人口減少はなぜ「マズイ」のか?(前編)――人口減少の原因とは
ビジネスパーソンとして知っておきたい、ニュースの「なぜ」について詳しく解説するこのコーナー。通信社記者などを経て、現在はライターとして子ども向けの新聞などで、ニュースをわかりやすく説明している大井明子さんに、解説してもらいます。
第1回は「日本の人口減少」について。「働き方改革」などにも絡んで昨今ニュースなどによく取り上げられていますが、この問題の基本である「そもそも人口減少はマズイことなのか?何がマズイのか?」について、理解を深めていきましょう。ニュースはもちろん、ビジネス文書などでもよく、「日本は少子高齢化で市場拡大が見込めない」といったフレーズを目にします。簡単に言うと、「子どもが生まれず、高齢者が増え、人口が減っている」ということ。なぜなのでしょうか?まずは日本の人口の現状を見ていきます。
人口のピークは2008年、今後も減少する
2015年に行われた、最新の国勢調査によると、日本の人口は約1億2709万人でした。国勢調査とは5年に1度、日本に住むすべての人を対象に行う調査ですが、前回の2010年の調査に比べ、約96万人減少していました。1920年の調査開始以来、初めてのことです。
総務省の推計によると、日本の人口は2008年にピークの約1億2810万人を迎えていて、そこから減少しています。今年2017年1月1日現在の概算値では、約1億2686万人。ピークから約124万人減っています。
人口減少のスピードは、さらに加速するとみられています。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、43年後の2048年には1億人を割って9913万人となり、2060年には8674万人になると予測されています。さらに同研究所が参考値として出した推計では、2110年には4286万人と、現在の約3分の1になるとされています。
「100年で人口が3分の1になる」というのは衝撃的です。私たちが、「人口3分の1の日本」の姿を見ることはないでしょうが、子どもや孫の世代と考えると、そう遠くもありません。
■日本の人口の推移と見通し資料:総務省統計局「日本の統計2016」(2015年まで)、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(平成24年1月推計)(2020年以降)
注:1940年の総人口は、国勢調査による人口73,114,308から海外にいる軍人・軍属の推計数1,181,000を差し引いた補正人口。1945年の総人口は、11月1日現在の人口調査による人口71,998,104に軍人・軍属及び外国人の推計人口149,000を加えた補正人口。
世界の人口は増えてはいるが「少子高齢化」の兆しも
一方、世界の人口は増えています。国連人口基金によると、世界の人口は現在約73億人で、2056年には100億人を超えると予測されています。それに比べると、日本の人口がこれほど減少しているのは、特異なことのように思えますが、そうではありません。
「世界の人口が増加している」といっても、世界中まんべんなく増えているわけではなく、アフリカの国々やインドなどが増えている一方で、ヨーロッパでは人口が減少に転じている国も出てきています。
また、現在人口が増加しているアフリカを含め、世界のほとんどの国で、出生率は下がり始めています。例えば世界全体の出生率は、1990~1995年は3.04でしたが、2010~2015年は2.51に下がっています。このため、人口の増加は鈍化しています。国連人口部では、今後さらに出生率は下がり、人口増加は緩やかになると同時に、高齢化も進むとみています。60歳以上の人口は、2050年までに今の2倍になり、2100年までには3倍になると推計しています。人口増加の影には、「少子高齢化」が潜んでいるといえます。
必ずしも日本だけが変わった傾向を見せているのではないのです。2010~2015年の日本の出生率は1.40と、世界で12番目に低い値でしたが、同じ期間のシンガポールの出生率は1.23、韓国は1.26です。シンガポールも韓国も、少子高齢化が進んでいて、今後人口の減少が予測されています。
■世界の人口の推移と見通し資料:国連人口部「世界人口推計2015」
World Population Prospects – Population Division – United Nations
日本の少子化は40年以上も前から
もう一度視点を日本に戻しましょう。人口というのは、通常は突然増えたり減ったりするものではありません。戦争や伝染病、海外への移民などは減少につながりますし、移民が増えれば増加します。ただ、日本の現状を考えると、こうしたことは、すぐに起こりそうにはありません。
すると人口は、今いる人が1年に1つずつ年を取っていき、病気や事故などの理由で亡くなり、今いる女性が子どもを産む、といった組み合わせによって増減することになります。つまり、ある程度は将来の予測がつくものなのです。
人口の増減の一番の指標となるのが、出生率です。
一般的に出生率と呼ばれているのは、正式には「合計特殊出生率」で、1人の女性が一生のうちで産む子どもの人数の平均を指します。日本の場合は、戦争が終わって平和になり、たくさんの人が結婚して子どもを持った「第一次ベビーブーム」と呼ばれる1947~1949年には4.3を超えていました。1組の夫婦に子どもが4人以上いることが当たり前だった時代です。
