「逃げるなよ!追われるぞ」 元問題児の”やんちゃ和尚”、韓国で説法
愛知県岡崎市の浄土宗「西居院」の住職、”やんちゃ和尚”こと廣中邦充さん(61歳)が、2011年10月31日から11月5日にかけて韓国を訪問した。廣中さんは自身が10代の頃、大人たちを手こずらせる「問題児」だった。僧侶となり、父親から家のお寺を継いでから約17年間、子どもや大人たちの支援活動を行ってきた。不登校や引きこもり、自傷行為などに苦しむ主に子どもたちをお寺で無償で預かったり、携帯電話のメールや直接会って行う相談活動などを行ったりだ。これまでに心と体の健康を取り戻し、自分なりの目標をみつけ、お寺を「卒業」していった子どもや大人たちの数は約850人にも及ぶ。
そんな廣中さんの編著書『ありがとう 子どもは悪くない!』(日本標準刊)がこの1月から韓国の仏教系新聞「法宝新聞」で、韓国語版として生まれ変わり、現在連載されている。記事は回を増すごとに反響を呼び、韓国の一主婦の働きかけと、韓国仏教最大宗派「曹溪宗」傘下の「ハンナレ文化財団」による全面的な支援で、今回の訪韓が実現した。講演は、韓国入りした三十一日当日のソウル市内にある「北村(プッチョン)東洋文化博物館」を皮切りにあちこちで精力的に行われた。ソウル市近郊の京畿道(キョンギド)にある仏教系私立高校の「クァンドン高校」や、青少年のための公民館「青少年文化の家」、日本の拘置所に当たる「水原(スウォン)矯導所」などだ。中でも子どもたちを相手に講演を行った、クァンドン高校は印象深い。会場となった教室には、「問題児」が多いと言われる同校の、仏教サークルに所属する高校1、2年生を合わせた約30名が集まった。
廣中さんの講演スタイルは独特だ。時に威勢よく、時に静かに、また時に元気いっぱいの声と笑顔で参加者たちに語りかけ、問いかける。会場をあちこち歩き回り、参加者たちと握手を交わし、個人的な言葉を交わす。同校の生徒たちはそうした「廣中スタイル」にまず度胆を抜かれ、いっぺんに笑顔となった。そしてすっかりこの「面白いおじさん」に興味を持ったようだ。
同高での講演では、夫のDVからお寺に逃げてきた17歳の母親と9ヶ月になる子どもや、自殺寸前で携帯電話に連絡をよこした子どもなどの話をし、命の大切さを説いた。そして苦しくても、
「逃げるなよ~!逃げれば追われるぞ。もう一歩足を前に踏み出そう。大人も逃げれば追われるんだ。一歩、前に進もう」
と訴え、最後は日本仏教の教えにある「五戒」を説いて締めくくった。
「仏様と約束をしよう。殺すな、嘘をつくな、盗むな、お酒はほどほど、男女の交際もほどほどに」
韓国は日本よりも競争社会だと言われる。「受験戦争」の中にいる生徒たちは廣中さんの話を食い入るように聞いていた。講演が終わると教室には割れんばかりの拍手が沸き起こり、生徒たちはその場をなかなか離れようとしなかった。一緒に講演を聞いていた教員の話では、生徒たちの多くが「逃げるなよ!逃げれば追われるぞ」の言葉にもっとも感動していたという。
廣中さんは、
「『問題児』の多い学校と聞いていましたが、宗教系の高校だからでしょうね。仏様が見守ってくれている、というのが子どもたちの心の根本にあるように思います。だからみんな顔が柔和で、それほど突っ張っている子がいないように思いました」
と言う。また、今回の訪韓での全般的な印象を尋ねると、
「韓国が大好きになりました。素晴らしい出会いができました。それと、やっぱり日本の宗教者がもっとがんばらないといけないと痛切に感じました。韓国では宗教が文化に根付いています。それを日本はもっともっと学ばなければいけないだろうし、宗教者が先頭に立たねばいけないと思いました」
と話す。
すでに次回は韓国のお寺で、廣中さんと、お寺の子どもたちを招待し、韓国の仏式伝統食などを体験してもらおうか、といった話が現地で出ている。今後の展開が楽しみだ。
(ルポライター西村仁美)
【関連記事】
「今後の津波防災教育に”釜石の奇跡”を活かして」
ダライ・ラマ「何かを決めるとき一面だけを見てはダメ。原子力についても同じ」 会見全文
ビジネスマンが「知的な会話」をする方法 ベストセラー作家が語る「引用力」
人前で5分間語れる本はありますか? 書評合戦「ビブリオバトル」の世界
Eテレの報道に東電が反論 番組側はホームページで訂正
ウェブサイト: http://news.nicovideo.jp/
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。