格差是正を求めるウォール街占拠デモは「10年後の日本の姿」

社会学者の阿部真大氏

 今年9月半ばからニューヨークで始まった”格差是正を求める”ウォール街占拠デモ(Occupy Wall Street)。11月15日には、本拠地としていた公園からデモ隊が強制退去させられたが、デモ開始から2ヶ月以上が経過した現在も収束の気配は見えない。2011年11月28日に放送されたニコ生AERA「ウォール街デモから広がる若者達の反乱」では、ウォール街からの生中継を交えつつ、今なお続くデモの状況や若者が抱える問題などについて、社会学者の阿部真大氏らが語り合った。

■現在のウォール街の状況は?

 ウォール街の様子を生中継でリポートした、ニューヨーク在住のジャーナリスト津山恵子氏によると、ウォール街占拠デモ(Occupy Wall Street)の本拠地の公園には11月15日の強制退去以前は常時1000人くらいの参加者がいたが、強制退去後に減少し、現在の参加者は100人程度だという。津山氏は、「(デモの方向性を話し合うグループ同士の)会議では、市民の割合が増えている。弁護士や会計士、大学生の参加が増えていて、元から活動していた運動家、ここに寝泊まりしていた人の割合が減っている」と述べ、デモの質が運動開始当初と比べて変化し、デモ活動自体が一般市民へも拡散しつつあると指摘した。

 一方、若者の労働問題に詳しい社会学者の阿部真大氏(甲南大学専任講師)は、今回のウォール街占拠デモが「社会運動の変化がもたらしたものである」と考察した。阿部氏は

「近代社会が始まった最初の内は自由主義だったので、労働・貧困の問題が(社会運動で)メインだった。これが古い社会運動と呼ばれるもの。その後、貧困の問題は克服されたと思われた。1960年代後半から起こってきたのが生活の質や承認の問題を扱った”新しい社会運動”。新自由主義がアメリカの場合、1990年代以降浸透してきて、また格差が広がっていった。古い社会運動が復活してきた」

と語り、貧困や格差の是正を求めるような”古いタイプの社会運動”がアメリカで復活している可能性を指摘した。

■「10年後の日本の姿がウォール街占拠デモにある」

ウォール街からリポートする津山恵子氏

 津山氏によると、ウォール街での運動参加者は20代前半の若者だけでなく、既存の労働組合・反核団体・人権団体などの市民運動家や、教育問題に関心がある保護者、同性愛者のようなマイノリティーの人々など幅広い層の市民が、様々な意見を発信するため参加しているそうだ。

 東京でもウォール街でのデモに呼応し、10月に「Occupy Tokyo(東京を占拠せよ)」と題されたデモが行われたことは記憶に新しい。阿部氏は、「(『Occupy Tokyo』の若者は)排外的な意識が強い。移民によって仕事が奪われる恐怖感を抱いている」と述べ、東京のデモは生活の質の向上を訴える”新しい社会運動”であり、”古いタイプの社会運動”が復活したウォール街のデモとは質が違う点を指摘した。その上で、阿部氏は

「放って置くと(日本もアメリカも)地方の労働者は、移民排斥の方向に向かってしまう。それが、ある種の排外主義を煽るようなポピュリズムに利用されかねない」

「(若者達の中には)民主主義に対して絶望感持っていて、自分たちを救ってくれる”第三の勢力”に惹かれるメンタリティーが醸成されて来ている」

と述べ、若者の政治意識にある危険性について触れた。さらに阿部氏は、若者の貧困問題がより深刻になることを予測した上で、

「10年後の日本の姿が、多分ここ(ウォール街占拠デモ)にはある。その時のための知恵を、ここから学んでいくことが必要だ」

と話していた。

◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]阿部真大氏が「東京とウォールストリートとのデモの違い」を説明する部分から視聴 – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv72002975?po=news&ref=news#31:10

(吉川慧)

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