大事なことを「決められない」あなたへ。ドラッカーからのアドバイスとは?

12万部を超えるベストセラーシリーズとなった『プロフェッショナルサラリーマン』(プレジデント社、小学館文庫)。その著者である俣野成敏さんに、P・F・ドラッカーの名言を解説いただくコーナー。第6回の今回は、「意思決定に対する考え方」についてです。

【P・F・ドラッカーについて】

ピーター・F・ドラッカー(1909〜2005)は、オーストリア出身の著名な経営学者。激動のヨーロッパで古い価値観・社会が崩壊していくのを目撃。ユダヤ人の血を引いていたドラッカーはナチスの台頭に危険を感じて渡米、ニューヨーク大学の教授などを経て、執筆と教育、コンサルティング活動等に従事する。

ドラッカーが深い関心を寄せていたのは、社会において企業が果たす役割についてであり、生涯にわたって、組織内で人をよりよく活かす方法について研究、思考し続けた。「マネジメントの父」と呼ばれ、GE社のジャック・ウェルチ氏やP&G社のアラン・ラフリー氏など、ドラッカーを師と仰ぐ世界的な経営者は数多い。

f:id:k_kushida:20170403110403j:plain

こんにちは。俣野成敏です。

こちらは、著名な経営学者であるP・F・ドラッカー氏の言葉に「私なりの解釈を付けて読み解いていく」というこのコーナー。

世界中に支持者を持つ一方で、難解と言われることも多いドラッカー氏ですが、残された著書を紐解くことによって、長年にわたり世界的企業の第一線で指導を続けた氏の真髄に触れることができます。これを機会にぜひ氏に親しんでいただき、氏の英知をご自身の仕事に取り入れていただくきっかけとなりましたら幸いです。

本日は、下記名言解説の1回目となります。

【本日の名言】

「決定の準備は整った。しかし、決定の多くが行方不明になるのがここである。決定が愉快でなく、評判もよくなく、容易でないことが急に明らかになる。とうとうここで、決定には判断と同じくらい勇気が必要であることが明らかになる。薬は苦いとは限らないが、一般的に良薬は苦い」

(P・F・ドラッカー『経営者の条件』)

会社を取り巻く環境は、常に変化し続けています。たとえ今、「これは確実だ」と思っていることであっても、将来を約束されたものなどありません。それでも、我々ビジネスパーソンは判断し、行動し続けていかなければなりません。

あなたも、仕事をしていて「どうすべきだろうか?」と思い悩む場面があるのではないかと思います。そういう時に示唆を与えてくれるのが、本日ご紹介するこの名言です。

人は日々、「選択に迫られている」

仕事だけに限らず、通常、我々は生きていくに際し、常に何かを選んでいます。何かを選んでいるということは何かを選ばないという選択をしているということです。身近なものでいうなら「今日、夕食は何にしようか?」から「どのルートを通って家に帰ろうか?」といったことまで、すべては選択の連続です。

それは当然、仕事においても当てはまります。会社の資源が有限である以上、すべてを取ることはできません。会社が何かを「選択する」場合、判断のもととなるものが必要になります。

業務を遂行していくにあたり、会社は、

・どのプロジェクトを行うのが、会社にとって望ましいのか?

・考えられる手段にはどのようなものがあるのか?

・それぞれのメリット・デメリットは?

・決定を下すことによって得られるはずの効果は?

等々を推し量ります。

これが、ドラッカー氏の言う「決定するための準備」にあたります。

「決定の多くが行方不明になる」というのは、つまり「決定するだけでは足りない」ということを物語っています。名言の中の「薬」とは、「決定」のことを指しています。氏は同書の中で、「決定が苦くなければならないという必然性はないが、一般的に成果をあげる決定とは苦い」ものだと述べています。そのような苦味を伴った決定には、周囲の反対がつきものです。けれど反対を怖れていては、判断がブレてしまう可能性があります。

大きな決定をすることに、人はためらいを覚える

どんなに「良い決定をした」と思っても、全員一致で可決しようとも、その決定には、後で必ず予想外の問題が起きてくるものです。すると決まって社内には「だからあの時、やめておけば良かったんだ」という人が現れます。おそらくそういう人は、「自分はその決定とは関係ない」と言いたいのでしょう。

通常、人はその決定が重要であればあるほど、決めるのが怖くなります。ものごとをはっきりさせ、結果が出てしまったら、その結果を負わなければならないからです。

例えばあなたも、買い物をした後に、「これを買って本当に良かったのだろうか?」と不安になった経験はないでしょうか?この現象をマーケティング用語で「バイヤーズリモース」と言います。顧客が自分の下した決定(買い物)を後悔することです。高いと感じる買い物であればあるほど、その度合いは強くなります。

あんなに考え抜いて買ったはずなのに、家に帰って家族から「なんでこんな高い商品を買ってきたの?」と言われただけで、簡単に心変わりをしてしまうのが人間です。これが「決定が愉快でなく、評判もよくなく、容易ではない」理由です。

