子供の貧困と進学率との密接な相関関係 どうすれば改善できる?
子供の貧困問題が顕在化してきている現状
虫歯が10本以上あるのに放置されている子供が少なくないなど、子供の貧困問題は次第に顕在化してきていますが、実は、2000年に上梓された『不平等社会日本―さよなら総中流』(佐藤俊樹)において、雇用ホワイトカラー上層においては開放性が低下しているという指摘がなされています。
社会階層の開放性がゼロに近かったのは江戸時代です。
身分制度の世の中なので、努力すれば、上昇できるということは、ほとんどありませんでした。
慶應義塾の創始者である福沢諭吉は、才能があるのに、下級武士の家に生まれたので、父が寺に預けて、その才能を開花させようとしたという逸話もあります。
仏門であれば、大僧正になることも可能だったのです。
現代もそれに近づきつつあるということなのです。
この本が出版されたのが2000年ですから、今ではその開放性の低下がさらに進んでいることも考えられます。
学校外教育費と学力格差の密接な相関関係
2003年から2004年にかけて、お茶の水女子大学21世紀COEプログラムJELS(Japan Education Longi-tudinal Study)という大規模調査が、関東地方の人口25万人規模の都市で実施されました。
調査対象は8000人にも及ぶ本当に大規模なものですが、この調査研究により、学校外教育費と小学校6年生の算数テストの点数に因果関係があることが明らかにされました。
学校外教育費ですから、学習塾や家庭教師の費用です。
それが高いほど、算数テストの得点が高いのです。
※関東地方の中都市における小学校6年生の算数テスト点数と学校外教育費について
学校外教育費(月額) 算数テスト点数
0円
35.3
1万円未満 44.2
1から3万円 49.9
3から5万円 66.3
5万円以上 78.4
このデータは、算数テストに限っていますが、算数以外の教科はどうか、中学進学後はどうかと考えると、その答えは容易に推測できるでしょう。
画期的な東京都の取組み
そうしたこともあって、東京都福祉保健局は、『受験生チャレンジ貸付制度』を実施しているのだと思います。
これは中学3年生と高校3年生の塾代を年額20万円、無利子で貸し付ける制度で、進学すれば返済不要となります。
高校入試の受験料と大学入試の受験料も支給されます。
都内在住で、所得などの条件をクリアすれば利用可能ですが、まだ広く知られているとは言えないのが残念です。
これからますます重要になる行政の果たすべき役割
子どもが貧困だと、その子どもも貧困になる可能性が高いのは先行研究で明らかなので、行動を起こすべき時期だと考えます。
東京大学大学院教育学研究科大学経営・政策研究センター『高校生の進路追跡調査 第1次報告書』(2007年9月)に拠れば、保護者の年収と子どもの進学率は相関します。
大学進学率は年収400万円以下だと30パーセントぐらい、1000万円以上だと62パーセントぐらいです。
2009年8月4日、文部科学省の専門家会議は2008年度の全国学力テストを受けた公立小学校6年生の国語と算数の正答率において、保護者年収が1200万円以上だと平均を8ポイント上回り、200万円未満だと平均を10ポイント下回ったと公表しました。
全国学力テストの結果と保護者収入の関係に触れた文部科学省のデータ公表が、これが初めてのようです。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の『ユースフル労働統計2015』に拠れば高卒と大卒の生涯賃金(退職金などを含む)の差は約9000万円にも上るとのことです。
ですから、意欲はあるものの貧困下の子供の学力向上のために今こそ自治体や国が動く時期だと考えます。
☆参考資料
1、日本大学経済学部経済科学研究所研究会
第177回 2010年12月2日
子どもの貧困~すべての子どもの幸せのために~
国立社会保障・人口問題研究所
社会保障応用分析研究部長 阿部 彩
2、『「学力」の経済学』(中室牧子)
(竹内 鉄雄/学習塾代表)
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