奨学金無利子貸与の対象拡大は本当に教育格差の解消につながるのか?

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奨学金無利子貸与の対象拡大は本当に教育格差の解消につながるのか?

奨学金無利子貸与の対象拡大は教育格差の解消につながるか

無利子奨学金の貸与対象の拡大は、経済格差による教育格差の解消を狙いとしているようです。
しかし、実際には、学生の質の低下を招くことと、大学受験及び進学後の費用増加を助長することになるのではないでしょうか。

確かに、無利子奨学金の貸与対象が広がることは、直近に大学進学を控える受験生にも、その家族にも、志望大学の選択の幅を広げる事ができるのは利点です。
また、日本政策金融公庫などから、有利子である「教育ローン」の貸付の代わりに利用できることを考えれば、金銭的メリットが有ることは明らかです。
しかし、これらのメリットのためだけに貸与基準を緩和することは問題無いのでしょうか?

大学進学への基準に満たない受験生に国が支援する意味があるのか

独立行政法人日本学生支援機構が示している奨学金貸与のための学力基準及び家計基準は決して厳しくありません。
そもそも、多くの普通科高校では、毎回の定期テストでは、平均点程度が取れれば、学期末の成績として、10段階評価の「7」の評価が付くのが相当です。
この「7」を推薦入学に必要な評定に換算すれば「4」になります。
ごく平均的な成績で3年間を過ごして、評定点「3.5」を下回ることは考えられません。
私がお預かりする、塾生たちの評定点から鑑みて、職業科に通う高校生の場合では、もっと評定点が高い傾向にあります。

つまり、高校内でごく平均的な成績すら取れない学生に対しても、進学時の資金を国が用意していることになります。
学力基準の引き下げは、本来、学力的に大学進学への基準を満たさない受験生に、金銭的支援をして大学への進学を奨励しているだけではないでしょうか。
また、日本の若年人口が減少していることは周知の事実であり、18歳人口及び大学受験人口が今後減少することも、よく知られている事実です。
では単純に、受験人口が減れば、それに比例して奨学金給付希望者が減らないのはなぜなのでしょうか。
理由は明白です。「学費の高騰」にあります。

奨学金貸与の幅が広がることにが受験費用と授業料の高騰につながる

国立大学・私立大学ともに、かつてよりも、学費は高騰しています。
少子化が進み、大学進学人口が減れば、各大学は、受験生一人あたりの受験料や、学生一人あたりの授業料を従来よりも高く設定しないかぎり、従来通りの大学の経営ができないことは想像に難くありません。

もし、「授業料が高くても、奨学金を借りれば何とかなる」という風潮が広がれば、安易に奨学金を借りて進学をする学生を増やすだけでなく、高額な大学への受験費用と授業料を、更に高騰させる要因になる懸念はないでしょうか。
同様の理屈で、国公立大学の授業料が値上げされれば、奨学金の貸与を受けずに進学をする全ての受験生や、学生たちにまで、影響が及ぶことになるのです。

経済格差による教育格差を解消するなら、低所得世帯への高校授業料免除を拡充するなど、高校在学時に学生の能力を伸ばす機会を支援するほうが有効ではないでしょうか。
そして、受験生自身も、受験生を持つ家族も、無利子だからといって、安易に貸与を受けると、大学卒業後に15~20年間に渡る返済が待っていることを、よく自覚していただきたいと思います。
とくに、30代になって、結婚・出産・子育てに加えて「奨学金返済」が続く金銭的な苦しさを、将来設計の中に描くことを考えるべきなのです。

(加藤 哲也/塾講師、大学受験ストラテジスト)

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