人が何か新しいことを始めようと思えば、不安に襲われます。それは、未来のことは誰にもわからないからです。バイヤーズリモースも、一般に顧客が「実際に商品を使う」ことによって、その商品の価値を実感できれば、たいていは収まると言われています。それが分かっているプロフェッショナルは、顧客が不安に襲われそうなタイミングを見計らい、何らかの対策をとって離客を防ぐことを定常業務に組み入れています。

仕事における「責任の意味」

f:id:k_kushida:20170403111405j:plain

そもそも、決定するのに勇気が必要な理由とは、その決定が必ず責任を伴うからです。負うことになる責任が大きければ、人は当然、躊躇します。

「仕事と責任の関係」については、こんな話があります。

あるところに、大手飲食チェーン店の直営店で副店長を長年務めている人がいました。実質、仕事は店長と変わらなかったため、その人は「これなら店長もできるのではないか」と思っていました。やがて、その人にはチャンスが訪れます。ある直営店をFC店に売却する際に、移行させる責任者として抜擢されました。当時、お店は状態がよくありませんでしたが、その人はFC部門のエリア長に助けを求め、協力をとりつけて無事、移行を完了させました。

その結果が認められ、副店長は晴れて直営店の店長に昇格しました。お店は中規模店舗でしたが、社員は店長一人で、赤字店でした。店長になってみて、その人は、仕事が今までとはまったく違うことに気がつきました。もう、そばで自分を指導してくれる店長もエリア長もいませんでした。やっていることは同じでも、責任がまったく違ったのです。たった一人で年商1億円の店を任されていることに気づき、その人は急に怖くなりました。

それでも、店長には逃げ場がありませんでした。前にはお客さまがいて、後ろにはアルバイトがいました。その人は、毎日朝から晩までお店にいて、必死に働きました。2年経って気がついてみると、赤字だったお店は黒字に転換していました。その人は優秀店長として表彰され、会社から無料でハワイ旅行に招待されました。その時になって、店長はようやく責任を負うことの意味を悟ったのです。

責任を負うというのは、確かに楽なことではありません。「もし、期待に応えられなかったら?」と思うと、怖気づくのは当然でしょう。しかし、その恐怖を乗り越えた先には、新しい世界が待っています。真にやりがいのある仕事とは、責任の大きさに比例するのです。

決定とは「行動するための第一歩」

今回の名言の主旨とは、「決定と決断は別物である」ということだと私は考えています。「決定」とは、ただ単に「以後はこうしましょう」と定めることです。それは確かに大事なことではありますが、決めただけでは何も変わりません。行動に移るためには、迷いを断ち切らなければなりません。つまり「決断」です。「これでいく」と決めた以上は退路を断ち、責任を引き受ける覚悟を持つことです。

もちろん、すべての決定が検討し尽くせるとは限りません。会社では時間的な制約や不十分な調査、資源不足などの状況でも決定を下していかなければならない局面は多々あります。そうかといって、いつまでも条件が整うのを待っていては、問題が先送りされるばかりです。

それに「決定の準備が整った段階」とは、むしろ不安要素が高まっている状態だと言うこともできます。普通は調べればその分、見たくない情報も集まってくることが多いからです。

刻一刻と移り変わってゆく市場の中で、ライバルに勝つためには、リスクを取って行動し、後は動きながらその都度、軌道修正をしていくことが大切です。いずれにせよ、行動するための第一歩が「決定する」ことなのです。

俣野成敏(またの・なるとし)

大学卒業後、シチズン時計(株)入社。リストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。31歳でアウトレット流通を社内起業。年商14億円企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン』(プレジデント社)と『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)のシリーズが共に12万部を超えるベストセラーに。近著では『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」』が11刷となっている。著作累計は34万部超。2012年に独立後は、ビジネスオーナーや投資家としての活動の傍ら、私塾『プロ研』を創設。マネースクール等を主宰する。メディア掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿している。『まぐまぐ大賞2016』で1位(MONEY VOICE賞)を受賞。一般社団法人日本IFP協会金融教育顧問。

俣野成敏 公式サイト

【関連記事】

→ 俣野 成敏氏の記事一覧

関連記事リンク(外部サイト)

なぜあの人とはうまく「会話」が成り立たないのか?ーー“4つの感覚タイプ”を知れば、コミュニケーションは円滑になる
なぜ、ドラッカーは「決定には勇気が必要」と言ったのか?
資格を取るための「参考書・問題集」の選び方・使い方とは?――「資格の大原」元講師が教える“合格勉強法”

  1. HOME
  2. 生活・趣味
  3. 大事なことを「決められない」あなたへ。ドラッカーからのアドバイスとは?

リクナビNEXTジャーナル

ビジネスパーソンのための、キャリアとビジネスのニュース・コラムサイト。 キャリア構築やスキルアップに役立つコンテンツを配信中!ビジネスパーソンの成長を応援します。

ウェブサイト: http://next.rikunabi.com/journal/

TwitterID: rikunabinext

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。