小島慶子さんに聞いた オーストラリアと日本の二拠点生活[後編]

小島慶子さんに聞いた オーストラリアと日本の二拠点生活[後編]

オーストラリアの都市パースを家族の生活の拠点に選び、仕事がある東京と3週間ごとに往復するという”二拠点生活“を送る小島さん。最終回である【後編】では、お子さんの教育のためにオーストラリアを選んだ理由や、今後の”拠点“についての展望を語ってもらった。(これまでの記事はこちら/前編・中編)

オーストラリアの教育は、子どもたちにピッタリだった

――オーストラリアにはいつまで住む予定ですか?

とりあえず次男が高校を出るまで居ようと思っています。大学に進学すれば一人暮らしできるでしょうから、私たち夫婦はそのときにまた考えようと。今、小学5年生の次男が大学に入るまでだから、あと7年はオーストラリアですね。それまでの間にどこかに移ることは考えていません。オーストラリアの教育が、息子たちにとても合っているからです。今、通っている学校は二人とも公立なんですが、日本にいたときよりも熱心に勉強するようになりました。成績を見て、「君ら意外と勉強できたんだな」って驚いているほど。オーストラリアには、世界の大学ランキングにランクインするような大学がいくつもあり、パースにもノーベル賞受賞者を輩出した国立大学があります。今、中学2年生の長男は、そうした大学をいくつか調べて「行きたいところがある」と言い始めました。今のところは、日本の大学に行くことは考えていないようです。

――そもそもオーストラリアを選んだ一番大きな理由が、お子さんの教育でしたね

夫が仕事を辞めて、予期せず “大黒柱”になっちゃった以上、どうせお金を稼ぐんだったら、いい使い方をしたいじゃないですか。そこで試算してみたんです。東京23区内に住んで、のびのびしたタイプの息子たちの個性を伸ばしてくれるような私立の学校に入れた場合にかかる費用を。そうすると、まあこの時代ですから、夏冬の語学研修プログラム、プライベートの英語のレッスン代、部活の費用とかもかかる。それから、「やっぱり大学受験したい」ってなったときの予備校の費用とか、「やっぱり僕、留学しようかな」ってなったときの留学代。そういったもろもろの教育費に加えて、「もうちょっと広いところに引越そう」となったときの家賃の増額分…。それらを概算で出してみたら、「こ、こんなに稼がねばならないのか!」と衝撃を受けて。「こんなに稼がなきゃならないんだったら、もう少しいい使い方あるんじゃないの?」と、東京以外で教育する選択肢を考え始めました。

――で、オーストラリアになったと

最初は、地方のインターナショナルスクールに入れることなども考えたんですけど、いろいろ突き詰めていくうちに、次第に「英語教育」の部分がクローズアップされてきたんです。日本国内で働くにしても国外で働くにしても、これからは英語ができないといけない。そうすると英語にはどっちみち投資しないといけないことになる。「だったら、周りの人が英語をしゃべってるところに住んだ方が早いんじゃないの?」となって。そこで「じゃあ、私の生まれたオーストラリアなんかいいんじゃ?」というのが急浮上して。留学のサイトで見てみると、我が家の教育方針や子どものタイプに合っているのはオーストラリアかカナダだったので、その2つに絞りました。

“学歴”や“就職”を手放す決心がついた

――どういうところが、小島家の教育方針とお子さんのタイプに合っていたんですか?

まず第一に、小中高とのんびり育って、大学では一生懸命勉強するというスタイルであること。次に、社会の中に、ブルーカラーとホワイトカラーのそれぞれに“場所”があって、同じようにリスペクトされていて、同じように生計を立てることができること。しかも、キャリアパスがひとつだけではなくて、転職を繰り返したり、大人になってから大学であらためて勉強し直して違う職に就いたりしている人もいたりと、多様性があること。加えて人種や家族の在り方も多様だったりと、多様性に寛容な社会である点が良いと思いました。オーストラリアとカナダがそうでした。ただ、カナダに親子留学していた友人に聞いたら、「冬は氷点下20度になる」と。「私、そんな寒いとこ住めません!」ということで、やっぱり自分が生まれたオーストラリアのパースに行くのが自然だねとなりまして。調べてみたところ、パースでの生活は、贅沢さえしなければ、1年間東京で暮らすのにかかるだろうと思っていた金額でなんとか成り立つことが分かりました。それで、「いっちょ行ってみるか」となり、引越しが決まりました。

――思い切った決断ですよね

そうです。大きなリスクもとりました。子どもたちは、日本では誰も知らない学校に通い、日本の人が聞いたこともない企業に就職することになるでしょう。でも子どもたちは、世界のどこかで生きていければそれでいいんです。だから、日本社会で馴染みのある学歴や有名企業への就職は手放すことに決めました。【画像1】オーストラリアへの引越しを考えた際、二拠点生活にかかる費用をあらかじめ試算した小島さん。3週間ごとの行き来にかかる航空運賃も、その中から捻出できることを確認したという。「座席はエコノミークラスです。地道にためたマイレージで、たまにアップグレードもできるし」。ここにも「贅沢をしない」という二拠点生活の方針が表れていた(写真撮影/八木虎造)

【画像1】オーストラリアへの引越しを考えた際、二拠点生活にかかる費用をあらかじめ試算した小島さん。3週間ごとの行き来にかかる航空運賃も、その中から捻出できることを確認したという。「座席はエコノミークラスです。地道にためたマイレージで、たまにアップグレードもできるし」。ここにも「贅沢をしない」という二拠点生活の方針が表れていた(写真撮影/八木虎造)

多様性を感じることのできる感性を育みたかった

――日本での学歴や就職よりも重視したのは何だったのでしょうか?

