定年後に親と同居[5] その後【前編】「完全分離型」の二世帯住宅が理想
定年を機に妻と猫4匹を連れて東京のマンションから38年ぶりに実家にUターン。結婚して初めての同居で、親世帯との生活スタイルや価値観の違いに筆者(息子)と「嫁」のストレスは高まるばかり。(参考記事:定年後に親と同居[2] 38年ぶりに親と暮らすということ)
長い間離れて暮らしてきた高齢世帯が同居を始めるのは二世帯住宅であっても難しいと実感しつつ、「嫁」の立場から「完全分離型」二世帯住宅のメリットに注目します。
同居して1年、違いすぎる生活スタイルや価値観に疲弊
二世帯住宅のプランでは、玄関やトイレなど設備の一部を共用する「融合型」が一般的です。一方わずかですが、居住空間が世帯単位でまったく別々の「完全分離型」もあります。・参考記事:同居は「毎日会う」が約8割。近居は? 住まい方と会う頻度を調査(SUUMOジャーナル)
子世帯も親世帯もまだ若いうちなら、同居の経済的メリットも大きく、親子一緒に新しい生活スタイルをつくり上げていきやすいでしょう。しかし、長い間離れて暮らしてきた親子世帯がいざ同居となるとそうはいきません。その意味で、完全分離型の二世帯住宅は、生活スタイルが確立してしまった高齢二世帯で始める同居に適したプランだと思います。
わが家の場合、キッチンとトイレはそれぞれあるのですが玄関と階段、浴室、居間(和室)を共用する「融合型」で、食事は一緒にとるスタイル。実の親子で遠慮はいらないし、料理も同じなら経済的なので、それで十分うまくやっていけると思っていました。ところが、同居から1年たった今も新しい生活になじめず疲れ果てています。食事の仕方や料理の好み、洗濯や入浴の仕方、好きなテレビ番組、ペットの飼育や友人関係、部屋の温度の好みなど、親子といえども40年近く離れて暮らすとこうも違うのかと驚くほど、あらゆる生活シーンで、大切だと思うことや当り前だと思うこと、美しいと感じるものが違っているからです【図1参照】。【図1】異なる生活スタイルや価値観(筆者のケース)
特に、食事の仕方と料理の好みのギャップは大きく、3度の食事がしだいに苦痛になり、食事時間の融通が利かないこともあって私自身体調を崩してしまったほどです。他人から見ればささいなことかもしれませんが、自分たちが気持ちよく暮らせるよう長い年月をかけてつくり上げてきた生活のやり方を否定したり変えたりせざるをえない状況は、お互いにとって大きなストレスです。これに親子間、嫁姑間のコミュニケーションギャップが加わるので本当に大変です。
「嫁」には完全分離型が理想的
二世帯住宅で快適に同居するためには、親子で事前にしっかり話し合い、生活する上でのルールを決めておくことが大切だと言われます。ところが、90歳近い高齢の両親は、心身ともに柔軟性が低下して新しい物事を受け入れられにくくなっています。
例えばゴミの分別や省エネ、家事のやり方などについて、よかれと思って提案しても今までのやり方を変えてくれないことが少なくありません。やむなく、私たちが両親にできるだけ合わせることになります。
実の息子でさえイライラするほどですから、血縁も地縁もほとんどない土地にやってきた「嫁」が同居で感じるストレスは半端なものではありません。生活の仕方が突然大きく変わったうえ、決して嫁イビリではなくても姑とのちょっとした言葉の行き違いがたび重なれば、何かと遠慮しがちな「嫁」に被害者意識が芽生えたり、ある日突然心が折れたりしても仕方がないでしょう。
親と同居すると告げたとき、親孝行だと感心してくれたひとりの友人以外はみな、妻を褒めたり気遣ったりした理由がようやく分かりましたが、もはや後の祭りです。
よく「母(父母)の恩は山よりも高く海よりも深し」などと言います。しかし、血のつながった母はどんなことがあっても母のままですが、妻は大切にしないと「元妻」になるかもしれません。大学卒業まで育ててくれた父母の恩を忘れることは決してありませんが、子どもを産み育て40年間近く喜怒哀楽を共にしてきた妻が、自分の親との同居でつらい思いをしているわけですから、彼女の笑顔を取り戻すことが何より大事です。
親が要介護状態になって子世帯が日常的に見守る必要があるなら、生活空間の多くを共有する「融合型」のほうが何かとやりやすいでしょう。私も同居を決めるにあたり、近い将来の介護や看取りを想定したので今の住宅のままでよいと思っていました。しかし「嫁」の立場になってみれば、義理の父母との間に物理的・心理的な距離があってプライバシーが確保でき、自由度の高い「完全分離型」のほうがずっと暮らしやすいのは間違いありません。
「完全分離型」は「融合型」に比べれば、見守りや助け合い、交流が難しいといえますが、どれも日ごろの付き合い方やお互いの工夫により解決できるものです。悪質な勧誘や特殊詐欺も、留守電の設定や住戸間のホットライン設置、日ごろの連携で防げるはずです。今後は、身の周りのあらゆるモノがインターネットにつながる仕組み(IoT)を使った見守り技術の飛躍的進歩も期待できます。また、介護など日常的な助け合いに関していえば、「近居」に比べてずっとやりやすいのは確かです【図2参照】。【図2】二世帯住宅 完全分離型のメリットとデメリット(融合型との比較)(筆者作成)
後編では、いまさら「完全分離型」にリフォームできない筆者が編み出した、「融合型」の二世帯住宅で「嫁」も笑顔で暮らせるようになる工夫とともに、親を看取った後の二世帯住宅の活用方法も紹介します。・松村徹
長年、シンクタンクで不動産調査に携わるなか、業界の常識には顧客本位を貫く哲学や時代を先取りする意欲が欠けていると痛感。フリーな立場になって自らも両親と同居して「実家問題」に悩みながら、利用者目線から面白くて役に立つコラムや記事を発表している。共著に『不動産ビジネスはますます面白くなる』、『不動産力を磨く』、『猫を助ける仕事』ほか●「定年後に親と同居」関連記事
・定年後に親と同居[1] 毎日会社に行かない生活とは?
・定年後に親と同居[2] 38年ぶりに親と暮らすということ
・定年後に親と同居[3] リフォーム編【前編】高齢二世帯のリフォーム
・定年後に親と同居[4] リフォーム編【後編】相続の先まで考える
・定年後に親と同居[5] その後編【前編】「完全分離型」の二世帯住宅が理想
・定年後に親と同居[6] その後編【後編】「嫁」も笑顔で暮らせる工夫
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