何事も「中途半端」が一番ダメ。ということで、乗るべきはやっぱり往年のSクラスなのか?
▲いっさいの妥協をせず「最善か無か」を地で行っていた時代のメルセデス・ベンツ Sクラス
酔客との間で起きてしまった警察沙汰
過日、いわゆる中二病に罹患していた10代半ば以来約30年ぶりに、警察のご厄介になってしまった。多摩川で開催された花火大会を見に行った帰り道、酔客と揉めてしまったのだ。
詳細は端折るが、駅ホームに泥酔して座り込んでいた1人の女性酔客がいた。で、筆者は彼女の傍らに置かれていた飲みかけのビールを、誤って蹴飛ばしてしまった。酔っている女性は「弁償しろ! 500円だ!」とわめき、わたしもその瞬間は「すまなかった、了解した」と応じた。
しかしよく考えてみると、完全に冷気を失っているカップ半量のビールに500円の価値があるとは到底思えず、さらに考えてみれば、そもそもこんなところにビールを置いてる方が悪いんじゃねえかテメー! ということで、わたしは「ま、200円だな……」と言って彼女に100円硬貨2枚を渡した。
だがそれによって彼女の怒りの炎はさらに燃え上がり、筆者および家人に対して数々の罵詈雑言をぶつけ、最終的にはちょっとした暴行事件に至った(当然だが筆者側はいっさい手出しをしていない)。で、これはたまらんということで最寄りの交番に行ったのだ。
まぁこの程度の「事件」では当然おまわりさんからも「双方の非を謝罪し合っておしまいにしましょうよ」的な裁きしか下らず、筆者はそれに従った。が、暴行を働いた酔客女性は従わない。非常に不愉快ではあったが、これ以上アレしてもアレだということで、その時点で「おしまい」にした。
しかし一夜明けて考えてみると、「そもそもわたしの対応がまずかったのかもしれない」と思い至った。わたしがとった対応はいかにも中途半端であり、もっとこう極端にいくべきだったのだ。
▲楽しいはずの花火大会の帰り道に起きてしまった揉めごと。原因は筆者の中途半端な対応だったのか?
人間も車も「最善か無か」の精神が何かと重要
酔客のビールを誤って蹴倒してしまったとき、とるべき正解アクションは2パターンあったはずだ。パターンAは、「見えてなかったからとはいえゴメンね。500円? 了解!」と言って、500円硬貨ではなく千円札1枚を渡し、静かに立ち去る。そしてパターンBは、「500円? ふざけるな! あのビールにそんな価値あるわけねえだろ! ていうかあんなとこにビール置いてるオメーが悪い!」と完全に切り捨てる。それで解決しない場合、なんなら弁護士を起用して最後まで徹底的に争う。
しかし実際に筆者がとった行動は「ま、200円」という、なんとも中途半端なものだった。そしてそれがゆえに、無用で不毛な混乱を生んでしまったのだ。やはり人間たるもの、本件に限らず何だって「最善か無か」の精神であたらなければならないのだなと、あらためて痛感したのだった。
そして「最善か無か」といえば、当然のように思い出されるのがメルセデス・ベンツの企業スローガン「Das Beste oder nichts(最善か無か)」である。
▲その昔使っていた「Das Beste oder nichts(最善か無か)」という企業スローガンを、最近再び用いるようになったメルセデス。写真はダイムラーAGのディーター・ツェッチェCEO
一時期のメルセデスは「最善か無か」とは言いがたい中途半端な車作りをしていたように、少なくとも筆者には思えた。しかし数年前にその企業スローガンを復活させたあたりから商品力は再び大いに向上し、最新のCクラスやEクラスに至ってはまさに「最善」としか言いようのない出来に見える。
そういった新世代のCクラスないしはEクラスを買うのもかなり素晴らしいアクションではあるが、自動車趣味人として同様に素晴らしく思えるのが、「メルセデスが正真正銘のDas Beste oder nichtsだった頃に作られた逸品を今、中古車として手に入れる」というアクションだ。
例えばそれは、60年代から70年代頃にかけてのいわゆるSクラスである。
「いわゆる」というのは、60年代はまだSクラスという呼称が使われていなかったからだが、まあ細かいことはどうでもいい。とにかく往年の、究極だったSクラスに今、乗るのだ。
▲ドイツ南西部の都市シュトゥットガルトのメルセデス・ベンツミュージアムに並ぶ往年のSクラス
品質も部品供給もいまだ問題なし
今でこそAクラスや(部門は違うが)スマートという庶民派モデルもラインナップしているメルセデスだが、その昔は庶民のことなどまるで眼中になく、ひたすらセレブリティや超一流企業人のための車作りに邁進していた。そういった時代のモデルのなかで、今なお比較的入手しやすく、そして比較的容易に維持できるモデルの一つが、前述の「60年代から70年代頃にかけてのSクラス」だ。
当然ながらそれらの走行性能自体は、今となっては現行Aクラスにも及ばない「おじいちゃん系」ではある。しかしひたすらに贅を尽くした内外装のデザインおよび質感ならびに手触りと、正しく整備済みでさえあれば、長い年月を経てもなお「これぞメルセデス!」としか言いようのない重厚かつスウィートなステアフィールなどは、まさに感動の極みと言える。
▲最後の縦目世代である65~72年のW108。基本エンジンは直6の3Lと2.5Lだが、67年にはV8の6.3Lを積む300SEL 6.3が追加された。通常モデルの相場はおおむね200万~400万円
▲こちらはW108の後継として72~80年まで販売されたW116。この世代から「Sクラス」という呼称が誕生した。中古車相場は200万~400万円といったところだが、450SEL 6.9はかなり高額だ
そして感動の極みではあるものの、その車両価格は意外とお安い。ビンテージ系に強い専門ショップに行けばおおむね200万円から探すことができ、さらに300万~400万円ほどの物件であれば、内外装および機関レストア済みであることも多い。そして後の維持に必要となる消耗部品や補修部品も、そういった専門ショップであれば今なお独自ルートで確実に調達してくれる。というか、この時代のメルセデスというのは最初に思いっきりビシッと整備しておけば、その後はさほど手が掛からない。そうであってこその「最善か無か」だ。
万人にオススメするわけではないが、本当の「最善か無か」を日々体感したい粋人には強くオススメめしたい選択肢である。そしてわたし自身、そういった「Das Beste oder nichts」な空間に身を置くことを習慣とすれば、過日のような「事件」が起きた際にも決して中途半端な対応はしない、立派で鷹揚な人間になれるのではないか……とも思っている。
【関連リンク】
往年のメルセデス・ベンツ Sクラスを見るtext/伊達軍曹
photo/ダイムラー、photo AC
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