まず第一に、この先、日本が若者を養いきれるかどうか分かりません。日本企業に勤めたとしても外資系企業に買収されるかもしれない。そして、世界の人口比率と成長率から言うと、日本人は早晩、中国系、インド系、東南アジア系…いろいろな人種や民族の人たちと一緒に職場で働くことになるであろうと。すると、必然的に英語は必要になります。それに、日本で職が見つかりにくいから、成長著しい東南アジアのどこかで働こうってなったときにも英語は必要。私自身、オーストラリアで生まれて、シンガポール、香港と、多様性のある社会の中で、いろいろな人種の人がいるのが当たり前だと思っていたので、「日本人なんて、1億3000万人しかいないんだから、どう頑張ったって人数的には世界のマイノリティーなんだ」っていう感覚です。だから、いろいろな人が集まっている中で、人から信用されたり、誰かと協力し合って仕事をしたり、あるいは誰かと競争したりっていうことができるようになればいい。

――多様性のある社会で生きていけるようにと考えたんですね

そのために基本的な能力は、「英語」と「算数」と「手に職」だというふうに考えています。この3つを組み合わせれば、その組み合わせによって世界のどこかでは食べていけると思って。加えて、「自分がいくらあれば幸せになる人間なのか」「どんな生活が自分にとって幸せなのか」ということを自分で決められる人になれるといい。そういった諸々を勘案すると、「人生のレールとは、こうであるべき」とひとつだけレールが敷かれている社会よりは、いろいろな年齢の、いろいろなバックグラウンドの人がいろんなチャレンジができるチャンスをもっている社会に居るほうが、今言ったような条件を満たす教育ができるのではないかと考えたんです。【画像2】パースは海沿いの街。自宅から車で5分ほど走れば、海に着くという。「近所の浜で、息子たちと夕日を眺めることもあるんですよ」(写真提供/小島慶子さん)

【画像2】パースは海沿いの街。自宅から車で5分ほど走れば、海に着くという。「近所の浜で、息子たちと夕日を眺めることもあるんですよ」(写真提供/小島慶子さん)

人生、何が起こるか分からないから、あまり先の計画は立てない

――確かに、そういった点では、日本はまだまだかもしれません

ただ、「日本はダメだ」という言い方にはちょっと違和感があって。日本人は、お互い見た目も似ているし、子どもから大人までどんな職業の人でも日本語が不自由なく話せる社会で暮らしているので、つい「私たちは同じだ」って思いがちで、多様性に鈍感になりがち。でも実は、経済格差が広がっていたり、自分とは全然違う興味関心を持った人たちがいくらでもいて、極めて多様性に富んでいるわけです。ただ、社会の制度がその多様性に対応するようにはできていない。そのせいで「人と違うことなんて、あってはならないことだ」と息苦しい思いをしている人が多いという現実がある。その現実に気付くセンスを身に付けることが必要ですよね。そうした感性を養うことは、本来、日本国内にいてもできるはずです。ただ、話している言葉や目の色、宗教、食生活が明らかに自分とは違うという人が目の前にいれば、非言語のレベルで「私たちは違う」ということが分かる。分かりやすさで言ったら、多文化社会のほうが圧倒的に”多様性“が分かりやすいという理由で私たちは引越しましたが、決して日本ではそれができないとは思いません。

――お子さんたちの大学進学後、ご夫婦はどこに住む予定ですか?

まったく見通しがつかないので、そのときになったら考えます。夫は、非英語圏からオーストラリアに来ている大人たちを集めた英語学校に通い始めてから、英語力が飛躍的に伸びたんです。あと2年くらい勉強すると、仕事に就けるレベルになると思います。オーストラリアでは、50代で新しい仕事を始める人もいるので、彼も新たに仕事を始めるかもしれない。実は私も、「家賃くらい出してくれるとラクになるわー」と期待していたりもします(笑)。最後の最後、「体もしんどいし、引越しはもういいかな」と思ったときに、夫と二人で暮らせる小さな物件が買える程度の蓄えはしておこうとは思いますけどね。“終の棲家”は、日本かもしれないし、マレーシアとかベトナムかもしれない。ただ、夫が予告なく私に仕事を辞めると言い出した時点で、それからはもう将来計画を立てるのはやめました。人生、先に何が起こるかまだまだ分かりませんからね(笑)。【画像3】「夫の英語が上達したので、そのうち私が一家で一番英語ができない人になると思います」と言いつつ、言葉のはしばしに出てくる英単語の発音はとてもクリアで美しい小島さん。オーストラリア、シンガポール、香港と、幼少期を海外で過ごした帰国子女らしい一面をのぞくことができた(写真撮影/八木虎造)

【画像3】「夫の英語が上達したので、そのうち私が一家で一番英語ができない人になると思います」と言いつつ、言葉のはしばしに出てくる英単語の発音はとてもクリアで美しい小島さん。オーストラリア、シンガポール、香港と、幼少期を海外で過ごした帰国子女らしい一面をのぞくことができた(写真撮影/八木虎造)

インタビュー中、絶妙なたとえやリアルな物まねで、5分に1度の頻度で私たちを爆笑させてくれた小島さん。「これがプロのラジオパーソナリティーの“しゃべり”なのか!」と、取材後もスタッフ一同、うなりっぱなしだった。可能であれば7年後、ご次男が大学に進学してから、あらためて小島さんにお話を聞いてみたい。そのとき、小島さん夫妻は果たしてどんな選択をしているのだろうか。●参考

・小島慶子オフィシャルブログ

・小島慶子Twitterアカウント
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