トラブル続きの国産航空機MRJ 日本の製造業の技術力劣化が原因か
国産航空機MRJが2日続けてトラブルに
半世紀ぶりの国産航空機としての注目を一身に浴びて意気揚々と米国へのフェリーフライトに離陸したMRJが、その直後にトラブルを起こし引き返すという事件が2日連続して起きました。
離陸後、空調システムアラームを検知し、電子部品を交換して、翌日再飛行を試みましたが、アラームを再検知し、再び引き返したのです。開発元の三菱航空機では暫く原因が分からず、空調装置の異常ではないかと考えられていましたが、その後、空調装置を監視するセンサの異常と特定されたとの発表がありました。
日本のメーカの連続したトラブルは何が原因なのか?
日本の製造業は、いまや世界第一の技術力を誇り、その製造品質も群を抜いて高い事は世界の認める所となっていますが、この事件を受けて、その技術力が劣化してきているのではないか、との声が聞かれます。
識者の中にも、日本のメーカは近年、三菱自動車の燃費偽装問題、タカタ製エアバッグのリコール問題等を例に挙げ、日本の製造品質は揺らいできているとの指摘をしている人もいます。
そして、その原因として挙げられるのが、業務の外部委託、非正規従業員の採用等に起因する「製造現場力の弱さ」です。
従来、日本の製造業は、終身雇用制度に守られた優秀な正規社員を確保してきました。
また、殆どすべての製造を同一企業内でおこなう内製化を得意とし、問題があれば、現場全員の力で解決してきました。
これが現場力の強さで、高品質の源泉なのですが、近年これが崩れてきたという指摘です。
MRJのトラブルは技術力劣化だけが原因ではない
しかし今回の事件から、もう一つの日本製造業の側面が見えてきます。
それは、航空機という、非常に高度な技術力を要する製品で起こったものであるという製品の観点です。
日本の得意とする製品である自動車の部品点数は、せいぜい約3万点と言われています。
それに対し、航空機の部品点数が、約100万点です。数十倍です。
そして、MRJを例にとると、その主要部品の約6割が米国等の海外製品なのです。
MRJが国産航空機といわれる所以は、日本企業が、全体設計を行い、航空機の機体設計製造を受け持った事であり、これは日本企業が航空機においても、単なる部品供給メーカから、製品メーカに脱皮するという大きな意味を持つわけです。
そのような観点でみると、今回の事件は、約100万点と言われる部品、それも6割を海外の企業から調達するという製品における品質管理を充分にできる企業として、日本の製造業が進化できるか、を問われている事件であるのではないでしょうか。
MRJのトラブルの元が、当初疑われていた、米国製空調装置そのものではなく、その状態を監視するセンサ装置の異常であった事は、これらの膨大な部品を組み合わせたシステムにおける品質管理を如何に実施するのか、という、これまで自社製品のみの品質管理に長けてきた日本企業にとっての未踏分野におけるチャレンジになっているのです。
現場力の観点からも、6割の部品を外部調達するシステム製品では、従来の考え方が通用しないのは当然で、システム製品ならではの現場力を構築しなければならないチャレンジャブルな製品分野であるのです。
MRJが成功することが日本の製造業を進化させることに
今回のMRJの技術面からの対応は、不具合原因の特定には戸惑ったものの、異常発生からその後の対処は、安全性を確保するという面で適切であったと思います。
MRJは、主翼外板部と骨組みを一体成形する事により従来の繋ぎあわせのための鋲を大幅に削減し、燃費を 20%向上させたハイテク機です。
是非、この未知の航空機製造分野においても、現場力、システム力を確立して、日本製造業の優秀性を見せてもらいたいものです。
(馬場 孝夫/経営コンサルタント)
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