アルゼンチンで起こった家族ぐるみの誘拐事件を映画化 『エル・クラン』監督インタビュー
母国アルゼンチンで映画『アナと雪の女王』の2倍以上の興収を記録した映画『人生スイッチ』をさらに超える大ヒットを打ち出して話題となっている映画『エル・クラン』(9月17日より公開)。
軍事政権崩壊後の1983年アルゼンチン。裕福なプッチオ家は両親と5人の子どもたちで幸せに暮らしていた。ある日から、金持ちだけを狙った身代金誘拐事件が連続して発生。近所の住民たちが不安な毎日を送る中、プッチオ家の主アルキメデスは、妻の作った夕食をなぜか2階にある鍵のかけられた部屋に運ぶという不審な動きをしていた――。
『オール・アバウト・マイ・マザー』『トーク・トゥ・ハー』などを手がけたスペインの巨匠ペドロ・アルモドバルが製作を務め、アルゼンチンで実際に起こった身代金誘拐事件をパブロ・トラペロ監督が映画化した本作。今回は、第72回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞したトラペロ監督にインタビューを行った。
――本作のテーマとなった事件が起こった当時、監督はまだ子どもだったと思いますが、リアルタイムでどのようにご覧になっていましたか。
トラペロ監督:事件を知ったのは私が13歳か14歳の頃だった。若かったので映画はまだ作っていなかったけど、すごく衝撃を受けた事件だった。一家全員が巻き込まれた事件だったからだ。私も家族と一緒に生活していて、自宅に誘拐された人がいるなんてあまりに不条理に感じた。でもそれは単なるひとりの青年、子どもとしての視点だった。
だがその視点が出発点となって、フィルム・ノアールのようなジャンルの映画を構築することになった。家族の日常、アルキメデスとアレハンドロ(プッチオ家の次男)という父子の日常生活をベースに、観客は家の外で起きている非常に強烈で独特の現実を発見することになる。軍事政権が終わり、人々が待ちわびた民主主義の時代が訪れた時代にプッチオ一家が人々を誘拐していたという現実だ。家族の親密なストーリーでもあり、同時にアルゼンチンの歴史のなかで重要な局面を描いてもいる。
――その当時の記憶が、すでに映画を作るキッカケ、出発点になっていたということでしょうか?
トラペロ監督:そうだね、撮影しながら当時を思い出していた。それに事件後時間が経ってからも報道は続いていた。裁判や事件の調査は85年に終わったのではなく、その後も6〜7年調査が続いた。だから私がもう少し成長してから知った事実もあり、後にアレハンドロが最後にとった行動を知って特に興味を持った。この事件については私の人生の異なる局面で何度も出会ってきたんだ。
――本作がアルゼンチン国内や各国際映画祭で非常に高い評価を受けている理由はどこにあると考えていますか。
トラペロ監督:あまりに不条理で、日常からかけ離れたストーリーだけど、観客が共感できる部分を見いだすことができたんだと思う。家族の日常生活、家族内の秘密や嘘、そして父子の関係だ。もちろん『エル・クラン』での例は極論ではあるけれど。我々誰もが感じている家族という幻想、そこにある不安、恐怖をこの不条理な映画に見いだすことができた。我々は誰もが誰かの子どもであり、多くは父親という存在でもある。父子の関係には共通の普遍的な問題がある。だからアルゼンチン国内での商業的成功は大きな驚きだったし、ラテンアメリカのほぼ全土で成功し、アメリカ、フランスやヨーロッパでも非常にいい評価を得た。人々がこの映画に関心を持つのは、アルゼンチンの歴史的事実というローカルな事件としてではなく、家族という日常の状況があるから誰しも共通の普遍的なストーリーになっているからだと思う。
――アルキメデスは家族を愛するごく普通の父親としての一面があり、それがまた誘拐犯としての猟奇的な恐さを増幅させていたと思います。製作プロセスの中で様々な文献に触れたと思いますが、監督はアルキメデスをどのような人物だと捉えていますか。
トラペロ監督:現実生活ではなく、まさに映画の登場人物としては最高の人物像だ。彼の言動は極めて矛盾していた。家族への愛情を語り、子どもたちの将来を心配する一方で、強制的に家族を共犯にするんだ。一連の事件は子どもたちや妻の目の前で行い、実際の犯行グループの一員として巻き込んでもいる。彼の子どもたちは父親の第一の被害者でもあるんだ。特にアレハンドロだが、家族全員がアルキメデス・プッチオの第一の被害者なんだ。
映画『エル・クラン』予告編/理想的な家族の本当の姿とは…(YouTube)
https://youtu.be/T5p7vuGbi1k
映画『エル・クラン』公式サイト:
http://el-clan.jp/
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