宇宙特集:『Voyage of Time : Life’s Journey』Sophokles Tasioulis Interview

ボヤージュメイン画像

『シン・レッド・ライン』『ツリー・オブ・ライフ』で知られるアメリカ屈指の名監督テレンス・マリック。ハーバード大学で哲学を専攻し、主席で卒業した彼は、幼少時代から宇宙や生命の誕生について思いを馳せ、その物語を紡ぎたいと願っていた。何十年もの準備期間を経て、NASAをはじめとする宇宙機関の協力や最先端の視覚効果を駆使した作品『ボヤージュ・オブ・タイム』が完成。370億年前から未来に至るまでを驚異の映像で体験することができる傑作だ。監督を敬愛するブラッド・ピットが製作に携わり、ケイト・ブランシェットがナレーションを担当する大作のプロデューサーを務めたのは、ドキュメンタリー映画の最高峰『アース』『ディープ・ブルー』などを担ったソフォクレス・タシオリス。来日を果たした彼に、本作の制作プロセスを問うた。

——AIやゲノムなど科学が重要な段階に進んできていて、宇宙との距離も少しずつ縮まっていると思います。このタイミングで生命や地球などを見つめ直すことができたのは、個人的にとても素晴らしい体験でした。

ソフォクレス「私は宇宙工学を専攻していたので、そういう風に興味を持っていただけたのは嬉しいですね。私はテレンス・マリックの代わりとして話すことはできないから、今日は個人的な想いや技術的な面から話させてください。これは私にとっても非常に重要な作品です。私は『ディープ・ブルー』や『アース』というプロとして作ってきたものの先にある、ドキュメンタリーというバリアを壊し、超えて行く作品を作りたいと思っていました。もちろん『ディープ・ブルー』や『アース』はドキュメンタリーとして大変優れたものですが、伝統的な作り方をしているので、大画面で見ることで映画的な体験はできるけれど、その枠を超えない。それに対し、自然もののノウハウや知識、経験に加え、ヴィジョンや先見性のあるテレンス・マリックという映画作家のアート作品という側面も持っているのが今作のユニークなところです。時間軸が過去や未来にも飛んでいるので、より多くの映像が見られるという利点もあります」

——テレンス監督は、何十年も前から今作の直想を得ていたそうですね。

ソフォクレス「そう。彼は何年も前から作りたがっていて、最初の映像を収めたのはたしか1976年でした。その映像は実際に使われています。彼と奥さんは10代で知り合ったそうだが、その頃からずっと作りたいと言っていたそうなので、70年代以前から制作の歴史はあったわけです。監督にとっての挑戦は、見せたいものをどうやって大画面で見せるかでした。自然界にいるライオンやキリンの撮影は、難しいけれども可能です。しかし、ビッグバンや100億年前の過去をどうやって見せるのかは大きな挑戦でした。
70年代、80年代は、スタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』などのSFXで知られるダグラス・トランボンと組んでエフェクトを作りました。煙や爆発のメカニカルな映像を作ったのですが、エフェクトがデジタル化した後は『マトリックス』や『バッドマンビギンズ』でVFXを担当したダン・グラスが視覚を担うことになったのです。
これは私の個人的見解なのですが、監督は『ツリー・オブ・ライフ』で、VFXの効果を試してみたくて、そういう場面を作ったんじゃないでしょうか。観客のVFXへの反応も見ることができ、やり方を学ぶこともできるという思惑があったのかもしれないとあやしんでいます(笑)」

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——あの視覚体験を生み出すために、具体的にはどういう作業をしたのでしょう?

ソフォクレス「様々なファクターがあります。IMAXの映像を使ったというのもありますが、実際の映像をなるべく使うようにし、VFXでどう撮るかやその進化にも追いつかなければいけなかった。NASAやハップル宇宙望遠鏡など、宇宙機関との関係性も持たなければいけなかった。
映画を観ていたらまるでポエムのように感じられるかもしれませんが、全ての映像が科学的根拠に基づいて作られているのです。物理学、宇宙工学、生物学、分子学、粒子学など様々な分野の40人の科学者に映像を見てもらい、監督と話し、実物は撮れずとも科学的に正しい根拠に基づいているか映像を確認していきました。
科学は進化し続けるので、それに合わせて映像も作り続けることになります。そのため、私たちは頃合いを見てテレンスから映画を取り上げなくてはいけなかった。編集作業も終りかけのときに、重力波のニュースが出たときは焦りました。『この理論を取り入れ、あと1年はかけて作りたい』と言い出すのがわかっていたので、ニュースを見せないようにするのに必死でしたよ(笑)」

——ビッグバンを語るうえで重要な理論ですから、見つかっていたら確実に延期されていたでしょうね(笑)。NASAなどの協力もあり、素材が集まった過程はわかりましたが、とはいえ膨大な素材の中から、どのような素材を集めるか最初から決まっていたのか。または、監督の概念に基づくものを素材から選んでいったのか疑問です。