しかしこれが、1950年以降急激に低下。ほぼ2.1前後で推移していました。1組の夫婦に子どもが2人前後です。現状の人口をギリギリ維持できるレベルとされています。
しかし出生率は、1975年に2.0を切り、1.91になります。2人の人間(夫婦)に1人の子どもしかいないのであれば、子ども世代には親世代より1人減少することになります。この時点で既に、少子高齢化、人口減少の兆しが生まれていたのです。
■合計特殊出生率の推移資料:厚生労働省「人口動態統計」
40年前は「人口が多すぎる」のが問題に
しかし、この頃はまだ、人口は減少しておらず、増加しています。人びとが豊かになり、医療技術も進歩し、病気などで死ぬ人が減ったため、平均寿命も延びました。1950年の平均寿命は、男性58.0歳、女性61.5歳でしたが、1980年にはこれが、男性73.35歳、女性78.76歳になりました。30年間で、男性は15.35年、女性は17.26年も長生きするようになったのです。
「出生率が下がる一方で平均寿命が延びた」ということは、子どもはそれほど増えていない一方、高齢者がぐんと増えて、全体の人口を押し上げていたのです。
ただ、1970年代は「増えすぎる人口をどうするか」という議論の方が活発でした。将来の人口減少を心配する声はほとんど聞かれなかったのです。厚生省(現在の厚生労働省)の諮問機関である人口問題審議会は、1974年に出した「人口白書」で、人口抑制が必要だと主張していたほどです。
当時はニュースなどでも、「人口が増えすぎて、石油などの資源が足りなくなる」「食糧不足になる」という話が取り上げられ、「子どもが多いのはよくない」「子どもは2人が理想的」といった風潮が作られました。
1950年代に下がり始めた出生率は、その後も下がり続け、2005年には過去最低の1.26まで落ち込みました。最近は少し持ち直していますが、2015年時点で1.46と、世界的にみてもかなり低い水準です。
厚生労働省が2016年12月に発表した人口動態統計の年間推計によると、2016年の出生数は98万1000人と、初めて100万人を割りました。1974年の出生数202万9989人の半分以下です。そもそも出産の中心となる15~49歳の人口が減っているので、出生率が多少上がったくらいでは人口は増えないのです。
女性の社会進出、長時間労働…少子化の原因はたくさんあり複雑
なぜ日本でこれほど急激に少子化が進んだのでしょうか?
さきほど、世界で見ても出生率は下がり始めていて、少子化の傾向が出てきていると述べました。経済的に豊かになると、子どもは減る傾向にあるようで、それは日本に限ったことではありません。
少子化の理由は複数あり、それらが絡み合っています。まず挙げられるのが、女性の社会進出です。働いて収入を得る女性が増えた一方で、仕事と、家事や子育ての両立が難しく、結婚をしない、子どもを持たないという選択をする人も増えました。日本はほかの先進国に比べても労働時間が非常に長く、男女で家事や子育てを分担することが難しいことも背景にあるという指摘もあります。
経済的な理由も挙がっています。国立社会保障・人口問題研究所の夫婦調査(2010年)によると、希望する人数の子どもを持たない理由として、最も多かったのが「教育や子育てにお金がかかりすぎること」でした。
経済的な理由は、未婚率が上がっていることの理由になっているともみられています。派遣やアルバイトなどの「非正規雇用」の人が増えていて、それは収入の不安定さ、低さにつながっています。「お金がなくて結婚できない」と考える人も多いようです。
結婚の件数は、年によって上下はしていますが、最近は低下しています。2016年は約62万1000件と、戦後最低となる見込みです。50歳時点で結婚した経験がない人の割合を示す「生涯未婚率」をみると、1980年には男性が2.60%、女性が4.45%でしたが、2010年になると男性が20.14%、女性が10.61%と、特に男性で顕著に伸びています。
東京などの大都市に人口が集中していることも、少子化の理由の一つに挙げられます。日本は特に、他国に比べても都市部への人口集中が顕著で、首都圏に人口の約3分の1が集中しています。地下鉄などの交通網が発達していたり、さまざまな店舗があったりと便利な反面、子育ての環境としては、理想的とは言えません。保育園が足りず待機児童が問題になったり、家賃や物価が高かったりと、子育てにお金がかかる傾向もあります。
必ずしも子育て環境の善し悪しだけが理由ではありませんが、厚生労働省が発表した都道府県別の出生率を見ても、地方より大都市圏の方が低い傾向がはっきり出ています。2015年のデータを見ると、一番低いのは東京都の1.17で、一番高い沖縄県の1.94とは0.77の開きがあります。
<人口減少はなぜ「マズイ」のか?(後編)――「人口減少問題」の本当の“問題”とは>はこちら
大井明子(おおい・あきこ)
ワシントン大学卒業後、時事通信社に入社し、記者として警察、経済などを担当。再びの留学を決意し、米国コロンビア大学国際公共政策大学院を卒業。大手家電メーカーなどを経てライターとして独立。
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