ペット長寿時代 認知症と向き合う

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ペット長寿時代 認知症と向き合う

長寿になった日本のペット

本年9月14日、東京農工大と日本小動物獣医師会の大規模調査で、イヌとネコの平均寿命が発表されました。
それは、2014年時点でイヌが13.2歳、ネコが11.9歳で過去最高とのことでした。
過去の調査から25年間で、イヌは1.5倍、ネコは2.3倍に伸びたことになります。
その理由としては、6月24日付のJIJICO記事にも記載しましたが、医療環境、生活環境、栄養環境の進展によるものと考えられます。
そこで、今回はペットの高齢化に伴い問題とされる認知症(痴呆)について、その病態と飼い主自身がどのように向き合っていけばよいかを解説していきたいと思います。

ペットの認知症を判断するチェックポイント

この病気は人と同様に脳の老化と関係しています。
一般的には、イヌでは12歳以上で発症率が増加し、12~14歳で15%前後、14~16歳で30%前後、16歳以上では60%前後が認知症状を示しているといわれています。
ネコでは、統計的な報告はありませんが、15歳以上で、50%が認知症になるといわれています。

チェック方法として内野富弥先生の「100点法による犬痴呆の診断基準」はよく知られていますが、その入り口診断として13歳以上のイヌで次の5項目中、2項目以上当てはまるものがあれば痴呆の疑いが出てきます。
①夜中に意味もなく、単調な大きな声で鳴きだし制止ができない
②歩行は前進にのみトボトボ歩き、円を描くように歩く
③狭いところに入りたがり、自分で後退できないで鳴く
④飼い主、自分の名前、習慣行動がわからなくなり、何事にも無反応
⑤よく寝て、よく食べて、下痢もせず、痩せてくる
ただし、犬で認知症に似た症状を示す病気(脳腫瘍、ホルモン疾患、関節疾患、代謝異常疾患他)もありますので、動物病院での診断が必要です。

認知症の対処方法について

認知症は進行性の疾患になります。
動物病院での治療の目標は、ある程度の認知力の改善と進行を遅らせることにあります。
人と同様に発症初期に、薬物治療などを積極的に行っていくことで少しでも目標に近づければと考えています。
実際の治療としては、1.環境改善療法、2食餌療法、3.薬剤療法があります。
本稿では、1と2について簡単に解説したいと思います。

1環境改善療法:脳神経への刺激を考慮した日常生活
①規則的な運動(散歩)
②新しいおもちゃや考えさせるおもちゃを与える(中におやつを仕込める様なおもちゃ)
③動物や人とのかかわりを持たせる
④新しい動作トレーニング
⑤日中の決まった覚醒している時間の確保と夜睡眠前に運動させる

2 食餌療法:適切なフードやサプリメントを用いる方法
①DHAやEPA、抗酸化剤などを強化した専用治療食の給餌
②DHA、EPAサプリメントの投与により認知力、記憶力、活動性の向上を期待する
③フラボノイド、ビタミンC、ビタミンB6などの抗酸化剤サプリメントの投与

その他は前述のように動物病院で処方される薬物療法で、昼夜逆転に対する対策や夜鳴きなどに対する対策等を実施していくこととなります。

認知症とどう向き合っていくか

認知症の動物とどう向き合っていけばいいか、家庭内環境、近隣環境なども背景に非常に難しい問題となります。
早めの対策で、少しでも症状の進行を遅らせる事が第一番ですが、すでに夜鳴き、徘徊などの症状が出ている場合は、一人で抱え込むことなく、かかりつけの獣医師に相談し一緒にサポートしていく体制を整えることが大切です。
また、地域によっては、老犬ホームなどのサポート施設もありますので確認しておくことも必要です。

私たち人間は、家族としてこれまで多くの癒しを与えてくれた動物に対し、感謝しその命の尊厳を理解し高齢となった彼らと向き合っていかなければいけません。
「愛しているからこそ」に裏打ちされた対応方法を選択していっていただきたいと思います。
 
 
 

(田村 兼人/獣医師)

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