町中華探検隊・北尾トロ隊長に聞く「ステキな町中華と出会う方法」【2016年隠れグルメ流行語】

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▲左が北尾トロ、右が僕、下関マグロ。僕が着ているTシャツは版元が販促用に作ってくれたTシャツ

これぞ町中華!「中華丸長」

2016年の8月『町中華とはなんだ』という本が出版された。共著で、僕・下関マグロ、そしてライターの北尾トロ、編集者の竜超(りゅう・すすむ)と3人で書いた本だ。 町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう (立東舎)

町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう (立東舎) 作者: 町中華探検隊,北尾トロ,下関マグロ,竜?超,清野とおる 出版社/メーカー: リットーミュージック 発売日: 2016/08/19 メディア: 単行本(ソフトカバー)

とはいえ執筆者の名義は町中華探検隊ということになっている。町中華探検隊とは、町中華を食べ歩き、記録する団体で、北尾トロが隊長なのだ。

実はこの本の他にも、今年は雑誌で特集されたりと、「町中華」という存在が世に出た年でもあったけど、今回は改めて町中華とはどういうものかをトロ隊長にいろいろ聞いてみることにした。

取材場所は東京・下北沢駅から歩いて15分の場所にある町中華、代田橋の「中華丸長」だ。

ここは、カウンター席に広めのテーブル席があって、奥に小上りがある。今回は小上りで食事をしながら話を聞くこととなった。

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▲このお店、年配のご夫婦2人で切り盛りしておられる。奥様がお水を持ってこられた。

『メシ通』担当編集のムナカタ氏が「それじゃ、お話を聞く前になにか注文しましょうか」と言う。僕は「今日のサービス品」という日替わり定食にしようと、家を出るときから決めていた。

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▲毎日通っても飽きないようにバラエティに富んでいる日替わり定食

うっ、うっ、きょうはミックスフライかぁ。けっこうヘビーだね。まあ、初志貫徹。僕は日替わり定食。

隊長はオムライスを注文。

あと、餃子、単品でニラレバ炒めを注文。

「ここのニラレバはうまいよ」とトロ隊長。

ムナカタ氏は長考した後、炒飯コンビを決断。ラーメンとミニチャーハンのセットだ。

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町中華に定義はない!?

まずは、そもそも町中華っていうのは、なにかって話からうかがいましょうか。

この本でも書いているけど、町中華の定義ってぼんやりしているんだよね。

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▲町中華は定義がないのが定義だというトロ隊長

町中華って、短いフレーズでは説明しづらいんだよね。最初はなんとか定義を定めようと試みたんだけどね。たとえば、中華なんだけどカツ丼、カレー、オムライスの三種の神器があるみたいな。でも、うまくいかなかった。そのうち定義が定まらないのが町中華だ、ってことに気がついたわけ。(北尾トロ)

三種の神器とは、僕らが勝手に呼んでいる町中華ならではのメニューで、カレーライス、オムライス、カツ丼のこと。

「町中華って言葉はトロさんが考えたんですか?」とムナカタ氏。

いやいや、すでにあった言葉なんですよ。僕よりも年長の人たちと仕事をしたときにその人たちが普通に使っていたの。今から10年位前かな。で、まあ、意味がなんとなくわかったから、とくに聞くこともせず、自分がよく行っている町の中華屋さんだなって思ったんだよね。それで、「町中華」って言葉をふと、この人(僕のこと)の前で言ったら、えっ、町中華ってどういう意味? っていうことになったんですよ。(北尾トロ)

もちろん、おおよそ意味はわかるんだけど、初めて聞いた言葉だから、もっと具体的に知りたくて、トロ隊長と一緒に歩いているときに、中華料理店を見つけると、「これは町中華ですか」と質問していた。一種の遊び。すると、「ここは、駅から遠いから町中華じゃないね」とか「ここはカツ丼がないから違うね」みたいな、今では考えられない言葉が返ってきたりして、まあ、それがおもしろくて、2人で勝手に“町中華探検隊”って名乗ってたんだよね。

書くことでだんだん分かってきた

と、餃子が到着。

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▲餃子、480円。パリッと焼かれている餃子はビールに合うんだよね。今日は飲まないけど。

それで、2014年はずっと、マグロさんと2人で活動してたんですよ、町中華探検隊として。ただ、僕らも年だし、胃袋には限界があるわけですよ。それで、新しい隊員を入れていくことになったんですよ。(北尾トロ)

さて、レバニラ炒めがやってきた。

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▲レバニラ炒め、570円。レバーを一緒に炒めるのではなく、いったん揚げているので臭みもなく香ばしい。

