含めたさまざまな順法確認を丁寧に行っていきました。リノベーションに対する不安要素を払拭していくためにも、法令をクリアするなど安心・安全を提供していく部分には、特に力を入れています。【画像4】解体してみないと実像が分からないのもリノベーションならでは。表層的な部分だけでなく、安全性も確保しながら工事を進めるのがカギ(画像提供/タムタムデザイン)
そんな「アーケードハウス」の暮らしで感じているメリットを施主さんにお聞きしてみると……
『雨の日に傘をささずに買い物に出かけられるし、夜でも真っ暗にはならないので防犯上も安心、さらに、飲食店にも徒歩で行ける……』などなど言葉が尽きません。もちろん、「歩行者天国なので、クルマを乗り入れるのに許可が必要になる」など、一般では想定できないようなルールを課せられる面もあるそうです。
商店街に暮らすのは斬新ではなく、むしろリバイバル発想
今回の受賞を機に、さまざまなインタビューで「商店街の2階に住むのは、これまでにない斬新な発想ですね」と、問いかけられたそうです。
しかし、田村さんは「歴史をひも解くと、もともと商店街は1階で商いをして、2階で生活するというのが常な場所だった。だから、基本に戻るというか、リバイバル的な発想でしょう」と語ります。むしろ、都心と郊外が商業エリアと住居エリアといったようにゾーニングされてきたのは、近代の手法。パリやニューヨークといった都市では、1〜2階に商店、中階にオフィス、そして上階に住居といった3次元的な職住隣接の都市計画が一般的です。「人が住むところは、商いも栄える」の考え方からすると、空き店舗に苦戦する地方の商店街の解決策にもつながりそうです。【画像5】行橋市では唯一の商店街。地方の商店街の例にもれずシャッター街となっているが、実は駅にも近く、アクセスが良いポテンシャルをもった立地(写真撮影/camekiti)
リノベーションのこれからの役割
今回施主が田村さんに依頼をしたのは、ホームページをご覧になったのがきっかけでした。施主のお母さまと偶然同じ「高知県出身」という共通点もあったとか。高知県の高校を卒業した田村さんは、設計士を目指して、関東や関西ではなくあえて北九州という地を選んだそうです。
リノベーションを中心とした設計のお仕事をする一方で、北九州の古い物件をシェアオフィスに改装して運営するなど、リノベーション発想の事業も手がけていらっしゃいます。受賞後には、北九州市の北橋健治市長を、田村さんが表敬訪問される機会もあったそうです。リノベーションスクール発祥の地でもある北九州は、もともと古い建物を利活用しようという土壌があるまち。行政側もそうした動きに感度が高いようです。
リノベーションを通して「目の前のお客さまを満足させながらも、その向こうにある社会のことも考えていきたい」と言う田村さん。今回のアーケードハウスをきっけかに、商店街をともす光がつながっていくのを楽しみにしているそうです。【画像6】リノベーション・オブ・ザ・イヤーの受賞は2度目となる田村さん。「成長する建築・空間」をテーマに掲げ社会の継続につながるデザインを手がけていきたいと語ります(写真撮影/アポロデザイン)●取材協力
・タムタムデザイン●「リノベオブザイヤー受賞の素敵リノベ実例」の記事
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・リノベオブザイヤー受賞の素敵リノベ実例[2] 「快適」「安心」で「省エネ」な家
・リノベオブザイヤー受賞の素敵リノベ実例[3] 「カフェ部屋ライフ」が送れる賃貸マンション
・リノベオブザイヤー受賞の素敵リノベ実例[4] 商店街に現れる「アーケードハウス」●リノベーション・オブ・ザ・イヤ2016ー受賞物件の記事
・とんかつ店をカフェと宿にリノベーションしてまちの“世代をつなぐ”●参考
・リノベーションスクールに関する記事
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