『リフォームの爆発』著者・町田康にとってのリフォームとは?
ミュージシャンを経て、現在、作家として活躍している町田康さんが、今年3月に上梓した『リフォームの爆発』。現在、ご自身が暮らす熱海の自宅リフォームを題材に、リフォームで起きる悲喜こもごもを作品としてまとめたものだ。では、そのリフォームのおもしろさ、真髄とは。町田さんの視点で語ってもらった。
築30年以上の日本家屋での暮らし。リフォームネタには事欠かない?
町田康さんが現在暮らしているのは、熱海にある日本家屋。購入時に築30年以上経過し、ボロボロだったというのを、リフォームして暮らしはじめ、今年で10年が経過した。購入時は廃屋のようだったといい、近所の人は「住めるの?」「建て替えなくていいの?」とうわさしていたほどだったとか。だが、工務店にみてもらうと構造・躯体はしっかりしており、水まわりや床や壁などをリフォームして、生活をはじめた。ではそもそも、なぜ中古の一戸建てを購入してリフォームという選択肢だったのだろうか。
「もともと、私も妻も住まいは中古を買う主義」と町田さん。「古いものを買って、手入れしていいようにして住むのが好き」というのがその理由で、新築には価格が高いだけでメリットはひとつもないとバッサリ。
熱海に引越す前は都心の六本木のマンションで暮らしていた町田さん。当時飼っていた猫が増えたこと、またその中にウィルス性疾患を患っていた猫がいて部屋を分ける必要があったこと、モノが増えたことなどから、たくさんの部屋数がある建物を探したら、必然的に地方の一戸建てに行き着いたそう。【画像1】現在は熱海で暮らす町田さん。日本家屋と猫の相性は最悪と苦笑いする(写真撮影/林 和也)
日本家屋と猫というと、見た目にも風情がありそうだが、「相性は最悪です(笑)。特に障子やふすま。障子を見るとにやっとしながら、一瞬でビリビリにしますから」。現在は犬4匹、猫7匹が町田夫妻とともに暮らしている。それに、動物がいなくとも、築年が経過した建物だけに、メンテナンスネタにはことかかない。
「先日も屋根から草が生えてきて。2年位前にも同様に生えていたので一度、自分で刈り取ったんですが、出入りの植木屋さんに聞いてみたところ、“あれをそのままにしたらマズイ”ということで、工務店に見てもらいました。そしたら、瓦を一度、剥がして、根を取り除かないといけないという話になりまして……。まあ、リフォームまでいかなくとも、こうした手入れ・メンテナンスの話はしょっちゅうです」と苦笑いするが、家はメンテナンスフリーではなく、何年か住んでいると生活に合わないところや直すべきところが出てくるのは当たり前と、住まいのメンテナンスについてきちんと向き合っている町田さんの姿が伝わってくる。
リフォームの向こうに、人生が見える
そもそも、町田さんの作品のなかで、住まいに関する内容が登場したのは、『餓鬼道巡行』(幻冬舎)のこと。食をテーマにした作品だったが、あまりにも住まいについての内容が多いことから、編集者や読者から「リフォームの続きが知りたい」とリフォームについての作品を書くことになったという。リフォームを題材とするうえで、留意した点などはあるのだろうか。
「人は不満・不具合を感じると、我慢をしてなかったことにするか、なんとかして解消するかに分かれます。その不具合の解消がリフォームであると。しかし、リフォームには金もかかりますし、人生のなかで何回もあるプロジェクトではありません。世の中にはリフォームについての有益な情報もたくさんはありますが、どうも自分の知りたい情報、実際どうなのということが、あまり書かれていない気がしたんです。職人さんへのお茶出しのタイミングとかね。現実世界って、こういう小さなことの積み重ねなんですよ。結論のでない話というか、そこを書きたかった」と話す。【画像2】無造作に本が置かれた一角。最近の著書は自身の住まいでの経験したリフォームとその人間模様を描いた「リフォームの爆発」、最新作『ギケイキ:千年の流転』がある(写真撮影/林 和也)
作品では、町田さんがここ数年の間に経験してきたリフォームをベースに、独自の目線でリフォームについて言及していく。「永久リフォーム論(※不具合を解消しようとしてリフォームしたものの、さらにおかしなことになってしまい、またリフォームをせざるを得ない、どつぼにはまった状態)」「ダイニング・キッチンが暗くて寒い問題」「リフォーム中、施主はどうしたらいいのか」「よい工務店の選び方」「壁紙はなぜあの白いビニールクロスばかりなのか」などなどのリフォームにまつわる諸問題(?)が、町田節で展開していく。
「原稿でもよくありますよね、良くしようとして赤字を入れたものの、なんかおかしなことになってしまい、アレ、最初のが結局いちばん良かったなあって思うこと。それがリフォームの『永久リフォーム論』です」と笑う。一方で、リフォームをすることで、人間の心持ちが明るくなるとも描かれている。
「人間は割と単純にできていて、やっぱりまわりの環境にすごく作用される。音やにおい、光、風通しとか、室内が明るいと明るい気持ちになるし、風通しがいいと気持ちがいいんですよ。自分が比較的快適じゃない家にばかり住んできたので、これは実感がありますね」
一方で、住環境に100%はない、ともいう。
「住まいは、人と同じで必ず一長一短がある。どこかが良ければ、必ずダメなところがある。狭い家に暮らしていても、希望に満ちた人もいれば、豪邸に暮らしていてもなんか不満、という人もいるでしょう。ストレスも程度の問題といえますが、マイナスは極力少ないほうがいいし、ゼロ、できたらプラスでいたいですよね」
めんどくさいと思いつつも、どこかで不満を解決しなくちゃと思う。しかも、試行錯誤で不具合を解消したはずが、また違う不具合に突き当たり、右往左往する。町田さんの描くリフォームは、まるで人が生きること、そのものが凝縮しているようだった。●取材協力
町田康
1962年大阪生まれ。町田町蔵の名前で歌手活動をはじめ、1981年にレコードデビュー。1996年、初の小説『くっすん大黒』を発表、2000年に『きれぎれ』で芥川賞、詩集『土間の四十八滝』で萩原朔太郎賞受賞。ほかに、猫との暮らしを描いた『猫にかまけて』、リフォームに至る状況を描いた『餓鬼道巡行』などがある。●参考
・『リフォームの爆発』/幻冬舎
・新しい住まいのカタチ[6] 町田康さん〜二地域居住〜
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