それで最初に入隊したのがライターの増山かおりさん。今はなき新宿区大久保の「日の出」という町中華で入隊試験が行われた。もちろん、あっさり合格。

で、増山隊員が月刊誌『散歩の達人』(交通新聞社)で町中華を企画にしてくれて、僕とトロ隊長も原稿を書かせてもらった。その後、ライターの半澤則吉くんが加入し、ライター4人で連載をすることになったんだね。

僕らはライターだから、書くことでだんだん町中華ってどんなものかってわかってきたってところがありますね。下関マグロと2人でやってきたときに比べると、飛躍的に地域も広がり、行くお店も増えてきた。(北尾トロ)

町中華探検隊も初期のころは入隊試験みたいなものがあって、5番目の隊員である、編集者の竜超さんが、今回おじゃましている「丸長」を紹介してくれて、トロ隊長はいいお店を紹介してくれたっていうのと、その食べっぷりのよさに合格を出したんだよね。ちなみに『散歩の達人』の連載第1回はこのお店を取り上げている。

官公庁あるところに町中華あり

というわけで、トロ隊長に今回、いちばん聞きたい、ことをぶつけてみよう。

知らない町に行って、いい町中華を探す方法ってある?

当たり前だが、町中華があるのは東京のような大都市ばかりではない。全国のいたるところに町中華は存在しているはずだが、そもそも見つける方法のようなものはあるのか、と聞いてみた。

まず場所ですね。まあ、そこそこの大きさの町でいい町中華をさがそうとすると、つい商店街へ行きたくなるんですけど、これは違います。一番確率が高いのは役所の前です。市役所、警察署など、公務員が働くような場所に安くて腹いっぱいになれる町中華があるんです。(北尾トロ)

そぉかなぁ(笑)。たしかに役所の近くっていうのはけっこうあるけど、商店街にもあると思うよ。まあ、こうやって言い切るところがトロ隊長のおもしろさか。

なんて、思っていると、まずは僕が注文した日替わり定食のミックスフライ到着。この料理だけ見ていると、ここが洋食屋さんなのか、とんかつ屋さんなのか、和食屋さんなのかわからなくなってくる。それが町中華のオモシロさだ。

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▲日替わり定食、780円。アジ、海老、ヒレ、どれもカラッと揚がっていて美味! 味噌汁とご飯の美味しさも格別!

ところで、地方の町中華ならではの傾向とか特徴って何かあるのだろうか。

地方はね、ハッキリした特徴がありますね。それは“飲み”中華です。ビールだけじゃなくて焼酎なんかもあって、昼間っから飲んでいたり、テレビでプロ野球を見たりしながらお酒をちびちびやってたりするお客さんが多いですね。まあ、東京でもそうですけど、だから町中華って、そんなにおいしくなくてもいいんですよ。普通で。(北尾トロ)

「そうですよね、竜さんもこの町中華本では“並なのがいい”って書いてらっしゃいますよね。つまり行列ができるようなお店ではなく、普通がいいんだと。これは僕たちのようにグルメサイトをやっている人間にとって衝撃だったんですよ。つまり、今までは“おいしい”とか“盛りがいい”とか“コスパがいい”ということで語られていたものばかりだったんですけれど、それ以外にも楽しみ方があるんだってことなんですよね、町中華って」となんだかムナカタ氏が熱く語っているところへ、オムライス到着。

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▲オムライス、780円。中華鍋で炒められるケチャップライスはとにかくうまい。町中華のメニューにオムライスがあれば頼むべし!

おいしさ以外の部分も楽しむ

町中華はこれまでずっとマスコミで取り上げられなかった印象があった。その理由もいろんなお店で探検を重ねていくうちに分かってきた。

実は『散歩の達人』なんかでも取材申し込みをすると、けっこうな確率で断られるんですよ。つまり、お店からすれば雑誌なんかに取り上げてもらう必要はないわけ。常連客だけでやっていけているのに、一時的にお客さんがきても、かえって迷惑になっちゃう。とくに町中華はお店の宣伝とかいっさい考えてないところが多いね。(北尾トロ)

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▲日替わり定食にもオムライスにもたっぷりの生野菜がついているのがうれしいね。

「この町中華本の中にも、油流(あぶらなが)しって出てくるじゃないですか。町中華探検隊の活動でバラバラのお店へ入って、その後で喫茶店に集合して、お店の感想を言い合うみたいな活動。そのときにヘンな話、“まずいお店のほうが話が盛り上がる”みたいな記述もありますね」とムナカタ氏。

たしかに、そういう意味では、乱立するグルメサイトとはぜんぜん別個のところに町中華はあるのかも、なーんて言っているところへムナカタ氏が注文した、チャーハンコンビ到着。

