野田政権の増税方針は「悪手」 経済学者・飯田泰之

飯田泰之氏

 駒澤大学准教授で経済学者の飯田泰之氏は2011年11月19日、BSジャパン「デキビジ」の収録で、野田佳彦政権が推進する増税政策と、TPP(環太平洋連携協定)参加の是非について分析した。飯田氏は野田政権の増税方針について、長期の不景気から回復できず東日本大震災の影響が色濃いなか、「悪手」であると方向性に疑問を呈した。また国民の関心が高まっているTPPについては、参加による劇的な経済効果はないが、不参加による損失は非常に大きいとして、「厳しい選択ながらも参加は不可避」との見解を示した。

 司会の勝間氏から冒頭、増税対象に住民税や所得税などが検討されていることを挙げられると、飯田氏は増税の方針自体が目下の経済情勢ではあり得ない、いわば「入院しつつアルバイトという状況」と表現。所得税が対象とされる件については

「景気にとってマイナスが大きく、徴税効率の悪い、一番の悪手を打った」

と述べ、また主な対象がサラリーマンで、企業の法人税等と異なり反発が少ないことが利用されていると分析した。

 その上で飯田氏は、日本が未導入の「租税社会保障番号制」について、2009年の民主党マニフェスト発表以来全く審議の形跡がないことを挙げ、この原因は番号制導入による「名寄せ」によって不利益を受ける層と民主党の結びつきにあるとした上で、そもそもの発端として民主党のいわば八方美人的な政策のしわ寄せが、結果として一般勤労者層に来たと指摘する。

 さらに勝間氏から、鳩山由紀夫政権以来これまで民主党政権が続いた中で、野田政権でついに増税が既定路線となった一連の流れについて尋ねられると

「これはショックドクトリン。大きなショックがあると何か大きな対策が必要だという考え。ウソではないが、正しい大きな対策もあれば、間違えている大きな対策もある。通常ならごく当たり前に考えるところが混乱してしまうので、今ならイケると吹き込まれた」

と述べた。そして、過去の同様事例として関東大震災を挙げ、震災直後の徹底的な金融引き締め・円高政策の結果、その後の1920年代の農村を中心とした不況、そして1930年代の二・二六事件に代表される軍部の台頭という社会の不安定化との関連性も指摘した。

■TPPは厳しい選択ながらも参加は不可避

飯田泰之氏

 番組ではTPP問題についても語られ、飯田氏はTPPに関する心配論は、”悲観論”でずるく、大変なことになれば「それ見たことか」、やりすごせたら「注意したおかげ」という絶対に間違えない論法と話す。その一方、ポジティブつまり賛成論も、必ずしも「バラ色」ではなく、あくまでもTPPは「共通ルールへの参加」が主眼であり、日本が独自の道を行く経済力を持ち得ない以上、不参加という選択は事実上経済圏から排除されることと等しくなるため、非常に厳しい選択ながらも参加は不可避であると強調する。

「TPP賛成論のすごく難しいところは、参加したらこんなにいいことがありますよ、と言ってはいけない。大していいことはない。その代わり、参加しないとヤバいですよ、とだけは言える」

 そして飯田氏はTPPにおける米国の目的について、アジア太平洋圏の共通ルール策定の主導権を握ることだと指摘した。また、ISD条項(投資家対国家間の紛争解決条項)についても触れ、基本的には企業活動での不利益変更が「後出し」の形で条例化された場合が多く、実際の活動がない企業が国へ訴訟を起こすことはできず、国レベルでいきなり企業活動を規制する法律は通常通さないこと、実際にISDの補償を最も多く受けた企業は野村證券という実例を挙げ、むしろ日本企業の方がISDでは警戒される立場にあると述べた。

 さらに非関税障壁に関しても、実は日本は世界的には平均レベルで、関税も低いのが実態と説明。1980年代の極端なジャパンバッシングを例に出し、そのトラウマを説明しつつも、日本は基本的にアメリカのような産業構造、金融大国であり、

「日本人の自己像が不思議な歪め方をしている。それが集約されているのがTPP」

との見解を示した。

◇関連サイト
・BS JAPAN「勝間和代#デキビジ」 – 公式サイト
http://www.bs-j.co.jp/dekibiz/
・[ニコニコ生放送]「増税」に関する議論から視聴 – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv70665214?po=news&ref=news#06:48

(登尾建哉)

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