ソフォクレス「とても簡単なプロセスです。彼が綴った物語の中で、今作は一番決まった過程があるのですから。137億年前から始まって前に進むだけです(笑)。自然に与えられた歴史だからスクリプトはありません。ただそのタイムラインを追いかけるだけです。
どのような映像を撮るか、集めるかをテレンスがどのような視点で決めていたのかはわかりません。ただ、ポイントとなるのがどういう瞬間なのかに関しての会話はありました。監督にとって、全ての作品は愛と人間性を描いたものなんです。見せたかったのは、自然界にある愛です。宇宙の進化の中で生命が誕生します。最初は無意識の存在ですが、バクテリアの撮影のときに、『はじめての意志を感じさせる生命体であるということを感じさせる映像を撮ってください』と監督が言ったんです。これは作品の中でも重要なポイントとなっています。
それまでの地質学的な歴史や事件として、火山の噴火や地割れというのは入れなくてはいけない。そこから命が誕生し、命と命が手を組むことを覚え、意識が生まれます。水面に姿を映し、自意識が生まれるーーこういう重要なポイントとなる部分の話はしましたね。
素材でいえば、3000時間くらいの映像はあります。最初、私はとてつもなく長い作品になるのではないかとびくついていましたが、彼のいままでの作品の中で一番短い作品になりました。90分で3000時間の物語を描くことができたテレンスに尊敬の念を抱かざるをえません」

——物語の中には、母と子がキーワードとして出てきますが、具体的にそれが地球とも宇宙とも、大地とも、誰とは描かれていませんね。

ソフォクレス「見た方の解釈に任せたいので、わざと描いていません。これはパーソナルな作品でもあります。自分が信じるものを信じ、自分の解釈をもって観ていただきたい。映画はなにか説教したり、学ぶような場ではないと思っています。心に触れる感動するーーそれこそが映画であり、そこから思いを馳せることが重要です。
私個人としては、この作品に関われたことでとても謙虚な気持ちになりました。全てのものがどう繋がっているのかを見せられたように思います。宇宙の歴史の中で人間なんて瞬きの間に過ぎてしまう存在です。観客の方々が、今作でインスピレーションを得て、もっと世界と繋がろうと思っていただけたり、地球に恋してもらうことができたら嬉しいですね。恋をすれば、心から思いやることができるでしょうから」

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ソフォクレス・タシオリスSophokles Tasioulis

ドイツ、ベルリンをその拠点とする国際映画プロデューサー。ベルリン工科大学(TU Berlin)で宇宙工学を専攻する傍ら、BILDO Academy Berlinにおいてメディアデザインとメディアアートを学ぶ。修了後、様々な放送局、映画作成会社にて勤務(Arte誌、BBC社、CanaPlus社、ZFD社など)。1991年にTHE SA Film社およびFernseh produktion社を起ち上げ。1998年、Hope&Glory社を創設。2002年以降はGreenlight‘s Production Departmentにおいて、ドイツ国内プロダクションおよび国際共同プロダクションのパートナーらとともに、様々なプロジェクトの開発、ファイナンス、プロデュースを手掛けた。2005年、自らのプロダクション会社であるSophisticated Films社を創設し、現在に至るまで同社をその活動拠点としている。  
2011年、Red Bull Media House社の子会社であるTerra Mater Factual Studios社に活動の場を与えられ、Red Bull Media House本社(RBMH)に異動するまでの間、そこで映画部門のヘッドとして勤務することとなる。RBMHは2012年には業界をリードする法人へと一気に駆け上がっている。そのRBMHにおいて、タシオリスは開発、プロダクションのみならず同社のハウスタイトルを冠するすべての作品に関する配給全般責任者となり、Red Bull社の世界的なシネマビジネス全般を監督する立場となる。
2014年初頭から、タシオリスは自身のプロダクション会社の活動全般に再び専念することとし、結果、この『ヴォヤージュ・オブ・タイム』のメインプロデューサーの一人となり、IMAXやWild Bunchといった国際パートナーとの関係構築に努めることとなる。
数多くのドキュメンタリー作品にプロデューサーまたは共同プロデューサーとして携わってきたが、そのうち特筆すべき作品キャリアとしては『チアリーダー・ストーリー』(2001年)、『ディープ・ブルー』(2004年)、『アース』(2007年)のほか、『Shoes of America(原題)』(2000年)、『The Great Match原題)』(2006年)やアニメーション作品として『Quest for a Heat原題)』(2007年)、『A man among Wolves原題)』(2010年)などがある。
 その作品は、ディズニー、ミラマックス、ライオンズゲート、ゴーモン、GAGA、スタジオ・カナルのほか世界中の多くの主要配信会社によってリリースされている。タシオリスは、上映向けドキュメンタリー映画作品における興行収入売上トップ10のうち、常にその1位と2位を守り抜いており、大規模かつイベントタイプ的なドキュメンタリー制作のエキスパートである。現在、国際的性質を持つ作品の制作、野生動物をテーマにした上映用ドキュメンタリー作品制作に傾注している。

interview&text&edit Ryoko Kuwahara

『ボヤージュ・オブ・タイム』
3月10日(金) TOHOシネマズ シャンテほか 全国ロードショー
監督:テレンス・マリック『ツリー・オブ・ライフ』『シン・レッド・ライン』 語り:ケイト・ブランシェット『キャロル』
製作:ブラッド・ピット、ジャック・ペラン
原題Voyage of Time :Life’s Journey/2016年/フランス・ドイツ・アメリカ映画/90分/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/字幕翻訳:松浦美奈 配給:ギャガ  
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