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▲炒飯コンビ、840円。町中華メニューの王道ともいえる半チャーハンとラーメン。けっこうな量で、しっとりとパラリの中間くらいのミニチャーハンと、鰹だしを使ったラーメンのスープが特徴

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▲丸長グループといえば、つけ麺で話題の東池袋大勝軒の初代、山岸一雄氏が修業したことでも有名。ちなみに丸長の「長」は創始者が長野県出身であることから名付けられたという

おいしさ以外にも楽しみのポイントがいくつもある、とトロ隊長は力説する。

町中華の多いところは昔からやってる喫茶店も多いんですよ。油っぽかったり、しょっぱかったりする町中華を食べた後はコーヒーとか飲みたいわけですよ。そこで、他の隊員が行った店の報告を聞くときに、味の話をされるのは好きじゃないんですよ。味はよくわからない、なぜなら味は主観だからです。それよりはエピソードですよ。たとえば、まずいけどなぜか流行っている店、その理由は……とかね、そういう話を喫茶店でするのが楽しいわけですよ。(北尾トロ)

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▲町中華を食べた後でみんなで“油流し”を喫茶店でするのが楽しい

急いだほうがいい

とはいえ、最近は閉店していくお店も数知れない。やっぱり減ってますよね、町中華。

そう、やっぱり近所にある町中華はいつまでもあって欲しいじゃないですか。そのためにも“食べささえ”をしていかなくちゃいけないわけですよ。(北尾トロ)

あー、そうそう、つい流行っているお店に行きたくなるけど、そうじゃないお店こそむしろ行ったほうがいいのかも。昔、荻窪に「佐久信」というラーメン屋があって、そこは周辺のお店にはどこも行列ができているのに、このお店だけはいつもガラガラ。むしろ、僕なんかそういうお店のほうがおもしろそうだって入るんだけど、これがやっぱりまずいんだよね。

そしたらその後、テレビ番組がおもしろがってその店をサポートして、おいしい繁盛店につくりかえるって企画をやってて、その後、行列ができるお店になったんだよね。いまはもうないんだけど。閑古鳥が鳴いているようなお店というのもひとつの特徴としておもしろいよね。

それって、伊丹十三の映画『タンポポ』のヒントになったお店だよね。実はこの前、奈良県の五條市ってところへ行ったんだけど、そこに「中華料理たんぽぽ」ってお店があって、聞けば伊丹十三の映画の影響で店名をつけたんだって。ここが、珍しいジビエ中華をやっているお店だったんだよ。害獣として駆除した鹿の肉を出しているんだけど、酢豚ならぬ酢鹿。ほら見て。(北尾トロ)

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▲ジビエ中華を見せてくれるトロ隊長

へえ、うまそうだね。なるほど、地方にはそういったオリジナルメニューなんかが味わえる町中華もあるわけだ。

やっぱり、いろいろ食べにいかないとね。まだあるうちに。

急いだほうがいいよ。昭和39年の東京オリンピックでたくさんできた町中華だけど、多くの店主は高齢化で辞め時を探ってたりするんだよね。で、よくよく聞いてみると、次の東京オリンピック/パラリンピックまでがんばろうっていう店主が多い。だから、その後が心配なんだよね。(北尾トロ)

ここ数年で多くの町中華が消えるのかも。急いで食べに行かなきゃだね。

すっかりお腹いっぱいになったところで、店主と少しお話。

きょうの日替わり定食はまだあるんですね。これ、早いときはすぐになくなって、文字が消されるんですよね。

そうそう、きょうは夜まであるね。

これどのくらい前から、決めるんですか?

3カ月くらい前からだいたい決めておくんですよ。あとは天候なんかで前後することはありますけどね。

ほう。また、来ますね、ご主人。

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▲レトロな内装はむろん、サービス品の黒板も年季が入っているね。

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▲昭和28年創業の丸長。店主の深井正昭さんは二代目だ。

というわけで、僕らは油流しへ!

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お店情報

中華丸長(まるちょう)

住所:東京都世田谷区代沢5-6-1

電話:03-3421-3100

営業時間:11:00~15:00、17:00~20:00

定休日:水曜日

※金額はすべて消費税込です。

※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報はお電話等で直接取材先へご確認ください。

書いた人:下関マグロ

下関マグロ

1958年生まれ。山口県出身。出版社、編集プロダクションを経てフリーライターへ。『東京アンダーグラウンドパーティー』(二見書房)、『歩考力』(ナショナル出版)『まな板の上のマグロ』(幻冬舎)など著書多数。 Twitter:@maguro_shimo

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